モデルケース「死後事務委任契約の活用」

モデルケース「死後事務委任契約の活用」

1.死後事務委任契約の活用

(1)死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは、人が亡くなった直後の事務を、第三者に託す契約です。

「人が亡くなった後の事務」とは、具体的には、つぎのようなものを指します。

  • 葬儀の実施
  • 火葬の実施
  • 埋葬の実施
  • 施設利用料など直近の介護費用の支払い
  • 入院料など直近の医療費用の支払い

どういったケースで死後事務委任契約が活用されるのか。

死後事務委任契約の内容や使い方はどういったものなのか。

具体的なケースをもとに、確認していきましょう!

(2)モデルケース

三島市に在住のAさん(82才。女性。)
半年前に、長年連れ添ったご主人を亡くされたばかりです。

ご主人の葬儀や供養を終えて、まだ寂しさは残るものの、少し一息ついたころです。

そうしたときに不安になったのが、つぎのようなことがらです。

〇 Aさん自身の葬儀・供養を誰に依頼すれば良いのか。

〇 ご主人の遺骨を納めた墓に自分が入りたいと思っているが、その墓の面倒は誰が見てくれるのか。

〇 Aさんが住んでいる家を誰に託せば良いのか。

というのも、Aさんとご主人とのあいだにお子さんはおらず、またご主人・Aさんそれぞれの兄弟姉妹とは、年齢を重ねて没交流の状態となっていたのです。

「自分自身の葬儀・供養」「お墓」「自宅」

こういったことを託せる人が身近には見当たらなかったのです。

2.課題の整理(死後事務委任のポイント)

(1)解決すべき課題

死後事務委任契約の具体的な内容に入る前に、あらためてAさんの課題を整理してみましょう。

  • 自身の死後、葬儀・埋葬などをまかせる人がいない。
  • 自身の死後、お墓の管理・処分を任せる人がいない。
  • 自身の死後、自宅の処分を任せる人がいない。

一昔前であれば、配偶者や子どもがいなくても、それ以外の親族がまわりに生活していて、その方たちが無償でサポートをしてくれました。

ところが社会の変化に伴い、核家族化・単身化・高齢化が進行し、死後の事務について「第三者にサポートを依頼しなければならない人」が増えてきたのです。

そうしたニーズにこたえるのが「死後事務委任契約」です。

(2)死後事務委任契約の活用

死後事務委任契約とは、ある方の死後の事務を、第三者に、あらかじめ委任する契約です。
自分が亡くなる前に、死後事務についてのお願いを第三者にしておいて、ご自身に万が一があったときには、委託を受けた第三者が死後事務を行うのです。

ポイントはつぎのとおりです。

  • あらかじめ契約をしておくこと
  • あらかじめ費用を払っておくこと
  • 「死亡」の事実が発生したときには、依頼をうけた第三者が、死後事務を行うこと

「死後事務」について悩みをかかえたAさんは、自身の見守りをしてくれている地域包括支援センターの職員Dさんに相談をしてみました。

職員Dさんは、そうした悩みに対応するのは「死後事務委任契約ではないか」と思いつきました。
以前、Dさんが職場で受講した研修会で、講師の司法書士が話をしていたのを聞いたのです。

そこで、講師であった沼津の司法書士Zに相談をしてみました。

相談を受けた司法書士Zは、死後事務委任契約について、AさんとDさんに詳しい説明を行ったのでした。

3.死後事務委任契約の効力

(1)死後事務受任者の仕事

死後事務委任契約の依頼を受けた人は、契約に基づき、死後の事務を行うことになります。

たとえば次のような事柄です。

  • 葬儀の主宰
  • 指定されたお墓への納骨
  • 四十九日等の法要の実施
  • 介護施設料や入院費用などの清算
  • 介護施設や病院からの荷物の引き取り

こうした事務を契約によって任せることで、責任をもって事務を遂行する義務が、受け手(死後事務受任者)に発生するのです。

(2)死後事務受任者と相続の関係

死後事務委任契約は、うまく活用すれば便利な契約なのですが、一方で「相続」との関係には注意しなければなりません。

ある方が死亡すると、その人の権利義務は、相続によって相続人等に引き継がれます。
本来であれば死後事務というのは、そうした権利義務を引き継いだ相続人等が行うべきともいえるのです

とはいえ、相続人に頼めないからこと死後事務委任契約を利用するわけで、こうした死後事務と相続が重複する部分については、法律専門職に相談しながら整理をしたほうが良いといえます。

当事務所においても、死後事務委任契約を締結する際には、一緒に「遺言」についても検討していきます。
【参考記事:終活としての「遺言」】

4.死後事務委任契約に必要な費用

(1)死後事務委任契約の締結にあたって必要な費用

死後事務委任契約の締結にあたっては、次の費用について考える必要があります。

① 契約書の用意など、契約締結そのものにかかる費用

② 死後事務を遂行するための費用(将来において葬儀社・お寺に支払う費用になるもの)

③ 死後事務を遂行したことによる報酬

金額として大きくなるのは②です。
たとえばAさんが亡くなった後に、相続人でもないのにAさんの預貯金口座からお金をおろすことはできません。
ところが、お金がなければ、葬儀社やお寺への支払いができず、Aさんの望む葬儀をあげることができません。

そのため、死後事務委任契約においては、将来における費用をあらかじめご本人(Aさん)から預かっておくのが通常です。

(2)具体的に「死後事務委任契約」ってどれくらいの費用がかかるの?

報酬部分(①と③)については、事務所ごと、あるいは委任を受ける事務によって異なります。
まずは、見積りを依頼してみてはどうでしょうか。

当事務所(沼津の貝原事務所)においては、平均的にはつぎのような金額で対応しております。
ただし、ご依頼人の状況やご依頼いただく死後事務の内容によって、増減がある点はご了承ください。

①:10~15万円くらい

②:15~25万円くらい

死後事務を遂行するための費用である③については、希望する事務の内容(とりわけ葬儀や供養の方式)によって大きく異なってくるでしょう。

いわゆる「直葬」で、納骨先の墓所も既に確定している案件であれば低額となります。
一方、通常の葬儀を希望し、また読経・供養などもお寺に依頼して、ということになれば相応の金額を準備し、受任者に預けておく必要がでてきます。

(3)費用面から見る死後事務委任契約のポイント・注意点

死後事務委任契約の最大の特徴は「依頼者が亡くなった後に、任された事務がスタートする。」ということです。

そのため、つぎのような点に注意しなければなりません。

  • 通常の委任契約であれば、依頼者が受任者の仕事をチェック・監督することができます。
    ところが、死後事務委任契約においては、こうした監督をするべき、ご本人は亡くなってしまっているのです。
  • 通常の委任契約であれば、契約で想定していなかった事由がおきたとしても、依頼者と受任者が相談しながら、対応を進めることができます。
    一方で、死後事務委任契約においては、依頼者が死亡しているため相談して対応することができません。結果として、求められていたことを実現できないことも発生しうるのです。
  • あらかじめ高額な金銭を受任者に支払う必要がある契約です。
    信頼できる受任者でなければ、支払いを受けた金銭を適切に管理しなかったり、逸失させたりする危険があります。

5.死後事務委任契約のメリット

(1)モデルケースにおいて

Aさんは司法書士Zから詳しい話を聞きました。

費用や手続きについて説明を受け、Aさん自身もしっかりと検討したうえで、死後事務委任契約をZと締結することにしました。

また、Aさんは、死後事務委任契約だけでは備えとして不足することも理解し、「見守り契約」「任意後見契約」もZと締結することしました。

(2)死後事務委任契約を誰に任せるの?

死後事務委任契約は、非常に有効な契約ですが、注意しなければいけない点もあります。

死後事務委任契約は、「依頼者が亡くなった後に、任された事務がスタートする。」という特殊な契約です。

そのため、なによりも信頼できる第三者と契約をする必要があります。

死後事務委任契約の相手方(死後事務を行う人)となりうるのは、つぎのような人たちです。

  • 一部の弁護士や司法書士
  • 特定の地域によっては社会福祉協議会
  • NPO団体

それぞれに強み・弱みがあると思います。
ぜひとも、比較して検討していただければと思います。

6.死後事務委任契約以外の契約の必要性について

(1)死後事務委任契約以外の契約が必要な理由

Aさんは、死後事務委任契約だけでは備えとして不足することも理解し、「見守り契約」「任意後見契約」もZと締結することしました。

その理由の説明のため、つぎの図をご覧ください。

死後事務委任契約を締結してから、死後事務委任契約が発行(ご本人が死亡)するまでのあいだには「大きな空白」があります。

また、死後事務委任契約のあとにおいても「空白」があります。

この空白は、つぎのようなことを意味します。

  • Aさんと司法書士Zは死後事務委任契約を締結した。
    ところが、定期的な交流があるわけではないので、Aさんが死亡した事実を、すぐにZが把握することができなかった。 ⇒継続的な「見守り」の必要性
  • Aさんは、ある日自宅で倒れて病院に運ばれた。脳卒中であった。
    その後遺症で認知症を発症してしまい、おひとりでは生活ができなくなってしまった。
    ⇒認知症への備え「任意後見契約」の必要性
  • Aさん死亡後、死後事務委任契約によって、無事にAさんをお寺に運ぶことはできた。
    一方で、Aさんが住んでいた家は、そのままで現在も放置されている。
    ⇒死後の財産処分「遺言」の必要性

いわゆる「ピンピンコロリ」(亡くなる直前まで元気にピンピン生活し、亡くなるときにはコロリと亡くなる。)は、誰にとっても理想的ですが、残念ながら多くの人はそうではありません。

そのため、「亡くなった直後の事務」だけを第三者に依頼したとしても、その他の課題が残ったままになってしまうのです。

そうした課題に対応するのが、つぎのような契約です。
詳しくは、是非、リンク先の記事をご参照ください。

  • 見守り契約
    往訪や電話などによって、ご本人の生活状況・身体状況を見守る契約です。
    とくに、任意後見契約とセットで活用されるケースでは、任意後見契約を発動させるタイミング(法的判断能力の低下)を見逃さないことを目的として締結されています。
    【参考記事:終活としての「見守り契約」】
  • 任意後見契約
    法的判断能力の低下に備えて、あらかじめ後見人候補者と、後見を受けることについて契約を締結するものです。
    家庭裁判所が後見人等を選任する「法定後見」とは異なり、あらかじめ自分自身の選択によって「万が一にも、法的判断能力が低下したときの後見人。」を決めておくものです。
    【参考記事:終活としての「任意後見契約」】
  • 遺言
    自身の相続に関する意思表示をするものであり、とりわけ相続財産に関する遺言は、その内容に沿って遺産の承継先が決定されます。
    【参考記事:終活としての「遺言」】