終活としての「死後事務委任契約」

終活としての「死後事務委任契約」

2021年7月2日

1.終活について考える(主に財産管理面に着目して)

「終活」の定義は様々で、一般的には「人生の終わりに向けた活動」とされます。

具体的には、相続・遺言・葬儀などの準備、身の回りの物品や思い出の整理、自分史や活動記録のまとめ、終末期における医療・介護の意思表示などがあります。

この記事では、司法書士が、主として財産管理面に関する終活に関して、とりわけ「死後事務委任契約」についてご紹介したいと思います。

2.死後事務委任契約の内容

(1)死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは、ご本人の死亡後において、葬儀・火葬・納骨などの「死後の事務」を第三者に委託する契約です。

「死後の事務」といっても、その内容は様々で、前述のような葬儀・埋葬に係る事務から、入居していた老人ホーム等の費用清算・退去手続きといった清算事務も対象とすることができます。

本来「死後事務」は相続人・親族がなすべき事柄であり、相続人や親族がいるケースでは「死後事務委任契約」の必要性が意識されるケースは少ないです。
一方で、相続人がいなかったり疎遠であったりするケースでは、「死後事務委任契約」の重要性が強く意識されます。
たとえば、つぎのようなケースです。

モデルケース

沼津市にお住いのAさん。
3年前に夫を亡くし、一人暮らしをしています。

お子様はいらっしゃらず、推定相続人はAさんの兄弟姉妹や甥・姪となっています。

ただし、推定相続人となる人たちとは数十年にわたり交流がなく、どこで・どのように生活しているのかも不明です。

Aさんは、自身の預金や不動産については「まぁ、どうにかなるだろう。」と考えていますが、
『Aさんが亡くなってから、希望する霊園に入るまでの手続き。』をどうしたら良いのかと悩んでいます。

  • 頼れる相続人や親族がいない(たとえば「おひとり様」)
  • 相続人や親族はいるけれど、いろいろな事情から、死後の事務を任せたくない又は頼りたくない。

少子高齢化・晩婚化(未婚化)など家族観の変化、また兄弟姉妹や甥姪などの親族との付き合いの変化など「死後事務委任契約」が必要となる方は、確実に増加しています。

(2)死後事務委任契約の締結

契約締結に際しては、決まった書式や方式というのはありません。

任意後見契約のように「公正証書でしなければならない」という法律はありません。
【参照記事:終活としての「任意後見契約」】

しかしながら死後事務受任者としての権限を証明するため公正証書化するのが一般的です。

また、死後事務委任契約の特殊性から、いくつか注意すべき点があります。
詳しくは、別記事でまとめていますので、そちらもご覧ください。

【参照記事:死後事務委任契約とは】

3.死後事務委任契約はどういった方に効果的か

(1)死後事務委任契約を活用したモデルケース

モデルケース

三島市に在住のXさん。

Xさんは、既に配偶者であるYさんと死別しており、子どもはいません。

相続人として「甥」や「姪」がいますが、親族付き合いが多くはないため、数回しか会ったことがなく、葬儀等を依頼する間柄ではありません。

周辺に身近な親族もおらず、Xさん自身の葬儀や埋葬をどうすれば良いのか困っていました。
葬儀形式はともかくとして、できればYさんの眠る○○寺の墓に納骨して欲しいと思っているのですが、その希望を伝え、かつ実行してくれる人が見当たりません。

そこで、司法書士のC氏との間で、死後事務委任契約を締結し、Yさんの眠るお墓に一緒に納骨してもらうこととしました。
葬儀形式についても事前に確認し、Xさんの希望を叶えることができそうです。

また、同じタイミングで任意後見契約・遺言も作成して、自身の終活を進めています。

どうでしょうか。
死後事務委任契約の使い方が何となくイメージできたのではないでしょうか?

そして、「ご自身の死亡後の手続きを、あらかじめ第三者に委任する」という死後事務委任契約を利用する必要がある方は、死後事務委任契約だけではなく、他の法制度も利用すべきケースが少なくありません。

この点については、つぎの項目で確認していきましょう。

(2)たとえば遺言や任意後見契約との組み合わせ

くりかえしになりますが、死後事務委任契約は「ご自身の死亡後の手続きを、あらかじめ第三者に委任する必要がある方」にマッチする契約です。

そして、そういった方とっては、つぎのようなニーズがあるともいえます。

  1. 認知症になって、収支管理や重要財産の管理ができなくなってしまったら、誰にサポートしてもらうのか。
  2. ご自身が亡くなった後の相続財産は、誰がどのように引き継ぐのか。
    不動産を所有していたとして、その管理・処分は誰が行ってくれるのか。

1点目に対応するのならば「任意後見契約」の活用が考えられます。

2点目に対応するのならば「遺言」の活用が考えられます。

(3)遺言を作っておけば死後事務委任契約は不要?

死後事務委任契約の対象は、死亡後も効力が存続する委任契約です。

遺言の効力とも重なる部分がありますが、あえて区別するとすれば、遺言は相続財産の分配に関する事柄が主となり、死後事務委任契約は葬儀や施設からの退去手続きなど「ご本人の最後の締めくくり」の事柄が中心となります。

なお、葬儀等に関しては遺言の付言事項の活用も考えられますが、付言事項には法的な拘束力はありません。
一方で死後事務委任契約は「事務を委任する人」と「事務を受任する人」の法的拘束力をもった約束となります。

親族がいて、かつ遺言の場所もすぐにわかるのであれば、遺言が死後事務委任契約を代替するかもしれません。
しかし、第三者に死後事務を任せるのであれば、別途契約をおこない、委任する死後事務の内容は、葬儀費用等の手当てを事前に済ませておく必要があるのです。

4.「死後事務委任契約」の締結にあたっては

(1)親族関係の変化 ⇒ 死後事務委任のニーズ増

昨今、司法書士の業務の中でも「終活」に関係する仕事が増加してきています。
その背景には、「終活」が必要である人が増加しているということが考えられます。

昔であれば、子供なり親族なりが対応してきていた介護・相続・葬儀などの各場面において、単身世帯(おひとり様)の割合が増加したことで、これらの事柄を自らの力で解決することに迫られているのです。

「死後事務委任契約」という新しいタイプの契約は、こうした時代の変化にともなって登場してきた契約と言えます。

(2)様々な制度を組み合わせる必要性

また、終活に関する法律的な制度は、いくつもの種類があります。

そして、特定の制度を利用すればOKというわけではなく、利用する方の実情に合わせて、各制度を組み合わせていくことが求められます。

とりわけ死後事務委任契約については、死後事務委任契約を単独で締結するケースは少なく、「任意後見契約」や「遺言」との組み合わせで利用するケースがほとんどです。

こうした「選択」や「組み合わせ」は、たとえネットや書籍で勉強しても難しい事柄だと思います。
各種法制度の内容を理解し、かつ実務的な使われ方を知っている法律専門家と一緒に取り組んでいくのがベターだといえます。

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