相続登記の手続き負担の軽減について

相続登記の手続き負担の軽減について

2021年2月28日

1.相続登記の義務化?

最近のニュースで「相続登記の義務化」ということが話題になりました。
これは、法務省の法制審議会(民法・不動産登記法部会)において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されたことに起因します。

法制審議会では、一定の政策課題(今回は「所有者不明土地」)に対応するための仕組みづくりとして、民法や不動産登記法の改正が検討されました。その検討結果がまとまり、相続登記義務化などが要綱に盛り込まれたというのが正確な内容です。
上記の要綱案は、改正法案の骨子となるもので、今後、国会での審議を経て実際の法律に反映されていくこととなります。

従い、この記事を書いている令和3年2月段階では「この方向性で法律改正が予定されているよ。」という状況です。
法改正もまだですし、実際に、改正された法律の効力が発生し、「相続登記が私たちの義務」となるのは、もう少し先のこととなります。

2.相続登記手続きの負担軽減

上記要綱案においては、相続登記の義務化だけではなく、相続登記の手続き負担を軽減するために、現行の申請プロセスを変更することが提案されています。

(1)遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化

登記原因が「遺贈」となる場合には、現在の登記手続きにおいては、受遺者(遺贈を受ける人)と相続人全員(または遺言執行者)が共同で登記申請を行う必要があります。
登記原因が「相続」となる場合には、所有権を承継した人が単独で登記申請できるので、非常に大きな違いです。

とりわけ、遺言書において「遺言執行者」が定められていない場合には、相続人全員の関与が必要となるため、相続人に協力を依頼したり、場合によっては裁判所に遺言執行者の選任を申立てたりと、手続きが複雑となります。
要綱案においては、受遺者が相続人である場合に限り、単独での申請を認めるべきではないかと提言しています。

(2)法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化

現在の登記手続きにおいても、相続人の1名から、相続人全員のために、法定相続分による所有権移転登記を申請することができます。
相続人がA・B・Cと3名いた場合に、Aが単独で、A・B・C3名の名義(各持分は法定相続分による。)で登記することができるのです。

ただし、後日、3名の相続人の間で遺産分割協議が成立してAが単独で所有権を取得する結果となった場合には、Aを登記権利者、B・Cを登記義務者として共同で所有権移転登記(B・Cの持分をAに移転させる)を行う必要があります。

要綱案では、相続人に登記義務を課す関係で、法定相続分による登記が増加することが予想されます。
そのため、後日、法定相続分から遺産分割協議等の結果を反映する登記を行う場合に、手続きが簡単になるよう、持分を取得した相続人からの単独申請(かつ持分を移転ではなく更正する登記)を認めるべきだと要綱案は提言しています。
このほか、単独申請(更正登記)を認めるべき場合として、つぎの3つがあげられています。

  1. 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
  2. 特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
  3. 相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記

3.どうなる相続登記

(1)相続登記の件数は増加する?

相続登記が義務化されることによって、ある程度、相続登記の件数は増加することになるでしょう。
また、手続きの簡略化によって、これまではあまりなされていなかった「法定相続分による相続登記」が増加するようにも思います。

司法書士としても、これまで相続登記の相談を受けた際には「相続登記に期限の制限はありませんよ」とご案内していたのを改める必要があるかもしれません。

(2)協議が整わない場合には?

相続登記が義務化された場合に、相続人間での協議が整わない場合には、どうすればよいのでしょうか。

対応策の1つ目は、法定相続分による登記を相続人の1人から申請してしまうという方法です。
現状では、後日に必要となる登記手続きを複雑にさせるため、何かしらの事情がない限りは選択しない方法なのですが、要綱案のように登記実務があらためられた場合には、より選択できる方法になると思います。

ただし、相続人全員の戸籍等を集める必要がある、申請人が登録免許税を負担する必要があるといった点は、なお考慮すべきです。

対応策の2つ目は、新たに創設される予定の「相続人申告登記(仮称)」を利用する方法です。
これは、相続人の1名から、法務局に申出をすることによって、登記名義人に相続が発生したことと、申出人の住所・氏名等を記録するというものです。
申出をすることによって、相続登記義務を果たしたとみなされます。

この方法であれば、1つめの法定相続登記のように、相続人全員の戸籍を集めたり、登録免許税を負担したりということにはならないはずです。

(3)まとめ

繰り返しになりますが、いずれも要綱案をベースに記載したもので、はたして上記の内容がいつ法改正により実行されるのか、はたまた要綱案通りに法改正がなされるのかという点は現時点では不分明です。

しかしながら、所有者不明土地という現実に発生している重要課題への対応の必要性は待ったなしであり、ほぼほぼ要綱案どおりで、早晩法改正がなされるのではないかと考えています。

要綱案の内容は、いずれも現在の相続登記実務に大きな影響を及ぼすものであり(じつは相続登記だけではなく、その他の点においても非常に重要な改正が含まれています。)、しっかりとフォローアップして、かつ市民の皆さんに情報提供できるようにしていきたいです。

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