遺言の書換えや撤回の可否について

遺言の書換えや撤回の可否について

2021年3月22日

1.一度書いた遺言は書き直せない?

(1)遺言の書換えや撤回は可能です

一度作成した遺言の内容を変更したり、撤回することは遺言者の自由です。

想定していた相続関係が変化した、あるいは遺言者の財産状況に変動が生じた、はたまた気持ちが変わったなど理由を問いません。

(2)場合によっては「遺言の書き直し」は推奨されるべきこと

むしろ、相続関係や財産状況が大きく変化した場合には、遺言の変更は推奨されるべきことです。

たとえば、相続人であり、遺産の大部分を承継させる予定であった長男が先に亡くなってしまったケースを考えてみましょう。
この場合、相続人の資格は、長男に子供がいれば、その子(遺言者からみると孫)が代襲相続することになりますが、遺言中で「長男に相続させる」と記載されている箇所を自動的に「長男→孫」と読み替えてくれる規定はありません。
したがって、「長男に相続させる」と記載した部分を「長男の孫に相続させる」と書き換える必要が生じてくるのです。

ほかにも、所有している不動産を売却して預貯金が増加したとか、逆に不動産を購入したため資産の内訳が変更になった場合にも、遺言の書換えは推奨されるべきです。

相続争いを避けるため、遺産分割の手間を省くために、遺言は積極的に活用されるべきものであり、早期にそうした準備をした場合には、状況の変化に合わせて遺言の書き直しが求められるのです。

2.遺言の書換えや撤回をする際の注意点

(1)遺言の方式によること

遺言の書換えや撤回は、遺言の方式によって行う必要があります。

なお、公正証書の方式によって作成した遺言の書換えや撤回を行う際に、書換えや撤回も公正証書遺言によらなければならないというわけではありません。
書換えや撤回を自筆証書遺言の方式により行ってもOKです。

ただし、相続人らに混乱が生じることが内容に、「遺言のどの部分を変更したのか」「遺言のどの部分を撤回したのか」が明確になるようにする必要があります。

遺言を作成する段階でも言えることなのですが、やはり遺言に関する事柄は法律専門職に依頼をしながら、二人三脚で進めていくことを強く推奨いたします。
当然ながら、ご自身が亡くなった後に、ご自身の遺言を修正することはできません。

法律専門職に相談しながら、遺言者の狙い通りの、かつ法的にも正確な内容の遺言を作成しましょう。

(2)変える箇所や撤回する内容を明確にすること

書換え等を行う場合には、変更箇所・撤回箇所が明確になるようにしましょう。

個人的には、遺言の一部を修正する場合でも、前回作成した遺言は完全に撤回し、改めて新しい遺言を作成するほうが混乱が少ないと考えています(ただし、公正証書遺言のケースでは、作成手数料も気にされているのか、一部変更にしている遺言をよく目にします。)。

(3)遺言の前後を明確にすること

とくに自筆証書遺言について言えるのですが、相続人が預かっていた遺言が一部変更前の遺言で、変更内容を記載した遺言は当初認識されておらず、具体的な遺言執行に着手する直前で発見されるというケースを経験したことがあります。

一部変更したケースなど、複数の遺言に効力を持たせる場合には一緒に保管して、発見されやすい状況をつくっておくことが重要だと考えます(この点は、遺言の撤回や変更の場面に限らず、およそ遺言を残す場合に検討されるべきことともいえます。)。

3.法務局による遺言書保管手続きの利用を!

公正証書遺言の場合には、正本を公証役場で保管しており、また遺言の有無を検索することも可能となっています。
一方で、自筆証書遺言については、原本を遺言者が保管するのが通常であり、そのため紛失したり、死亡後において発見されないということも生じえます。

そうした自筆証書のデメリットを補う制度として、法務局による遺言書保管手続きが創設されています。詳細は別記事にて記載しますが、この制度を利用することにより、自筆証書遺言の保管と検索が可能となります。
自筆証書遺言の作成を検討されている方は、是非、この制度の活用を検討してみてはどうでしょうか。

【参考記事:法務局による自筆証書遺言の保管について】

ただし、筆者(司法書士)のスタンスとしては、そもそも自筆証書遺言よりも、公正証書遺言による遺言の作成を推奨しております。

【参照記事:自筆証書遺言と公正証書遺言の比較】