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1.相続放棄とは
(1)相続放棄=「相続人としての資格の放棄」
相続放棄とは、相続による権利義務の承継を拒否することであり、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」をすることで行うものです。
そして、相続放棄をすると、相続放棄をした者は「当初から相続人ではなかった」ことになります。
(2)「相続財産をもらわないこと」とは違う!
当事務所にご相談いただく方の中に、つぎの2つを混同される方がいらっしゃいます。
- 相続人としての資格を放棄すること(正しい意味での「相続放棄」)
- 相続財産を受け取らないこと(相続できるはずの財産を「放棄」するという表現。)
この2つを勘違いしていると、つぎのような「相続関係の変動」を引き起こしてしまうことがあります。
2.相続放棄のよる順位変動
(1)本来の意図とは異なる「相続放棄」
相続放棄をおこない、同順位の相続人全員が相続人でないことになると、次順位の親族に相続資格が移ります。
これにより、当初の相続関係から思わぬ変動が起きることがあります。
被相続人はAさん。
相続人は、妻Bさんと、子C、D。
Aさんの父母・祖父母はすでに死亡しており、兄弟姉妹としてEさんがいるがAさん一家とは疎遠であった。
相続人であるB・C・Dは、Bに遺産を集中させようと、C・Dがそろって相続放棄をすることにした。
C・Dは家庭裁判所に相続放棄の申述をおこなった。
(2)次順位の相続人が登場することも!
この事例において、子Cのみが相続放棄をした場合には、順位変動は生じません。
一方で、Cのみならず、Dも相続放棄した場合には、子全員が相続人で亡くなるため、相続第二順位の直系尊属(父母、祖父母)が相続人となります。
上記事例では、父母、祖父母は既に死亡しているため、相続第三順位の兄弟姉妹、すなわちEさんが繰り上がりで相続人となってしまうのです。
3.相続放棄の誤った利用方法に注意!
(1)遺産を集中させる目的での「相続放棄」にはご用心!
お客様のなかには、1人の相続人に遺産を集中させる目的で「相続放棄」を利用する方がいらっしゃいます。
しかしながら、上記事例のとおり、相続放棄によって同順位の相続人がいなくなった場合には、次順位の相続人が登場することになります。
結果として、上記事例においては、妻Bと弟Eとが相続人となってしまい、この2人での遺産分割協議を行うこととなります。
もちろん弟Eも相続放棄をしてくれれば、当初の目的をはたしたことになりますが、それはEの気持ち次第ということになるのです。
(2)遺産分割協議の中で対応することも可能
さまざまなケースが考えられるので、具体的な事案ごとに適切な方法を判断することになりますが、さきほどのモデルケースにおいては、たとえば「B・C・Dの3名で遺産分割協議をして、Bが全財産を相続する。」という方法でも、当事者の希望をかなえることは可能です。
もちろん、遺産分割協議に参加したくない(相続人として手続きに関与することを拒否している)とか、相続した債務の関係で放棄をしたいなどのケースでは、相続放棄の手続きを選択するべきことになります。
とはいえ、そうしたケースにあっても相続放棄をする際には、相続順位の変動が生じる可能性を考慮することが重要です。