相続放棄と3カ月の期間制限

相続放棄と3カ月の期間制限

2021年3月18日

1.相続手続きと期間の制限

相続手続きにおいて、お客様から「○○日以内に手続きをしなければいけないものがありますか?」というご質問をよくいただきます。

こうした手続きにはいくつかあるのですが、弊所では、特に次の4つについて、ご案内するようにしています。

  • 亡くなった方(被相続人)が年金受給者であった場合には、年金受給停止の手続き
    (厚生年金は10日、国民年金は14日以内。)
  • 被相続人が個人事業主等で確定申告を必要としていた場合には、準確定申告の手続き(4カ月以内)
  • 相続財産の総額が相続税の基礎控除以上である場合には、相続税の申告手続き(10カ月以内)
  • 相続の放棄をする場合(3カ月以内)

今回の記事で紹介するのは、4つめの「相続放棄」に関する期間制限です。
「相続放棄」の期間制限の特色は、期間制限のカウントの仕方について様々な考え方があって、単純に「死亡日から3カ月以内」というわけではないということです。

2.相続放棄の手続きは「死亡日から3カ月以内」が原則!

相続放棄の手続きは、管轄の家庭裁判所に対して「相続放棄の申述書」を提出して行います。
ただし、相続放棄の申述が可能であるのは、法律上「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にしなければならないと定められています。
この期間を「熟慮期間」というのですが、「自己のために相続の開始があったことを知った時」の判定は、次の2つの条件を満たしたときとされています。

  1. 相続開始の原因事実(被相続人の死亡など)を知ったこと
  2. それによって自己が相続人となったことを認識したこと

したがって、被相続人が死亡した事実を知らなければ、期間のカウントはスタートしません。また、被相続人が死亡したことは知っていたけれど、自分が相続人とは思っていなければ、この場合も同じく期間のカウントはスタートしません。
「自分が相続人となったことを知らないケースなんてあるの?」と思われる方もいるかもしれませんが、つぎのような事例では、こうしたことが起こりえます。

【事例】

被相続人Aの死亡後、Aの子供全員が相続放棄した。相続放棄によって、子供全員は、最初から相続人ではなかったことになるので、相続人の資格はAの兄弟姉妹に移っていた。被相続人の兄弟姉妹たちは、子供たち全員が相続放棄したことを知らなかった。

3.熟慮期間のカウントがスタートしないケース

(1)相続財産が全くないと誤認した場合

以上が原則となるのですが、過去の最高裁判所の判断をもとに、実務上は、さらに広い範囲で期間のカウントが繰り下がるケースがあります。
それは、次の条件を満たした場合です。

  • 上記2①②の事実は知っていたけれど、被相続人に相続財産が全くないと誤認していた。
  • 加えて、被相続人との交流状態等から相続人において財産調査をするのが困難であったなどの事情があり、上記誤認について相当な理由があった。

以上は、最高裁判所が昭和59年に示した判断の要旨となります。「相当な理由」の有無は、事案ごとに判断されることとなります。

(2)一部の財産の存在を知っていた場合には?

加えて問題となるのが「相続財産の一部については認識があったが、債務は存在しないものと誤認していた。」という場合をどう取り扱うのかという点です。
この点については、明確な判断が示されておらず、熟慮期間の繰り下げを認める裁判例もあれば、認めない裁判例も存在しています。

4.熟慮期間経過後の相続放棄について

(1)家庭裁判所のスタンスに注意!

以上のように、熟慮期間のカウントについては、様々な考え方があり、一定の基準が示されていません。
本来であれば、相続放棄の申述を家庭裁判所が受理する前に、当事者に細かな資料を提出させたうえで判断すべきなのですが、そんなことをしていたら家庭裁判所がパンクしてしまいます。
そのため、形式的に見れば熟慮期間を経過した後になされた相続放棄の申述について、家庭裁判所は「相続放棄の実質的要件を欠いていることが、提出された書面上で明白でない限りは、とりあえず受理します。不服のある者(とりわけ債権者)は、別途裁判を提起して相続放棄の無効を主張してね。」というスタンスで対応しているのです。

(2)熟慮期間経過後の相続放棄は慎重に

したがって、あきらかに熟慮期間を経過されると思われるような申述書を家庭裁判所に提出しなければ、相続開始を知ってから3カ月以内であっても、相続放棄の申述書は受理されるのです。

ここで、申述書が受理されたからといって安心するのは早計です。
実情を知る債権者が別途訴訟を提起し、相続放棄の無効を主張してくるケースもありえます。

申述に際しては、事実を正確に記述するよう注意が必要です。
そのうえで、申述段階で受理を拒否することが予想されるケース、申述受理がなされても別途裁判で債権者が争ってくることが予想されるケースでは、なお慎重な対応が求められるでしょう。