終活としての「民事信託」

終活としての「民事信託」

2021年7月2日

1.主に財産管理について

「終活」の定義は様々で、一般的には「人生の終わりに向けた活動」とされます。

具体的には、相続・遺言・葬儀などの準備、身の回りの物品や思い出の整理、自分史や活動記録のまとめ、終末期における医療・介護の意思表示などがあります。

この記事では、司法書士が、主として財産管理面に関する終活に関して、とりわけ「民事信託」についてご紹介したいと思います。

2.民事信託の内容

(1)民事信託とは

民事信託とは、家族や親族の中で設定される信託のことを指します。

そして、終活としての財産管理の場面においては、特定の財産について、家族又は親族に対して、その管理処分の権限を与えることいいます。「信じて託す」という言葉のとおり、委託者(託す人)と受託者(託される人)との信頼関係が重要となります。

近年、民事信託が重目される理由としては、自由度の高い財産管理の委任ができること、遺言ではできないような遺産承継方法が選択できることなどがあげられます。

(2)民事信託の締結

任意後見契約と異なり、民事信託は公正証書よるべしとの法律の定めがあるわけではありません。

しかしながら、民事信託が設定されるケースにおいては、重要財産(不動産・自社株式・高額な現金など)が対象となる場合がほとんどです。
また、後見制度と異なり民事信託自体が登記されることもありません。

したがって、公正証書として残し、第三者に対しても信託の内容を明確に示すことができるようにするのが通例です。

3.民事信託はどういった方に効果的か

(1)民事信託を活用する典型例

御殿場市に在住のAさん。
将来、自身が認知症となった場合に備えて、子Bさんとの間で任意後見契約を締結することにしました。

また、Aさんは複数の賃貸物件を所有しているのですが、この賃貸物件と関連する流動資産については、受託者を子Cさんとする民事信託の対象とすることにしました。

賃貸物件については、適時即時な管理・修繕が必要となり、場合によっては売却処分することも必要になるところ、後見制度では柔軟性やスピード感に欠けると考えて、このような組合せを選択しました。

(2)後見制度との組み合わせ

一時期は「民事信託があれば遺言も成年後見制度も不要である」との強い主張を耳にすることが多かったのですが、最近は「それぞれの制度の強みを活かして、組合せで対応するべき。」との考え方が主流になっており、当事務所もその考え方に賛成です。

むしろ、原則的には遺言や成年後見制度での対応を検討すべきで、民事信託はそれを補完する制度として活用すべきだと考えていますが、組合せのバランスについては様々な考え方があると思います。

上記の例では、賃貸不動産について、民事信託として別だしにしています。

信託財産以外の財産については、任意後見契約に基づき、任意後見人(及び任意後見監督人)によって管理されることとなります。
任意後見人としての監督権限と、民事信託の受託者との権限は、一部重複するところがあります。この重なり合いをそれぞれの契約で整理しておく必要があります。

4.民事信託等の利用にあたっては専門家への相談を

(1)親族関係の変化、高齢化の進行

昨今、司法書士の業務の中でも「終活」に関係する仕事が増加してきています。
その背景には、「終活」が必要である人が増加しているということが考えられます。

昔であれば、子供なり親族なりが対応してきていた介護・相続・葬儀などの各場面において、単身世帯(おひとり様)の割合が増加したことで、これらの事柄を自らの力で解決することに迫られているのです。

また、認知症などが原因で法的判断能力が不十分となり、ご自身の財産管理の問題に直面する方も増加しています。

(2)様々な制度を組み合わせる必要性

終活に関する法律的な制度は、いくつもの種類があります。

そして「この制度だけを利用すればOK」というわけではなく、利用する方の実情に合わせて、各制度を組み合わせていくことが求められます。

上記の例でも「民事信託」と「任意後見」を組み合わせて活用しています。
こうした「選択」や「組み合わせ」は、たとえネットや書籍で勉強しても難しい事柄だと思います。

各種法制度の内容を理解し、かつ実務的な使われ方を知っている専門家と一緒に取り組んでいくのが効率が良いでしょう。

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