遺言書・遺書の作り方について

遺言書・遺書の作り方について

2022年7月24日

1.遺言の役割と注意点

(1)遺書?遺言書?

遺書(いしょ)・遺言書(ゆいごんしょ)というと、皆さん、いろいろなことをイメージされるでしょう。

この記事では「遺言」(ゆいごん)という言葉を、
「ご自身の財産を、ご自身の死後において、どのように引き継ぎたいか。」を書き残した書面という意味で利用します。

ちなみに、法律(民法)においては「いごん」という読み方が正確とされますが、「ゆいごん」と読む方もいらっしゃいます。
筆者(司法書士)も、一般の方向けのセミナーでは「ゆいごん」と言うようにしています。

この記事では、基本的には「遺言(ゆいごん)」という言葉を使って、説明を行っていきます。

(2)遺言の役割

遺言の役割は、いくつかありますが、この記事で注目するのは「相続させる人や財産を指定する」という役割です。

相続手続きにおける遺言の役割を理解する際には、遺言のない相続をイメージするのが一番です。

遺言のない相続はつぎのように進んでいきます。

  1. ある方が亡くなる = 相続が始まる
  2. 法律上で定められた「相続人」が、遺産を引き継ぐ。
  3. 相続人が複数いる場合には、遺産の分け方について、相続人同士で話合いをして決める。
    (例:不動産・預貯金)
  4. 話合いが確定することで、最終的に、「誰が」「何を」引き継ぐのか決まる。

遺言を正しく作成すると、相続手続きが、つぎのように変化します。

  • 相続人以外の人にも、遺産を引き継がせることができる。
    (いわゆる「遺贈」)
  • 相続人同士の話合いを省略させることができる。
    (遺産分割協議をスキップ)

(3)遺言の作成の注意点

遺言は、その記載方法が、法律(民法)によって厳密に定められています。
そのため、誤った書き方をすると、遺言としては無効となってしまうのです。

逆にいうと、法律の決まりに沿った書き方をしていれば「チラシの裏に書いた遺言」であっても、遺言として扱われることなるのです。
(法律では、「遺言は、ちゃんとした紙に書きなさい。」とは規定されていません。)

2.遺言の種類と選び方

(1)自筆証書遺言と公正証書遺言

遺言には、その作成方法によって、いくつかの種類があります。
種類ごとに、作成する方法や、遺言の内容を実現する手続きに違いがあります。

ここでは、よく利用される2つの方式をご紹介します。

  • 自筆証書遺言
    遺言をのこす人が、全文・日付・氏名を自書して、それに押印する方法です。
    所定の条件を満たすことで、相続財産の目録については、自書でなくても良いとされています。
  • 公正証書遺言
    証人2人の立会いのもと、遺言をのこす人が内容を公証人に伝え、それをもとに公証人が公正証書を作成します。公正証書の内容を確認し、最後に、遺言をのこす人・証人2名・公証人の合計4名が署名押印します。

こうしてみると「自筆証書遺言が簡単にできて良いね!」と思われるかもしれませんが、筆者(司法書士)は圧倒的に「公正証書遺言」による遺言の作成をオススメしています。

(2)公正証書遺言をオススメするわけ

筆者をはじめとする司法書士は、さまざまな場面で、遺言に関係しています。

  • 遺言作成のサポート
  • 遺言による遺産承継
  • 遺言による相続登記(相続による不動産の名義変更)

とりわけ件数が多いのが、遺言による相続登記です。
この遺言による相続登記の場面で苦労するのが、自筆証書遺言なのです。

自筆証書遺言の場合、皆さんが感じたように「非常に簡単に作成ができる」というメリットがあるのですが、その一方で、つぎのようなデメリットがあります。

  • 相続手続きを開始するにあたって、検認または検認類似の手続きが必要となる。
    【参照記事:自筆証書遺言の検認手続について】
  • 法律で定められた様式を守っていないために、無効になることがある。
  • 記載内容が明確でなかったり不十分だったりして、遺言の内容を実現するステップでトラブルになる。

そんなわけで司法書士は、公正証書遺言をオススメするのです。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較については、つぎの記事もご参照ください。
【参照記事:自筆証書遺言と公正証書遺言の比較】

3.遺言の内容の決め方(「誰に」「何を」相続させるか)

(1)選択した方式に沿って遺言を作成する

遺言の内容について考える前に、遺言は、法律で決められた方式に沿って作成しなければならない点に注意しましょう。

とりわけ自筆証書遺言の場合には、ご自身で遺言の方式を確認しながら作成していく必要があります。

公正証書遺言の場合には、公証役場において、公証人の案内にしたがって作成を進めれば、方式違反の遺言が作成される可能性は、ほぼゼロになるでしょう。

(2)まずは相続財産を整理する(財産目録の作成、相続税の検討)

「誰に」「何を」相続させるか検討する前に、ご自身の相続財産が何であるのかを確認することが重要です。

この検討を抜かしてしまうと、つぎのような危険があります。

  • 遺言に記載のない遺産が発生してしまう。
    そうなると、相続手続きを忘れられてしまったり、あらためて相続人の話合いが必要になったりしてしまう。
  • 相続人同士でのバランスを考えて作成された遺言のバランスが崩れてしまう。

何ごともそうなのですが、まずは全体を確認してから、細かな点を決めていくことが重要になります。
全体を確認するのに役立つ「財産目録の作成」については、つぎの記事をご参照ください。
【参照記事:終活(相続対策)としての財産目録の作成】

さらに、相続財産の金額によっては「相続税」について検討する必要性もでてくるかもしれません。
【参照記事:遺産承継と相続税の申告について】

(3)「誰に」「何を」「どれくらい」(人・モノ・割合の指定)

相続財産の確認ができたら、いよいよ具体的に「誰に」「何を」「どれくらい」相続させるのか決めていきます。

自分自身の相続人に遺産を引き継がせるときには「相続させる」といいますが、相続人でない人に遺産を引き継がせるときには「遺贈する」といったり、「人」「モノ」によって細かな言葉の使い分けが必要になってきます。

また割合で相続させる場合には、割合の示し方や、端数の処理についても考慮する必要があります。
不動産の場合には、登記をする際に「〇〇分の〇〇」という記載をする必要があるため、遺言においても「〇〇分の〇〇」という記載をするのが通常です。
預貯金の場合には、「〇〇%」と表記しても良いかもしれませんが、端数の処理について記載する必要があるでしょう。

ここで、とくに注意すべき点として、2つあげさせていただきます。

  • 遺産の承継手続きを行う際に困ることがないように、「人」「モノ」「割合」を正確に記載すること。
  • 遺産を承継した人たちが、遺産を活用する際に、困ることがないようにすること。

具体的な話をはじめるときりがないのですが、例をあげると、つぎのようなことです。

  • 「子に実家をあたえる」と遺言に書いてあった・・・
    (子が複数の場合は?実家とは建物のことか、敷地まで含むのか?)
  • 「子3人に、土地1筆を均等割合で相続させる。土地上の建物は、長男に相続させる。」と遺言書に書いてあった・・・
    (長男としては、土地も単独で所有したかった。他の子2人も、土地を共有などしたくなかった。)

(4)遺留分について

遺言の記載の際に、よく話題にあがるのが「遺留分」(いりゅうぶん)です。

遺留分とは、亡くなられた方(被相続人)の相続財産について、法定相続人が一定割合の金銭を取得することを保障する制度です。
たとえば、つぎのようなケースを考えてみましょう。

モデルケース

沼津市に在住のAさんは、次のような遺言をのこしました。

「老後の面倒を見てくれた知人Cさんに、私の全財産を遺贈する。」

ちなみに、Aさんには、相続人である子Bさんがいます。
AさんとBさんは、あることがキッカケとなり絶縁状態にありました。

この場合、相続人であるBさんは、遺産を何も受け取りません。
ただし、遺留分の権利を持っていれば、Cさんに対して一定額の金銭を払うように請求することができるのです。

遺言の作成に際して、遺留分をどの程度考慮するかはケースバイケースの問題であり、非常に悩ましい点です。
【参照記事:遺留分侵害額請求権について】

4.遺言の内容が実現されるように(遺言執行について)

(1)遺言の内容を実現するのは誰か?

遺言書は、結局のところ、遺言をのこされた方の意思(思い)を記載した文章です。
その意思を現実に反映させるためには、遺言の内容を実現するための手続き(遺言執行)を行う必要があります。

この遺言執行の手続きを行うのは、原則的には「相続人」となります。
そのため、つぎのような課題が発生することがあります。

  • 相続人が複数いるため足並みがそろわず、手続きがなかなか進まない。
  • (相続人以外の人に遺贈する場合)相続人にメリットがないので、相続人が協力しない。
  • 遺産相続という複雑な手続きに、相続人が対応しきれない。

そのため、遺言の作成に際しては「遺言執行者」(いごんしっこうしゃ)という人を指定することをオススメします。

(2)遺言執行者の役割

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理など遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務をもつ人です。
遺言執行者は、遺言で指定することもできれば、あとから家庭裁判所に選任を請求することも可能です。

遺言執行者になるのには、特別な資格は不要です。
そのため、相続人のうちの一人を遺言執行者とすることも可能です。
選任のパターンとしては、つぎのようなものがあります。

  • 相続手続きを中心的に進めるであろう長女(または長男)を遺言執行者に指定する。
  • 相続人では、相続手続きを円滑に進められない可能性があるので、法律専門職(弁護士や司法書士)を遺言執行者に指定する。

5.遺言の作成と専門家の役割

(1)遺言の作成には注意が必要!

ここまで、遺言の作成について、簡単に確認してきました。

「これなら自分でも遺言が書けそうだ!」と思う方もいれば、「もう少し勉強しないと書けないかな。」という方もいるでしょう。

あらためて、遺言を作成する際の注意点を確認しておきましょう。

  • 遺言の方式は、法律によって厳密に決められている。
  • 遺言の内容は、明確に記載しなければならない。
  • 遺言の内容は、遺言を実現する時の手続きにも配慮して決めなければいけない。

このほかにも、相続税や遺言執行者など、ケースバイケースで注意しなければいけない点は増えていきます。

(2)法律専門職のサポートを受けることをオススメ

インターネットで「遺言 文例」などと検索すると、記載例を紹介しているサイトがたくさん出てきます。
同じように「遺言 書き方」で検索をすれば、遺言作成に際して注意すべき事項を丁寧に教えてくれるサイトがでてきます。

こうした情報を利用すれば、形式的には有効な遺言書が完成するかもしれません。
それでも、筆者(司法書士)の立場からは、ぜひとも遺言の作成にあたっては法律専門職のサポートを受けることをオススメしています。

その理由はつぎのとおりです。

  • 万が一、間違いがあったとしても、自身が亡くなった後では遺言を修正することはできない。
  • 相続させるモノの記載などは、ケースバイケースであり、文例を丸写しすれば良いというものではない。
  • 遺言執行の場面まで考えると、インターネットの情報は「一般向け」のものであって、皆様の個々の事情に則した内容にはなっていない。

遺言は、皆様の大切な財産の行く先を決める、非常に重要な書面です。
くわえて、適式な遺言をのこすことは、遺産を承継する相続人にとっても大きなメリットがあります。

自分のこと、相続人のことを考えたときには、形式的に正しいだけではない「しっかりとした遺言」をのこしていただきたいです。

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