相続登記の義務化と「とりあえず共有」問題

相続登記の義務化と「とりあえず共有」問題

2021年7月2日

1.相続登記の義務化

令和3年4月に民法・不動産登記法等の改正法案が成立し、「相続登記の義務化」がなされることとなりました。

2024年4月からは、「相続登記の義務化」=「相続登記を怠ると罰則をかされる」ということになります。

「相続登記の義務を果たした」と言えるのは、つぎの3つの場合です。

  • 相続発生後、法定相続登記または遺産分割協議等に基づく相続登記を行った。
  • 法定相続登記のあと遺産分割協議を行った場合には、さらに遺産分割協議に基づく相続登記を行った。
  • 相続申告制度に基づく申出を法務局に対して行った。

2.法定相続登記や相続申告制度について

(1)相続申告制度に基づく申出をすればOK?

このうち、3つめの「相続申告制度に基づく申出」とは、とりあえず相続開始の事実と自身が相続人であることを申出あることで、義務違反による罰則を回避するものです。

相続人全員を手続きに関与させる必要がなく、添付すべき書類も少なくなるため、「相続登記」の手続きと比較すると取り掛かりやすいものといえます。

しかしながら、この申出には「相続登記」と異なり権利変動を公示する機能はありません。
相続登記よりも簡単にできるので「これをやっとけば全て解決!」と勘違いされる方も多いのですが、注意が必要です。

後日、不動産を売却するなどの手続きが必要になった場合には、あらためて相続登記を行わなければならないため「どうしても期限内に相続登記ができない」といった限定的なシーンで利用されるにとどまるのではないかと推測しています(令和3年6月時点)。

(2)「とりあえず共有での相続登記」

もう一つ、法定相続登記も、相続人の1名から登記が可能です。
これは法律上の相続人全員につき、相続分割合に基づいてとりあえず登記をするものです。
相続人の1名からも申請することができるので、遺産分割協議が整う前でも登記することができます。

また、相続人全員で話合いをおこなったものの、しっかりとした結論を出す前に「とりあえず法定相続分で共有することにしよう」ということで遺産分割協議書を作成し、相続登記申請をすることも可能です。

現在の実務では、法定相続登記が行われるケースは限定的で、多くの場合には遺産分割協議の結果に基づいて、最終的な遺産承継者に直接相続登記をするケースが大半です。

しかしながら、相続登記の義務化によって、早期に相続登記をなすべき必要が出てきて、それに対応するため「法定相続登記」や「とりあえず共有で相続登記」を行うケースが増えてくるのではないかと懸念していきます。

(3)「とりあえず共有」を推奨しない理由

司法書士の多くは不動産を「とりあえず共有」することを推奨しないと思います。それは、共有によるトラブルを数多く目にしてきたからです。

  • 結局、共有状態で放置してしまった。
    そのため、各共有者に再び相続が発生し、数十名が相続人として手続きに関与してくることになってしまった。
  • 不動産を売却したいけれど、共有者間の歩調が整わず売却できない。
    結果として、不動産を塩漬けにせざるを得ない。
    (そのために、共有者に相続が発生して・・・)

いずれも、事の発端は「相続時にとりあえず共有にした」ということが少なくないのです。

3.「とりあえず共有」を避けるために

(1)遺産分割協議の実施

とりあえず共有する状況を避けるためには、相続人間でしっかりと話し合いを行い「誰が不動産を取得するのか」を確定させることが胎児です。

とはいえ、遺産分割協議を円滑に実施できないケースは当然想定されます。
相続人同士で遺産承継について意見の食い違いがある場合はもちろん、認知症や行方不明などの原因によって協議そのものができない場合も考えられます。

【参照記事:相続人に判断能力が十分でない方が含まれる場合の遺産分割協議】

また、遺産分割協議がまとまったとしても、その結果を遺産分割協議書にまとめ、かつ相続人各人の印鑑証明書を揃えるという手間もあります。

(2)遺言の用意

こうした遺産分割協議の手間を省略するためには、遺言を用意しておくことが効果的です。
遺言の中で、正しく遺産の承継方法を定めてあげれば、遺産分割協議を省略して相続登記をすることが可能となります。

もちろん、遺言は相続開始前に、不動産所有者が準備する必要があります。
また「だれに不動産を取得させるのか」を真剣に考えなければ、承継者として指定された相続人を困らせることにもなりかねません。

手間も、場合によっては費用も掛かりますが、それでも事案によっては遺産分割協議を省略する大きなメリットを得ることができるでしょう。

【参照記事:公正証書遺言による相続登記】

4.是非とも司法書士の活用

相続登記の義務化によって、相続登記を所定の期間内に完了させることが求められます。
相続発生後、遺産承継手続き全体を見渡しながら、相続登記をスムーズに進める必要が生じてきたのです。

また、相続発生後にスムーズに手続きを進められないことが予想されるのであれば、相続発生前において、将来の相続登記を見越して遺言等の準備を行うべきケースもあるでしょう。

これらのケースにおいては、相続登記の専門家である司法書士を、是非ご活用いただければと思います。

関連記事
相続登記の進め方【1:はじめに】
「相続登記の進め方」シリーズ第1回は、沼津の司法書士が、相続登記の義務化・期限・流れについて解説していきます。土地・建物の所有者が亡くなったとき、その名義変更が…
office-kaibara.com
相続登記について相談するなら司法書士へ
この記事では、相続による土地・建物の名義変更(相続登記)についてお困りの方に対して、多くの方が困っている・悩んでいるポイントを確認しつつ、皆様をサポートするサー…
office-kaibara.com
遺言書・遺書の作り方について
遺書・遺言に興味がある。遺書・遺言の作成を検討している。そういった方に向けて、遺言(遺書)の作り方について記事を作成しました。実際に作成する際のポイントはもちろ…
office-kaibara.com