相続放棄の手続きについて

相続放棄の手続きについて

2021年3月18日

1.相続の開始

相続は、被相続人の死亡によって開始します。
相続人が相続開始を知ったかどうか、相続をする意思があるかどうかにかかわらず、自動的に被相続人(亡くなった方)の権利義務が相続人に承継されます。

そして、「被相続人の権利義務」には、不動産や預貯金・株式に代表されるプラスの財産ばかりでなく、借金などのマイナスの財産も含まれるため、相続したのはマイナスの財産だけだったということも生じうるのです。

マイナスの財産を強制的に引き継がされる(強制的に借金を背負わされる)というのは不合理です。
そこで「相続放棄」という制度が登場します。

「相続」は、亡くなられた方の財産(マイナスの遺産も含む)を強制的に相続人に対して引き継がせる制度です。
そうした「強制」を、相続人は「相続放棄」により拒否することができます。

相続人が、被相続人の権利義務を承継することを拒否する場合には、所定の期間内に「相続放棄の手続き」をしなければなりません。

2.相続放棄の手続きについて

(1)相続放棄の手続きは家庭裁判所に対して行う

相続放棄の手続きは、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」を行うことにより始まります。
提出すべき家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所です。

放棄に関して注意していただきたいのは、相続人同士の話し合いの中で「私は遺産を受け取らない。」「私は相続人としての権利を放棄する。」といっても、法律上の「相続放棄」には該当しないということです。

むしろ、相続人として遺産分割協議に参加し、結果的に遺産を受け取らなかったとしても遺産分割協議書に捺印を押すことは「相続の単純承認」といって、相続放棄とは反対の意思表示をしたことになりますので、注意が必要です。

(2)相続放棄の条件

相続放棄の申述を受けて、家庭裁判所は、つぎの相続放棄の要件が満たされているかどうかを審査します。

  • 熟慮期間中(自己のために相続の開始を知った時から3カ月以内)であるか
  • 単純承認事由が生じていないか

なお、申述を受けて行われる家庭裁判所の審査は、非常に緩やかなものです。

したがって、相続放棄の申述が受付された後においても、たとえば債権者が裁判において相続放棄の無効を争うことは可能ですし、現にそうした裁判は行われています。相続開始後3カ月経過してからの相続放棄については注意が必要です。

(3)相続放棄の効果

家庭裁判所が、相続放棄の申述を受理すると、相続放棄の手続きは完了です。
これをもって、相続放棄を行った相続人は「はじめから相続人ではなかった」ものとされます。

そのため、次順位の相続人が新たに相続人となったり、相続人が誰もいない(相続人不存在)状態となることがあります。

3.熟慮期間とは

相続人には、相続の承認・放棄の自由が認められています。

しかしながら、相続の効果がいつまでも確定しない状況が続くことには不都合がありますので、相続の承認・放棄は「熟慮期間」中に限り認められています。
この「熟慮期間」が経過すると、相続について「単純承認」をしたものとみなされ、相続の効果が確定的なものとなります

「熟慮期間」とは、「相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」をいいます。

【事例】
Aさんは、生まれてすぐに養子に出されて実親Bさんとはまったく交流のがありませんでした。
ある日、Aさんのもとに「Bに金を貸していた。Bは2年前に死亡している。相続により債務が引継がれているので、AさんにはBの債務を返済する義務がある。お金を返してくれ。」という内容の通知が貸金業者から届きました。

【事例への考え方】
まず、AさんはBさんの相続人にあたります。よって、Bさんの死亡により相続が開始し、Bさんの借金も含めて、Aさんが相続をしている状態にあります。

ただし、Aさんは、Bさんに相続が発生し自分が相続人になっていることは全く知りませんでした。その事実を知ったのは、貸金業者からの通知を受けたときということになります。

よって、Bさんは2年前に死亡していますが、熟慮期間のカウントは「貸金業者からの通知を受けたとき」からということになります。そこから3カ月以内であれば、問題なく相続放棄の申述は家庭裁判所に受理されるのです。

4.単純承認とは

単純承認とは、確定的に相続の効果が発生し、亡くなった方の権利義務を引継ぐことをいいます。単純承認することは、相続放棄ができなくなることを意味します。

(1)法定単純承認

単純承認は「自分は被相続人の権利義務を確定的に承継する!」という意思表示によってすることもできますし、法律で定めたいくつかの状態に該当すると、自動的に単純承認したものとみなされるケースもあります。
この「いくつかの状態」というのを「法定単純承認事由」といい、次の3つの状態を指します。

  • 相続財産の処分を行うこと
  • 熟慮期間を徒過すること
  • 相続放棄等をした後に背信的行為をすること

(2)「相続財産の処分を行うこと」とは

この点については、実は法律の解釈をめぐって争いがあるのですが、たとえば「相続した不動産を売却した」「相続した預貯金を解約して使った」「遺産分割協議に参加し合意が成立した。」などの事情は、一般的には「相続財産の処分」に該当するとされています。

※ただし、例外的に「処分に該当しない」とされるケースもあります。このほかにも、よく争いになるのが「相続預金からの葬儀費用の支出」です。

(3)「熟慮期間を徒過すること」とは

この点についても、とくに熟慮期間がいつスタートするのかを巡って法律解釈の争いがあるのですが、一般的には次の1と2に該当したときとされています。

  1. 相続開始の原因事実(被相続人の死亡など)を知った。
  2. それによって自己が相続人となったことを認識した。
  3. 1及び2を認識していても、相続財産が全くないと誤認し、かつ誤認にについて相当な理由があるときには、相続財産の一部を認識したとき。

3点目については、判例等により更に拡張された条件となりますが、事案ごとに適用の可否が問題となります。

(おまけ:限定承認について)

単純承認に関連する単語として「限定承認」という言葉があります。限定承認とは、権利義務は承継するものの、相続人が責任を負うのは積極財産(プラスの財産)の範囲内にとどまるというものです。

そう考えると「とりあえず限定承認をしておけば良いのではないか!」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、限定承認の利用件数は年間657件にとどまります。
一方で、相続放棄の件数は、225,415件です(件数はいずれも令和元年司法統計より)。

利用件数が伸び悩むのは、次のような理由があるといわれています。

  • 相続人全員が共同して申述する必要がある
  • 手続が非常に複雑である(弁護士に委任すれば、その報酬が必要となる。)
  • みなし譲渡所得税の発生
  • 相続財産(たとえば不動産)を現物にて引取るときには鑑定人の評価が必要になる
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