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この記事では、モデルケースを利用して「農地を含む相続手続き」に関するご依頼を、初回相談から課題解決まで、どのように進めていくのか確認していただくことを目的としています。
1.モデルケース ~農地を含む相続~
沼津市にお住いのAさん。
先月、父Bさんが亡くなり、遺産相続が発生しました。
Bさんの相続人は、いずれも子供であるAさん(沼津市在住)、Bさん(東京都在住)、Cさん(静岡市在住)の3名です。
Bさんは、沼津市に宅地と農地を所有していました。
相続人3名とも非農家であり、くわえて3名ともマイホームを所有しており、相続した不動産については、相応の値段で売却したいとの意向があります。
モデルケースのように、相続財産の中に「農地」が含まれる場合には注意が必要です。
農地については、農地法により次のような制限がかけられているからです。
- 農地以外の目的で利用すること
- 農地の権利を移転すること
2.初回相談の内容
(1)依頼内容の確認 ~遺産分割協議書の作成、相続登記の申請~
相続人3名の意向としては、原則として遺産は3等分すること、不動産については売却できるものは売却すること、というものでした。
この方針のもと、相続登記を含む遺産承継手続きを進めていきたいというのが、ご依頼内容でした。
(2)当事務所からの確認事項
農地を含む相続においても、まずは基本的な相続関係の確認からスタートします。
そのうえで、相続後の農地の利活用についても、相続手続きの中でお客様と一緒に確認していきます。
- 相続関係の確認
- 相続財産の状況(不動産のほか預貯金や上場株式・投資信託等の有無)
- 相続人の意向
- 相続後の農地の扱いについて
3.「農地」を相続した後のこと
(1)農地法の規制
農地は「農地法」という法律によって、権利の移転や利活用の方法が制限されています。
「好き勝手に売ったり貸したりできない」「好き勝手に農地を農地以外の方法で利用することはできない」という風に考えてください。
一方で、農地法は「相続人が相続する場合」には規制の対象外としています。
そのため、今回のケースのように、相続人が相続によって農地を承継する場合には、農地法のことを考慮する必要性はなくて、相続人が遺産分割協議によって自由に承継者を決めることができます。
ただし「相続後」については注意が必要です。
(2)相続する農地の取扱いは?
相続の際には、農地法の制限はかかりませんでした。
しかしながら、相続後においては、農地を取得した相続人は農地法の制限を受けることになります。
そのため、農地を「売りたい」「貸したい」「他の目的で利用したい」という場合には、農地法の手続きをふむ必要があるのです。
4.モデルケースでは(相続後の農地の取扱い)
モデルケースにおいては、非農家である相続人3名は、農地を売却することを希望していました。
そうなると、相続後において、農地法の手続きをとって売却という流れになるのですが、必ず売却できるわけではない点に注意が必要です。
農地法上、農地はいくつかの種類に区別されており、特定の種類の農地については転用(農地を農地以外の方法で利用すること)がほぼ不可能なものがあります。
この場合には、農地を農地として売買せざるを得なくなります(農地を宅地として売買することができない!)。
そうなると、買い手は限定されてきますし、価格についても宅地と比較すれば劣ることになるでしょう。
売却が難しければ、農地として貸し出すという方法もありますが、貸出す場合についても農地法の制限をクリアする必要があります。
いずれにせよ、当初、相続人3名が描いていた青写真とは異なる結論になりそうです。
こうした農地特有の条件を考慮しながら、遺産承継手続きを進める必要があります。