(モデルケース)農地と遺言について

(モデルケース)農地と遺言について

1.モデルケース

伊豆の国市で農家を営むAさん。Aさんの悩みは、所有する農地のこと。
Aさんには子供が3人おり、その子らが相続人となりますが、農地経営に関与しているのは次男のみです。
長男は東京で会社員として仕事をしており、地元に帰ってくる予定はありません。
長女も、結婚後は、離れて暮らしています(農家ではありません。)。
Aさんも高齢になってきて、畑仕事は次男夫婦が中心となって行っています。
一方で、年に数回帰ってくる長男と長女は、あまり農家の苦労をわかっていないのか、次男夫婦の貢献には無関心なようです。

Aさんは、自身の相続のことが心配となり、当事務所に相談にお越しになりました。

2.初回相談の内容

(1)依頼内容の確認 ~生前対策としての遺言作成~

Aさんとしては、所有する農地や実家・農業用施設・農業機械などを次男に相続させたいと考えています。
そういう気持ちがあることを3人の子供たちに残したり伝えたりしても、遺言がなければAさんの遺産(農地等を含む)は、いったん3人の子供の共有となり、最終的には遺産分割協議(相続人全員による話合い)によって、承継者を確定させることとなります。
一方で、遺言を残し、Aさんの遺産の承継者を明示してしまえば、遺産分割協議は不要となります。
「農地等は次男に相続させたい」という気持ちがあるのであれば、その旨を遺言に残すのが適切といえます。

(2)当事務所からの伺うこと・ご提示すること

「農地等は次男に相続させたい」という旨の遺言を作成するにあたっては、つぎのような事項を確認する必要があります。

  • Aさんの相続関係
  • Aさんの遺産

今回のような遺言を残す場合には、「遺留分」への配慮が必要となってきます。
「遺留分」とは、簡単に言えば「相続人に対して認められている最低限の取り分」です。
極端な話、今回のケースでAさんが「私の財産の全ては次男に相続させる」との遺言を作成したとします。そうすると、長男と長女は遺産を一切受け取れないこととなります。
この場合、長男または長女は、遺留分侵害額請求権を行使することで、遺留分侵害額に相当する金銭を次男に対して請求することができます。あくまで「できる」なので、長男や長女が遺言の内容に納得していれば、この権利を行使しないという選択も可能です。

3.課題解決に向けて

(1)相続財産の洗い出し

まずはAさんの相続財産の洗い出しを行います。そのうえで、Aさんが希望する遺産の分割方法を確認します。
これらの作業をおこなうことで、おおまかな遺留分の金額を把握することができるのです。
遺留分の行使は相続人の意思にかかっており、また遺留分を侵害する遺言の効力が失われるわけでもないので、必ずしも遺留分に配慮した遺言とする必要はありません。
遺留分にどの程度配慮するかはAさん次第ですが、遺産を受け取る次男にとっても影響の大きい事柄なので、遺言者としてもある程度は知ってはおくべき事柄ではないかと考えます。

(2)税理士も交えた現時点における遺産の評価

遺産の評価は、実際に相続が発生したときに定まるものです。
とはいえ、相続税のシミュレーションや、大まかな遺留分額を把握するためには、現時点での推計を出す必要があります。
こうした遺産の評価については、司法書士業務の範疇外となるため、税理士さんと一緒になって行うのが通常です。