数次相続の遺産分割協議

数次相続の遺産分割協議

2020年12月21日
守秘義務および個人情報保護の観点から、実際の事案を変更・編集して記載しています。

相続未登記土地の寄付(贈与)について

依頼者はAさん。(伊豆の国市在住)
Aさんは、所有する土地を社会福祉法人に寄付することにしたものの、当該土地の登記名義を調べてみたら、なんとAさんの曾祖父Bさんの名義になっていました。
どうしたものかと弊所に相談に来られました。

相続人を確定させ、遺産分割協議を行い不動産名義を変更する

最近ニュースで「所有者不明土地」という言葉を聞いたことがないでしょうか。

これは様々な理由から土地所有者を確認できないことが問題になっているのですが、その一類型として「相続未登記土地」の問題があります。
「相続未登記土地」とは、今回のケースのように、不動産登記簿上の所有者名義が、たとえば明治時代とか大正時代に登記されて以降、まったく変わっていないというような土地を指します。

そうした土地を寄付(贈与)するケースでは、まず最初に、土地の登記名義人を現在の所有者に移転させることから始めなければなりません。
具体的には、土地名義人のBさんの相続関係をたどり、相続人を確定させたうえで、遺産分割協議を行い、Aさん名義に変えなければならないのです。(なお、ケースによっては、こうした方法以外の手続きを選択することもあります。)

まずは、戸籍調査から開始しましたが、必要な戸籍を集めるだけでも3カ月ほどかかりました。
そして戸籍調査の結果判明したのは、Bさんの相続資格を有する方が32名いるということでした。
相続人の中には、知っている人もいれば、まったく知らない人も含まれており、かなり高齢の方もいたため、遺産分割協議に参加できる状態か懸念される人もいました。

Aさんから、各相続人宛に電話あるいは郵便で連絡を取っていただきました。
こうしたケースで弊所に「相続人間の合意のとりまとめをしてほしい」というお客様がいらっしゃいます。
しかしながら、こうした行為が可能であるのは弁護士さんだけです。
代理での相続人の交渉を希望される場合には、弁護士さんの利用をご案内しております。

連絡を取った結果、一部の相続人は手続きに協力する趣旨の返答をもらえたものの、ある相続人は手続きへの協力を拒否、(「関係ない」とのお返事でした。)ある相続人は全く応答がない、という状況になりました。
なお、こうしたケース以外にも、行方不明者がいたり、認知症等の理由により遺産分割協議に対応できる状況でなかったりと、さまざまな課題がでてくるのが通常です。
そうした場合には、不在者財産管理人や成年後見人等の選任申立てなど、他の法制度を並行して活用することになります。

Aさんとしては、なんとしもて手続きを完遂させたかったため、今回のケースでは、裁判所に遺産分割調停を申立てました。
この調停は、遺産分割協議を成立させる必要があるけれども、相続人間での協議が整わない際に、裁判所を利用して、協議成立を目指す手続きです。
裁判所が相続人の間に入り、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指し話合いを進めるものです。
また、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続に移行し、裁判官が遺産分割の内容を決定(審判)することとなります。

調停申し立てにあたっては、Aさんに対し、相応の負担となるため、弁護士さんの利用もお薦めしました。
しかしながら、お仕事も退職されて時間的に余裕があることと、手続きへの興味が強かったことから、Aさんご本人が申立人となり、弊所は裁判所提出書類作成業務としてAさんをサポートすることとなりました。

その後は、Aさんご自身の奮闘もあり、順調に調停手続きが進行し、最終的には「調停に代わる審判」という制度により、無事、裁判手続きは完了しました。
審判確定後、不動産の名義を、相続によりAさんに変更したうえで、社会福祉法人への寄付により移転させました。時間も費用もかかりましたが、「勉強にもなったし、無事に寄付もできた。」と最後までタフなAさんでした。

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