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1.休眠抵当権とは
休眠抵当権とは、つぎのような抵当権のことを指します。
- 明治・大正・昭和初期に設定された古い抵当権。
- 抵当権としての実体的な効力は失われており、「登記という形式」だけが残っている古い抵当権。
休眠抵当権が残っているからといって、ただちに実害が生じるわけではありません。
ただし、土地を売却したり、土地を担保に借り入れをするなど、土地の権利を変動させる際には、休眠抵当権を抹消することが求められます。
休眠抵当権が残っているままでは、たとえば「売買による所有権移転登記」や「融資を受けるための抵当権設定登記」が事実上不可となってしまうという問題が生じます。
この記事では、休眠抵当権の抹消手続きについて、簡単に確認していきたいと思います。
(※住宅ローンの完済にともなうものなど、通常の抵当権抹消手続きについては、次の記事をご覧ください。)
【参照記事:住宅ローン完済に伴う抵当権の抹消】
2.抵当権の種類によって手続きは異なる
(費用や期間にも大きな違い)
(1)抵当権者は個人か法人か
休眠抵当権の抹消手続きは、抵当権者(担保権者)が個人が法人かによって大きく分かれます。
個人の場合には、担保権者が現在も生存していることは稀だと思われますので、担保権者の相続人を確認するというのが手続きの第一歩となります。
一方、法人の場合には、現在もそのまま活動している場合もありますし、合併や商号変更などによって名称は異なるものの権利義務を引継いだ法人が存在する可能性もあります。
(2)抵当権者の現存を確認できるかできないか
そのうえで、現在の抵当権者が、確認できるケースと、いろいろな調査を行ったけれど確認できなかったケースで、対応方法が大きく分かれます。
ちなみに「調査」というのは、つぎのようなことを行います。
- 該当する不動産の古い登記簿を確認する。
- 個人であれば戸籍や住民票を確認する。
- 法人であれば関係する法人の登記簿を昔のものから現在のものまで確認する。
結果として、確認ができれば、確認できた人(または法人)を相手に抹消手続きを進めることになります。
確認ができなかった場合には、各法律で定められている特殊な制度を利用して手続きを進めることになります。今回は、各制度の説明まではしませんが、以下のようなものがあります。
- 公示催告による除権決定を利用しての抹消
- 被担保債権が消滅したことを証する情報を提供しての抹消
- 弁済供託の利用による抹消
- 抵当権設定登記抹消登記請求訴訟(要するに裁判手続きを利用)
3.抹消手続きの一例
(1)解散した法人の清算人を相手方として行う抹消手続き
静岡県東部地域で、よく目にするのが「伊豆銀行」の休眠抵当権です。
伊豆銀行は、三島以南の地域を中心として活動していました。昭和18年に解散していますが、現在も清算人が存在しており、この清算人に対して抹消手続きを依頼し、手続きを行います。
「伊豆銀行の休眠抵当権」であれば、通常の抵当権抹消手続きよりは時間がかかるものの、1~2カ月程度で十分に手続きを完了させることができます。
(2)合併等で現存している法人を相手方として行う抹消手続き
静岡県東部地域に限らず、よく目にするのが「日本勧業銀行」「○○農工銀行」です。
「日本勧業銀行」については、銀行の合併に詳しい方ならばわかるかと思いますが、現在の「みずほ銀行」の前身の銀行です。
そのため、所定の書類を用意したうえで、みずほ銀行に連絡すると、抹消書類の発行を受けることができます。
前述の伊豆銀行と同様に、通常の抵当権抹消手続きよりは時間がかかるものの、1~2カ月程度で手続きを完了させることができるパターンです。
ちなみに、日本勧業銀行は明治30年に設立されましたが、その目的は農工業の発展進行であり、また全国各地の「農工銀行」を吸収合併しているため、各地に休眠抵当権が残っています。
なお、日本勧業銀行等に限らず、銀行の合併再編のために、抵当権者として登記されている金融機関が現存していないケースは多くあります。
とはいえ、こうしたケースでは、登記された銀行名ではなくとも、合併等による再編で権利義務を引きついだ金融機関が現存しているはずです。
そこで、権利義務を承継した金融機関を探し出し、抹消手続きを進めていくこととなります。
(3)弁済供託による抹消手続き
特定の条件を満たす場合には、登記されている債権額にくわえて、利息、損害金を合算した金額を法務局に供託することで、抵当権者(担保権者)の協力なしに抵当権を抹消できる手続きがあります。
「債権額+α」の金額を供託と聞くと、かなりの金額を供託しなければならないと思われるかもしれませんが、休眠抵当権における債権額は、抵当権が設定された当時の貨幣価値に基づくものです。
大正あるいは昭和初期の抵当権だと、債権額は数十円・数百円程度です。
そのため、たとえば昭和10年から現在までの利息・損害金をあわせても数千円から数万円程度で済むことから、このような供託弁済が可能となります。
利用可能な条件としては、とくに担保権者が一般人の場合には、その方の戸籍調査ができないこと、催告書を郵送したが宛所不明で返送されてしまうことなど、前提条件を満たすための調査・手続きが必要となります。
手続き完了までに少なくとも2カ月程度は必要となってきます。
(4)訴訟による抹消手続き
休眠抵当権の抵当権者が個人である場合には、「現在の抵当権者の調査」=「現在の相続人」を調査する必要があります。
抵当権者としての権利義務は、抵当権者の相続人全員に引き継がれていることになるからです。
そして抵当権者が死亡したのが数十年前ということになると、最初の相続だけではなく、当初の相続人が死亡して更に相続が発生しているケースがほとんどです(こうした状態を数次相続といいます。)。
結果として、抵当権者の相続人が数十人ということも珍しくはありません。
これらの相続人1人1人から抹消に関する書類を受領することも不可能ではありませんが、訴訟手続きを利用して、一気に手続きを進めてしまう方法もあります。
ただし、訴訟手続きを利用すると、どうしても時間がかかります。半年から場合によっては1年を超えることも珍しくはありません。
個々の相続人から必要書類を集める手間暇と、時間はかかるものの訴訟手続きで着実にて進めていくのと、どちらを選択するかはお客様と相談しながら決定していきます。
4.手続き選択がポイント
以上のように、「休眠抵当権」とヒトコトでいっても、その種類や状況ごとに異なる抹消手段を選択する必要があることが確認できました。
司法書士業務の中では、つぎのようなケースの取扱いが多いです。
- 個人が抵当権者となっているが、すでに抵当権者は死亡している。
抵当権者の相続人(数人だったり数十人だったりします。)と共同して抵当権の抹消登記手続きを行う。 - 銀行が抵当権者となっているが、その銀行人は合併により既に消滅している。
その法人の権利義務を承継した法人に対して抹消登記への協力を依頼し、共同して抵当権の抹消登記手続きを行う。
そして、休眠抵当権の抹消手続きにおいては、選択する手続きごとに必要な期間や費用が大きくかわってきます。
当事務所でご相談をお受けする際にも、まずは資料をいただき調査したうえで、「どのような手続きをとるのが良いか」「どれくらいの期間がかかるか」「どれくらいの費用がかかるか」をお客様と共有しながら作業を進めるようにしています。