成年後見人と葬儀・埋葬について

成年後見人と葬儀・埋葬について

2021年4月12日

1.後見人の権限はご本人の死亡によって終了する

(モデルケース)
Aさんは、地域包括支援センターからの連絡・依頼を受け、母Bさんの成年後見人選任の申立てを行うことになりました。

Aさんが、Bさんと会うのは、実は30年ぶりとなります。
というのも、Aさんの両親、すなわちAさんの父とBさんとは、Aさんが幼いころに離婚していました。
Aさんは、両親の離婚後、父親のもとで育ったため、互いの連絡先は知っていたものの交流は全くありませんでした。

地域包括支援センターからの連絡を受けたときにも、正直困惑しましたが、Bさんの認知症が進行し、後見人選任の申立てが必要であるとの説明を受け、やむなく協力することとしたのでした。

申立書類の作成は、司法書士のサポートを受けて行うこととし、後見人選任後の関わりは拒絶するつもりでいましたが、Bさんの死亡後においては、Aさん自身が相続人となること、葬儀や埋葬について検討して欲しいといわれました。

相続については相続放棄の手続きをとるつもりですが、葬儀や埋葬については後見人にて対応してくれないのかとAさんは疑問に思いました

成年後見人の役割は、法的な判断能力が不十分となったBさんの財産管理や身上保護を行うことにあります。
【参照記事:後見人の職務について】

そうした成年後見人の役割は、ご本人(Bさん)の死亡により終了します。

後見人の権限がなくなると、後見人が管理していた財産は相続人に承継されることになりますし、葬儀や埋葬についても相続人をはじめとする親族によって対応すべきこととなります。

後見人には、ご本人の葬儀や埋葬を行う権限はないのです。

2.相続人による対応が原則

繰り返しとなりますが、成年後見人の権限は、ご本人の死亡により消滅します。

ご本人の死亡後における後見人の職務は、管理財産に関する家庭裁判所・相続人への報告と、管理財産を相続人等に引き渡すのみとなります。

そのため、ご本人の葬儀や埋葬については、本来、相続人等の親族が行うべきものとされています。
この点は後見人が就いていようがいまいが変わらないことです。

3.相続人がいないあるいは対応しない場合

(1)後見人が対応せざるをえない場合に

一方で、ご本人に親族がいないとか、いたとしても関わり合いが薄く葬儀や埋葬をおこなう親族はいないというケースもあります。

上記ケースのように、親族関係はあるけれども、葬儀や埋葬を主宰するのには抵抗感があるという方は少なくありません。

こうした場合においては、ご本人をそのままにするわけにはいきませんので、後見人において一定の対応をとる必要があります
これは葬儀や埋葬に限ることではなく、入院費や老人ホーム利用料など一定の債務の支払いなども後見人として(より正確にいうと後見人であった者として)事務対応を求められることがあるのです。

こうした事務を「後見人の死後事務」といいます。

(2)後見人の死後事務の範囲

後見人の死後事務は、本来は後見人の職務範囲にあるものではなく「対応する親族等がいないので止むを得ず」おこなうものです。

現在は、特定の死後事務については家庭裁判所の許可を得てオフィシャルに行うことができるようになっていますが「止むを得ず行う」という点は変わりありません。

そのため、死後事務の対応範囲は、必要最低限となり、たとえば多くの参列者を呼んでの葬儀などは通常は行われません。
基本的には「直葬」といわれる火葬式のみの葬儀をおこない、御遺骨を最終的に相続人等に引き渡すことが行われています。

埋葬についても同じくで、基本的には御遺骨を相続人に引き取ってもらうため、埋葬まで対応することは稀です。
やむを得ない場合に、合同墓・永代供養墓等に埋葬したり、市町に引き取ってもらう(市営墓地の合同墓に埋葬される。)などの対応を取ります。

4.上記ケースについて

(1)成年後見人としての役割

上記ケースについても、「Aさんが葬儀や埋葬について検討して欲しい」と言われたのは、ご本人が存命中の事務については後見人が責任を持って対応するものの、ご本人の死亡後のことについては原則として相続人をはじめとした親族が対応することを前提としています。

ただし、ご本人と相続人(あるいは親族)との関係は様々なものがり、上記ケースのようにそもそもの関係が疎遠であるため、葬儀はもちろんのこと遺骨の引き取りも拒絶されるケースは存在します。

Aさんとしては「Bさんの葬儀や埋葬」に対応するか慎重に検討し、その結果を後見人に事前に伝えておく必要があるかもしれません。

(2)埋葬や葬儀に関する本人の意思表明があったら

冒頭のケースでは、成年後見人が選任されていたご本人について、その火葬や葬儀をどのように進めていけば良いのかということでした。

ここで重要なのは、冒頭のケースでは「火葬や葬儀に関するご本人の希望がわからない」ことを前提としているという点です。

もしも、ご本人が火葬や葬儀に関する意思表示ができる状態であれば、後見人としてはその希望を実現できるような手助けをするべきでしょう。

また、ご本人が、法的判断能力が十分な状態であった時に「火葬や葬儀に関する意思表明」をしていたのならば、当然その意思決定が尊重されるべきです。
そうした「火葬や葬儀に関する意思表明」の方法としては、死後事務委任契約というものがあります。

【参照記事:死後事務委任契約とは】