子供のいない夫婦の成年後見・任意後見

子供のいない夫婦の成年後見・任意後見

2021年1月31日

1.お子様のいない夫婦の老後(成年後見・任意後見を中心に)

(1)誰が介護をするの?残された配偶者はどうすればよいの?

お子様のいないご夫婦にとって、年齢を重ねてから発生する「介護の問題」は切実です。

とりわけ認知症・脳梗塞などによって「介護」が必要となるケースでは、介護を担当する配偶者の身体的・精神的な負担は相当なものになります。

また、ご夫婦の一方が亡くなられた際には、より深刻な課題がでてきます。
かりにご夫婦の一方が亡くなられた後に、残された配偶者が認知症・脳梗塞などによって「介護」が必要となった場合、必要な介護サービスの選定や日常の財産管理を誰がおこなうのでしょうか?

こうした状況に備える1つの手段として、成年後見制度(法定後見・任意後見)をご紹介します。

(2)成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症等によって判断能力が低下した人に対するサポーターを選任する制度です。

成年後見制度に基づいて選任されたサポーターは、たとえば次のようなことをします。

  • 判断能力が低下した人(=後見制度に基づいてサポートを受ける人)のかわりに、介護サービスを利用するための契約などを締結します。
    これにより、ご本人の日常生活が良好な状態に保たれるよう環境整備をする。
  • ご本人の財産管理を行います。具体的には個々の財産を管理し、財産の散逸を防止します。
    くわえて、年金・各種補助制度を利用して、ご本人の収入を確保します。
    また、ご本人の希望や状況に応じて適切な支出を行い、ご本人の財産を活用します。

成年後見制度は、大きく2つ「法定後見」と「任意後見」にわかれます。

  • 法定後見は、サポート内容とサポーターを「裁判所が選任」するものです。
  • 任意後見は、サポート内容とサポーターを「自らが契約によって決定」するものです。

【参考記事:任意後見と法定後見について】

(3)お子様のいない夫婦における「成年後見制度」の活用

たとえば、次のようなケースが考えられます。

モデルケース

沼津市にお住いのAさん。
ご主人のBさんと2人で暮らしています。
二人の間に子供はいません。

これまでは、二人とも健康に生活していたものの、ある日、ご主人Bさんが脳卒中で倒れ入院となりました。
ご主人Bさんは、一命をとりとめたものの、認知症を発症し、自宅での生活は困難となってしまいました。

一方で、Aさん自身も高齢であり、ご主人Bさんの看護、入所施設とのやりとり、金銭管理などは、とても対応しきれません。

Aさんのケースにおいては、Bさんに成年後見人をつけるという解決方法が考えられます。
(このケースでは、既にBさんの法的判断能力が低下している状態であるため、後述の「法定後見」の利用を検討することになります。くわしくは「3.法定後見について」をご覧ください。)

2.任意後見について

(1)任意後見契約の特徴

任意後見は、サポートを受ける人(本人)と、サポーター(任意後見受任者)が契約によってサポート内容を決定するものです。

そのため、判断能力が低下してからでは契約を締結することができず、事前に、判断能力の低下に備えて、契約を締結しておく必要があります。
いわゆる「終活」の一環として、利用されることも多いです。

【参照記事:任意後見契約について】

(2)お子様のいない夫婦における「任意後見契約」の活用

たとえば、次のようなケースが考えられます。

モデルケース

三島市にお住いのAさん。
ご主人のBさんと2人で暮らしています。

二人の間に子供はいませんが、Aさんの姪にあたるCさんが良く面倒を見てくれます。

これまでは、二人とも健康に生活していたものの、年齢を重ねる中で「認知症」になってしまうリスクが気になっていました。

そこで、Aさん、Bさんは、自分たちが認知症になった場合に備えて、任意後見契約を締結したいと考えるようになりました。

任意後見受任者としては、Cさんが良いと思っています。

任意後見の最大のメリットは「自身の法的判断能力が低下したときに、自分をサポートしてくれる人(任意後見人)を、あらかじめ自分自身で選択することができる。」という点です。

自分で選ぶから安心。
自分で選ぶから、あらかじめ希望・要望を伝えることができる。

この点は、家庭裁判所によって後見人が選任されてしまう「法定後見」とは、大きな違いとなっています。

【参照記事:【事例で考える】子のない夫婦の成年後見・任意後見】

3.法定後見について

(1)法定後見の特徴

法定後見は、サポート内容とサポーターを家庭裁判所が決定するものです。

サポート内容は、いくつかの類型(法律で決められています。)に分かれており、医師の診断書に基づき、裁判所が決定します。

サポーターについては、家庭裁判所に申立てを行う際に「候補者」をあげることはできますが、かならず候補者が選任されるとは限りません。
【参考記事:親族が後見人となることについて】

また、成年後見人の報酬は裁判所が金額等を決定し、決定された金額をご本人財産から受け取ることとなります(任意後見の場合には、事前に、ご本人と任意後見人受任者とが契約で報酬額を決定します。)。

(2)お子様のいない夫婦における「法定後見」の活用

さきほども記載しましたモデルケースを再掲します。

モデルケース

沼津市にお住いのAさん。
ご主人のBさんと2人で暮らしています。
二人の間に子供はいません。

これまでは、二人とも健康に生活していたものの、ある日、ご主人Bさんが脳卒中で倒れ入院となりました。
ご主人Bさんは、一命をとりとめたものの、認知症を発症し、自宅での生活は困難となってしまいました。

一方で、Aさん自身も高齢であり、ご主人Bさんの看護、入所施設とのやりとり、金銭管理などは、とても対応しきれません。

すでに法的判断能力が低下してしまっているBさんに対しては「法定後見」を利用していくことになります。

Aさんが、Bさんに対する後見人等の選任を家庭裁判所に申立てます。

申立てを受けた家庭裁判所は、Bさんに対して後見人等を選任するのです。

4.後見人には具体的に何をしてもらえるの?

任意後見においても、法定後見においても、後見人の職務には、身上保護と財産管理という大きな2つの役割があります。

(1)身上保護とは

「身上監護」は、ご本人の生活環境の整備をおこないます。

介護サービスの要否判断と契約、施設や病院への入所・入院契約、施設・病院での生活の見守りなど、ご本人が希望する生活を送れるよう、各種サービスの契約を通じて生活環境整備する役割です。

(2)財産管理とは

「財産管理」は、ご本人が所有する預貯金や不動産等の資産の管理処分、月々の各種収入や支出の管理を行います。
このほかにも、高額介護サービス費等の助成や補助の申請、最近はコロナ禍における特別給付金の申請なども職務に含まれてきます。

なお、任意後見の場合には、必要となるであろう職務を、ご本人と任意後見受任者が契約によって選択していきます。

【参考記事:後見人の職務について】

5.後見人候補者を誰にするのか

後見人となるのに資格は不要です。
したがって、任意後見人であれば当事者の合意によって決定できますし、法定後見においても家庭裁判所が選任すれば後見人となることができます。

とはいえ、長いお付き合いにもなりますし、生活全般の面倒をみてもらうようなことになるので、誰を候補者とするかは非常に問題です。

(1)もう一方の配偶者が後見人になることはできるの?(親族後見)

配偶者がお元気ならば、配偶者が後見人になることも考えられるかもしれません。

しかしながら、配偶者はご本人とともに年齢を重ねていきますし、将来どういったことが起きるかもわかりません。
できることならば、ご本人よりも一世代くらい若い親族のほうが良いかもしれません。

ただし、親族を候補者とする場合には、その親族にしっかりと後見制度について理解してもらってください。
また、後見人となってから、どのようなことが求められるのかも事前に知っておかなければなりません。

その意味では、制度利用を検討する段階で、専門家(司法書士や弁護士)に是非とも相談してほしいです。

後見制度は、一旦開始すると当事者の判断では中止することができません。
利用し始めてから「こんなはずではなかった」と思っても、遅いのです。

【参照記事:親族が後見人となることについて】

(2)専門家が後見になる場合(専門職後見人)

配偶者や親族に適任の方がいなければ、専門家(司法書士、弁護士、社会福祉士など)への依頼を検討します。

この際、法定後見であれば、誰を選任するかを裁判所に一任してしまうという方法もあります。
この場合、裁判所は、裁判所の管理する候補者リストの中から適任と思われるものを選任します。

また、申立人となる親族等が、直接、専門家に候補者となることを依頼することもできます。
依頼された専門家が承諾すれば、任意後見の場合には任意後見契約を締結し、法定後見の場合には家庭裁判所に申立てをする際に候補者として申立書に明記します。
この専門家が、裁判所の候補者リストに含まれていれば、特段の事情がない限りは選任されることになるでしょう。

なお、専門職が後見人となる場合には、専門職後見人の「報酬」の問題がでてきます。

【参照記事:親族ではなく専門職に成年後見人を依頼することについて】

【参照記事:成年後見人の報酬について】

6.後見人では対応が難しいこと

これまでは、後見制度の概要をみてきましたが、後見制度では対応できないこともあります。
代表例が、死後の葬儀やお墓のこと、そして医療同意です。

(1)ご本人の葬儀・お墓に関する対応

後見人の職務は、ご本人が死亡すると同時に終了します。
残された配偶者の方が、葬儀やお墓のことに対応できれば問題ないのですが、精神的・体力的にそれが難しいケースもかんがえられます。

そうした場合に備えて、まず第一に、健康なうちに葬儀やお墓について、ご夫婦で取り決めをしておくことが大切です。
「どこで、どういった形で葬儀を行うのか。誰を呼ぶのか。」など、具体的なことを決めておけば残された配偶者の負担はグッと減るでしょう。
また、お墓についても、先に永代供養墓に移すとか、年忌法要について事前にお寺と相談しておくとか、そういったことも大切です。

第二に、これは残された配偶者の方が対応することが出いないと予想されるケースですが、死後事務委任契約を締結する方法があります。

死後事務委任契約とは、葬儀やお墓について、生前に第三者(司法書士等の専門家を含む)との間で契約を締結しておき、ご本人の死後、契約に沿って第三者が葬儀やお墓の対応をおこなうものをいいます。

【参照記事:死後事務委任契約とは】

(2)手術や終末期医療など医療行為への同意が必要な場面

後見人は、医療に関する同意は本人に代わって行うことはできません。
投薬・手術・身体拘束など、身体の侵襲を伴う行為については、他人に代わって判断してもらうことのできない行為とされているからです。

そうなると、本人に判断能力がなく、かわりにサインしてくれる身近な親族もいないときに困ったことになるのです。
当事務所においても、所属司法書士が成年後見人として活動する中で、こうした困った事例に幾度も直面しています。
そして、現時点(令和3年1月)おいては、この点について法律的な解決はなされていません。

この点についても、先の葬儀・お墓と同様に、判断能力が十分なうちに準備することが必要です。
具体的には、治療保身に関する希望を書面に残しておくなどの対応です(市販のエンディングノートなどを見ると、こうした項目が必ずあるはずです。それだけ重要なものなのです。)。

また、尊厳死宣言公正証書という公正証書を作成するという方法もあります。
これは公証人が、本人の意思を確認し、公正証書として残すものですが、本人の「末期の状態においては、生命維持治療を差し控え、尊厳ある状態で死を迎えること。」を希望するとの意思を表明する手段となります。

7.老後について考えることの重要性

ここまで、お子様のいない夫婦の老後について、「成年後見・任意後見の活用」という観点から見てきました。

しかしながら、お子様のいない夫婦の老後を考えるにあたって「成年後見・任意後見」について考えるだけでは不十分です。
なぜなら、成年後見・任意後見は「法的な判断能力が低下した場合に備える制度」だからです。

お子様のいない夫婦の老後においては、認知症(法的判断能力の低下)に対応すれば十分というものではありません。

こういったことも検討していく必要があるのです。

あらためてですが、お子様のいない夫婦の老後の特徴をあげさせていただきます。

  • 事前準備の効果が非常に多き(事前準備の有無で大きな差がうまれる)。
  • 様々な制度を組み合わせて考える必要がある。
  • 制度の取捨選択にあたっては、実務的な経験が必要不可欠。

是非とも、検討にあたっては法律専門職の活用をご検討いただきたいです。

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