任意後見と法定後見について

任意後見と法定後見について

2021年4月11日

1.成年後見制度とは

(1)判断能力が不十分な人をサポートする仕組み

成年後見制度とは、認知症等により法的な判断能力が不十分である方のためにサポーターを選任する制度です。

「サポーター」といっても、その人のあらゆる事をサポートするわけではなく、「法的な側面」からサポートを行っていくこととなります。

そして、サポーターとなる人を「成年後見人」などと呼びます。
また、サポートを受ける人のことを「本人」「ご本人」と呼びます。

「法的な側面だけなの?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、私たちの生活は「契約」により成なっているといっても過言ではありません。
住まいを借りたり買ったりするのも契約です。
外食をしたり、家で食事をするための材料を購入するのも契約です。

同じように介護サービスや医療サービスも契約であり、こうしたサービスを活用することで、ご本人が快適な生活を送れるよう支援していくのです。

【参照記事:後見人の職務について】

(2)任意後見と法定後見という2つの柱

成年後見制度には、大きく分けて2つの種類があります。
1つは「任意後見」、もう1つは「成年後見」です。

使い分けのポイントはいたってシンプルです。

  • 「任意後見」は、自身の判断能力低下への備えとして利用するもの。
  • 「法定後見」は、既に判断能力が低下した人に対してサポーターを付けるためのもの。

以下では、それぞれについて、もう少し詳しく確認していきましょう。

2.任意後見とは

(1)みずから将来のサポーターを選定し契約する

任意後見とは、将来サポートを必要とされるであろう方(ご本人)が、みずから将来サポーターとなる人(任意後見受任者)を選び、ご本人と任意後見受任者との間で「任意後見契約」を締結することによって開始します。

ポイントは、「自身の判断能力の低下に備えて、あらかじめ、自分自身を支援する人を決めておく。」という点にあります。
そのため、既に判断能力が低下してしまった人は利用ができません。

(2)法定後見とは違い「自らサポーターを選択する」

最大のメリットは「サポーターを自分自身で選任できる。」という点です。
法定後見の場合には、裁判所がサポーターを選任するため、ご本人が「この人にしたい!」と決定できるわけではありません。

(3)制度利用による費用負担には注意が必要!

デメリットとしては、とくに「報酬の二重負担」の問題があります。

任意後見契約の効力が実際に発生するのは、ご本人の判断能力が低下した段階となります。
(そのため、判断能力が低下することなく本人が死亡すれば、任意後見契約は発動することなく終了してしまいます。)

ご本人の判断能力が低下した際に、任意後見受任者等が家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申立て、この監督人が選任されることによって、サポーターに法的な権限が与えられることになります。

そして、この任意後見監督人には、通常は「専門職」(弁護士や司法書士)が選任されることとなり、そうした人たちへの報酬が必要となってきます。

「任意後見人」「任意後見監督人」が、ともに専門職(報酬が必要となる人)となるケースでは、両者に対してご本人の財産から報酬を支払う必要があり、おおきな負担となります。

【より詳しくは・・・参照記事:任意後見契約について】

3.法定後見とは

(1)法定後見では家庭裁判所がサポーターを選任

法定後見とは、判断能力の低下によって、現に法的サポートが必要な方に対して家庭裁判所がサポーターを選任する制度です。

任意後見のメリット・デメリットとの比較で考えると、法定後見の場合には、サポーターを自ら決定できないという点がデメリットとなります。

家庭裁判所に対しては、候補者を伝えることもできますが、いずれにせよ選任は家庭裁判所がおこなうことがらです。
候補者となった親族が選任されることもあれば、専門職(弁護士や司法書士など)が選任されることもあります。

(2)家庭裁判所に選任を申立てることができる人

サポーターの選任は、申立権者が家庭裁判所に申立てを行うことによって行われます。
この申立てをする人のことを「申立人」といいます。

「申立人」となる資格は法律で限定されており、ご本人、配偶者、4親等以内の親族などが該当します。

そのため、身寄りがいない人の場合には、申立人になってくれる親族がおらず困ったことになりますが、
そうしたケースにおいては「市町村長」が申立人となることができます。

(3)成年後見人の報酬について

成年後見人の報酬は、任意後見においても、法定後見においても、ご本人が負担します。

そして、法定後見の報酬は、成年後見人からの申立てに基づいて家庭裁判所が決定します。
成年後見人が専門職となれば、通常は報酬申立てをするので、当然その者について報酬が発生します。
【参照記事:専門職後見人の報酬について】

一方で、任意後見と異なり、法定後見においては必ずしも後見監督人が選任されるわけではありません。
「専門職後見人+専門職後見監督人」となるケースは稀であるように思いますので、任意後見のような「二重負担」の問題は生じ難いとは言えるでしょう。

4.制度の利用にあたって

(1)後見制度自体の認知度は低い

高齢化に伴い認知症等で法的なサポートを求める人は確実に増加しています。
加えて、核家族化・少子化・晩婚化・非婚化などが進み「子供や親族で老後の世話を行う」ということも昔に比べて難しくなってきました。

成年後見制度を必要とする方は、以上のような社会的背景により増加していく一方で、成年後見制度が一般的に認知されているかというと残念ながらそうではありません。

成年後見制度の利用を検討している、あるいは成年後見制度を利用せざるを得ないという場合には、まずは制度について知ることが重要です。

(2)成年後見制度の内容をしっかりと把握することが大事

書籍やインターネットなど、いろいろな情報源がありますが、実際に利用するにあたっては、司法書士等の法律専門職に相談することをおススメします。

とりわけ、制度選択(任意後見と法定後見、後見制度と民事信託・家族信託など)については、各制度を理解し、それを取り扱っている専門職に相談しながら判断することが重要です。

ご自身の状況や環境をふまえて具体的事情と照らし合わせながら検討することで、「実際に利用してみたら、こんなはずじゃなかった。」という状態になってしまうリスクを減らすことができるはずです。