定期預金の解約に際して、成年後見人の選任を求められた場合

定期預金の解約に際して、成年後見人の選任を求められた場合

2021年4月11日

1.銀行取引と成年後見

(1)母親の介護費用に充てるために定期預金の解約をしようとしたけれど・・・

(モデルケース)

Aさんは、認知症の母親の介護をしています。
これまでは在宅で介護をしてきましたが、今回、お母さんが老人ホームに入居することとなりました。

入居にあたり敷金として高額なお金を支払う必要がでてきたため定期預金を解約しようと銀行を訪れたところ、窓口の銀行員から「ご本人でないと解約はできません」と言われてしまいました。

本人(お母さん)は認知症のため、手続きの意味を理解できません。
定期預金の解約ができなければ、老人ホームに入居することができません。

その旨を銀行員に伝えたところ、「成年後見制度を利用して、後見人を選任してください。」と言われました。

成年後見制度は、認知症等の原因によって法的手続きを行う判断能力が不足する場合に、その方に対して、サポーター(後見人等)を選任する制度です。

(2)どうして成年後見制度を利用する必要があるの?

あたりまえのことですが、Aさんの定期預金を自由に利用できるのはAさんのみです。

ご自身のことを考えてみればわかりやすいかと思います。

たとえ親であれ、配偶者であれ、子であれ、勝手にご自身の預貯金を自由にはできないはずです。
そうしたことは、ご本人が認知症になったとしても同じことです。

Aさんの定期預金を解約するためには、Aさん自身の意思によるか、Aさんからの委任を受けた代理人による必要があります。
(なお、子供であるから、当然に親御さんの代理人になれるというわけではありません。あくまで、親御さんからの委任が必要です。)

そこで裁判所により選任された成年後見人等が、Aさんのお母さんの代理人として、定期預金の解約手続きを行うのです。

(3)法定後見と任意後見について

Aさんのケースでは、すでに法的な判断能力が低下してしまった方に対して、裁判所がサポーターを選任する「法定後見」を利用することになります。
法定後見は、本人の判断能力の状況によって、後見・保佐・補助と類型が分かれており、それぞれの類型によってサポーターの権限の範囲が異なります。
類型は、医師の診断書をもとに、家庭裁判所が判断することとなります。

一方で、成年後見制度では、自身の判断能力の低下に備えて、あらかじめ代理人を選任しておく「任意後見」という仕組みも用意されています。
任意後見の詳細については、つぎの記事をご参照ください。
【参照記事:任意後見契約について】

2.成年後見制度を利用する場合には

成年後見制度を利用する場合には、家庭裁判所に後見人等選任の申立てを行います。

申立てに際しては、ご本人に関する診断書のほか、財産目録・収支予定表などを提出する必要があります。

また申立書には「成年後見人等候補者」を記載することができます。
家庭裁判所の審査により、候補者が後見人となることが適当であると認められれば、そのまま候補者が選任されます。
不適当とされた場合には、家庭裁判所が司法書士や弁護士等を名簿の中から選任します。

この「成年後見人等候補者」として親族をあげることも可能であり、家庭裁判所が適任と考えれば、記載された親族がそのまま後見人等に選任されることなります。

(モデルケース)

Aさんは、銀行員から「成年後見制度を利用して、後見人を選任してください。」と言われ困ってしまいました。
そこで、まずは専門家に相談してみようということで、近所の司法書士に相談することにしました。

相談したところ、成年後見制度のメリット・デメリットを理解することができました。
その後、慎重に検討したうえで、Aさんは成年後見制度を利用するための手続きを進めることに決めました。また、申立てにあたっては、Aさん自身を「成年後見人等候補者」として記載することにしました。

家庭裁判所による選任手続きの結果、Aさんは成年後見人として家庭裁判所からの選任を受けることができました。

成年後見人に選任されたAさんは、成年後見人として銀行を訪れ、定期預金の解約手続きを行いました。
老人ホームへの入所契約も、Aさんが成年後見人としてお母さんを代理して契約を結ぶことに。

今後は、Aさんは、お母さんの成年後見人として、お母さんの生活をサポートしていくこととなりました。

【参考記事:親族が後見人となることについて】

3.注意点

後見人選任の申立てを行う前に「後見人が選任されるとどうなるのか」ということを、しっかりと確認しておく必要があります。

(1)定期預金を解約して終わりではない

まず確認しておきたいのが、後見人の選任を受けて定期預金を解約し、当初の目的を達成したとしても、後見人の職務は終了しないということです。

後見人の職務は、原則としてご本人(上記事例ではお母様)が亡くなるまで続ける必要があります。

(2)後見人としての財産管理

後見人には、ご本人の財産管理を行う権限と責任があります。
そのため、預金通帳・不動産権利証・保険証券などご本人の重要財産の管理は、後見人が行うこととなります。

そして、特に親族が後見人となった際に注意してほしいことが、財産や収支の分別管理です。
後見人ではなく、親族として行っているのであれば、ある意味で大雑把に収支を管理していても許容されるかもしれませんが、後見人となるとそうはいきません。

「すべての収支について、1円単位で記録し管理する。」

「本人のための支出と、親族のための支出を区別して管理する。」ということが求められるのです。

(3)定期報告

後見人は、年に1回、家庭裁判所に対して後見事務について報告する義務があります。
これを定期報告といいます。

定期報告のほか、必要に応じて、家庭裁判所は後見人に対して報告を要求することもできます。

こうした報告に際しては、とくに財産管理面について、前述の「すべての収支について、1円単位で記録し管理する。」「本人のための支出と、親族のための支出を区別して管理する。」といった決まりが守られているか家庭裁判所のチェックが行われるのです。

4.親族後見人の可否

上記のケースでは、子が親の介護をする中で、後見制度を利用する必要性に迫られたというケースでした。

こうした場合には、介護者たる子が、成年後見人となることを希望するケースが多いでしょう。

親族が成年後見人となることを希望するケースでは、子が後見人選任の申立人になると同時に、後見人候補者として自らの氏名を申立書に記載しておくことが必要となります。
候補者が選任されるかどうかは、家庭裁判所の専権によるところですが、少なくとも次の条件は満たしている必要があるでしょう。

  • ご本人・推定相続人のなかに候補者が後見人となることに反対する者がいない
  • ご本人と候補者との間に利益相反となるような事由がない
  • 候補者が、後見人の職責と責務をしっかりと理解している

とくに注意したい点が2点目と3点目です。
2点目については、ご本人の施設利用料を候補者が立替えて支払っていたり、ご本人と候補者がともに相続人となっている遺産承継が予定されている場合に問題となります。

3点目については、後見人の職務の内容や財産管理面における職責を果たすことができるかなど、候補者が後見人に選任されたことをイメージできている必要があります。

いずれも、候補者や親族だけでは確認が難しい事項だと思われますので、司法書士等の専門家に相談しながら手続きを進めることが必要となるでしょう。

5.金融機関における本人確認の緩和?!

以上が「定期預金の解約を発端として成年後見制度を利用するケース」について解説となります。

こうしてみていくと「定期預金を解約したいだけなのに、後見人という責任も負担も大きい制度を利用しなければならないのか?」という疑問を持つ方もいらっしゃるかと思います。

この点について、金融機関は「認知症等に備えて、あらかじめ代理人を登録しておく」「医療費や介護費用など特定の支出に限り払い出しを認める」といった対応を進めています

このような対応が今後どれだけ広がっていくかはわかりませんが、こうした「金融機関の柔軟な対応」は一時的には好評を得るのかもしれません。
しかしながら、財産管理をめぐって親族間紛争の発端となるなど、懸念すべき点もあります。

司法書士等の法律専門職に相談しながら、後見制度も含めた各種制度をどのように利用していくか検討いただければと思います。