終活(相続対策)としての財産目録の作成

終活(相続対策)としての財産目録の作成

2021年2月24日

1.はじめに

本来であれば、相続対策としての終活においては、遺言書を作成し「相続財産の明示」「遺産承継方法の指定」を遺す側で行うべきだ、というのが弊所の考え方です。

とはいえ、
「どうにも遺言を残すことに前向きなれない」とか、
「いきなり遺言を書くことには抵抗がある」という方が、一定数いらっしゃることも認識しています。

そういった方に対しては、まずは財産目録を作成してみることをアドバイスしています。
この「まずは財産目録の作成を薦めてみる」という考え方は、「相続に向けて遺言などの準備をしてほしいけれど、いくらお願いしても本人がやってくれない。」とお悩みの、お子さん・甥御さん・姪御さんにもお薦めしたい方法です。

2.遺産承継において「財産目録」があることのメリット

財産目録とは、遺産承継されるご自身の財産をリストにしたものです。

財産目録があることによって、遺産承継手続きにおける「財産調査」が不要に、あるいは負担が大幅に軽減されます。
また、相続人では把握しきれない遺産が発生することを防ぐこともできます。

子供であっても、親御さんが「どの銀行に口座があるのか。」「どこに不動産があるのか。」を正確に把握しているケースは稀だと思います。
ましては、甥や姪が相続人になるケースでは、なおさら「どこに、どのような相続財産があるか全く分からない。」ということになるのです。

なんやかんやで忙しない葬儀や相続手続きにおいて、財産調査の負担が軽減されるのは、非常に大きなメリットとなります。

3.どのように財産目録を作っていけば良いのか

財産目録の作成にあたっては、まず、相続財産を大きく2つにわけます。

(1)不動産や預貯金などのプラスの遺産

1つ目は「プラスの財産」です。

これは、不動産や預貯金、株式や投資信託など、財産価値のあるものを指します。
不動産については、最近では「負動産」と書いて「ふどうさん」と読む、いわばお荷物な土地・建物の存在が指摘されていますが、分類上は「プラスの財産」としていきます。

(2)借金などのマイナスの遺産

2つ目は、「マイナスの財産」です。
これは、借金・借入、未払代金などの債務を指します。

配偶者や子供以外が相続人になるケースでは、とりわけ「マイナスの財産」を漏れなく伝えてあげることが重要です。
「プラスの財産」は、万が一、調査漏れで見つからなかったとしても「もらい損ねる」だけで済みますが、「マイナスの財産(とりわけ連帯債務や事業借入など)」については発見しづらい性質を持っているため、遺産分割が終わってしばらくたった後に、相続人に請求が来るというケースも考えられます。

「マイナスの財産」が「プラスの財産」を上回る場合には、大半の相続人は、相続放棄の手続きをとることを希望するでしょう。
にもかかわらず、マイナスの財産の存在を知らず、プラスの財産に相続人が手を付けてしまうと、相続放棄ができず借金を背負うということにもなりかねませんので、「マイナスの財産」の存在は正確に相続人に伝達する必要があります。

4.マイナスの財産の記載方法

マイナスの財産の場合には、つぎの事項を一覧として残すようにしましょう。

  1. 債権者(誰に対する負債か)
  2. 債権者への連絡方法(住所や電話番号)
  3. 負債額はいくらか
  4. 債務の返済方法はどのような取り決めか

少なくとも1や2の事項が明確になっていれば、相続人が債権者に対して内容を照会することができます。
契約書や債務証書などが残っていれば、それらをセットで残してあげれば、なお明確でしょう。

5.プラスの財産の記載方法

(1)簡単な方法

もっとも簡単な方法は「内容がわかる書類のコピーを残しておくこと」です。

手書きで残すよりも、よっぽど楽ちんですし、記載ミスも生じないので、非常にお薦めです。
これらのコピーを、百均で売っているようなクリアファイルで一覧とすれば、立派な財産目録の完成です。

不動産であれば、固定資産税納税通知書や名寄帳そのものを添付するのもOKです。
預貯金であれば、通帳そのものでも良いですし、金融機関・口座番号がわかるような通帳裏表紙のコピーでもOKです。

(2)預貯金について

預貯金については、ネット銀行の登場により通帳が発行されない金融機関が増加したため、以前よりも相続漏れのリスクが高くなってきています。

さらに最近では、大手銀行を中心に、通帳の発行を中止したり有料化したりする動きが出てきています。
また、定期預金の満期時に郵便で通知をすることも廃止されつつあります。

今後、預貯金の相続漏れのリスクは高まってくると思いますので、メモなり、金融機関からの通知なり、何かしらの資料を残してあげることが必要になってくるでしょう。

(3)不動産について

不動産については、最低限、所在する市町を明示してあげましょう。これがわかれば、各市町から名寄帳を取り寄せて、網羅的に確認することができます。

固定資産税納税通知書や名寄帳があれば、固定資産税評価額や税額が即座にわかるため、相続人としては非常に助かるでしょう。
不動産購入時あるいは相続時の権利証(登記識別情報)があれば、なお良しです。

また、固定資産税納税通知書には記載されていない私道持分や山林などがある場合には、メモ等で相続人にその存在が伝わるようにするべきです。

(4)上場株式・投資信託について

上場株式や投資信託については、個別銘柄を記載するよりも、それらの管理を委託している証券会社・金融機関を記載することのほうが重要です。

管理している証券会社・金融機関が判明すれば、そこに照会することで、管理されている銘柄が漏れなく発見されるからです。

(5)生命保険

生命保険については、契約している保険会社がわかれば大丈夫です。
くわえて、保険金の受取人も明示していれば、誰が保険金受取の手続きをすればよいのか即座に確認できるため、より親切と言えるでしょう。

(6)その他財産

その他の財産については、財産の価値や品質を詳細に明記するよりも、まずは最低限、どこを調査すれば良いのかがわかることが重要です。

そのうえで、財産の内容を付け加えてあげることで、相続人にとっては、どこに・どういった財産があるのか把握する手助けとなるでしょう。

6.財産目録作成後は遺言書の作成を!

財産目録の作成が完了すれば、まずは一段落となりますが、できればやはり、つぎの「遺言書の作成」に進んでほしいものです。

各財産の遺産承継手続きを確認しながら、どこに手続きの障害があるのか、相続人間で遺産分割協議が円滑に進むだろうか、はたまた相続人以外の親族や第三者に遺産を承継させたくはないか。

いろいろなことを検討していくと、遺言書の必要性に気付いていただけるのではないでしょうか。