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相続税や相続税申告は、税理士資格をもった人でないと取り扱うことはできません。
当事務所においても、実際のご相談や業務において、相続税関連の課題が発生した場合には、すみやかに税理士への相談をするよう依頼者の方に話をします。
本記事では、基本的な制度の説明にとどめておりますので、ご了承ください。
1.相続税申告が必要なケースの増加
(1)相続税に関する検討が必要な理由
一昔前は、相続税に関係する方は、亡くなった方のうち4%程度にとどまるといわれていました。
これに変化が生じたのが、平成27年です。
改正された相続税法が施行され、この割合が8%程度まで上昇したのです。
8%というと「まだ少ないなあ」と思われるかもしれませんが、不動産を含む相続に関係することが多い司法書士の目線で見ると、取扱い業務において相続税申告が必要なケースが顕著に増加したと感じています。
また、結果として申告の必要はなくても、いちおう税理士さんにチェックしてもらうケースも増えています。
(2)とりわけ相続税の申告期限に注意!
「相続税」において何より怖いのは、つぎの3つの点です。
- 自ら相続税申告の要否を判断する必要がある。
- 税額の計算も自分で(あるいは税理士さんに依頼して)行い、かつ納付も自ら行う必要がある。
- 相続税を申告するための期限(相続開始を知ってから10カ月!)がある。
とりわけ、相続税の申告と税納付には「相続の開始があったことを知った日の翌日から 10カ月以内」という期限が定められている点には注意が必要です。
最初から申告ありきで動いているケースは良いのですが、相続財産を調査したら税理士さんへの相談が必要な事案であったということがあります。
当事務所へのご相談の時点で半年くらい経過している方も珍しくない(相続税申告の期限まで3カ月程度しかないケースも!)ため、そうした案件の場合には、早急に「相続税への対応」を取らなければいけません。
2.相続税の申告とは
(1)相続税申告をすべき場合
相続税の申告は、相続財産等の合計額が基礎控除額を超える場合に必要となります。
申告の要否を確認するためだけでも、つぎのような作業が必要となります。
- 相続税の計算対象となる「相続財産等」を正確にリストアップすること。
- リストアップされた「相続財産等」を、相続税法のルールに従って評価すること。
「相続財産等の合計額」については、不動産は相続税に即した評価が必要であること、死亡退職金や死亡保険金などの「みなし相続財産」の存在など、注意すべき事項がたくさんあります。
この点は税務分野(税理士さんの専門分野)となるため詳細は省略しますが、非常に専門性の高い分野であるということは知っておくべきです。
(2)身近な「税金」との違い
個人事業者などで、毎年、確定申告の作業をしている方であれば「みずから税額を計算して申告する」というイメージが湧くかと思います。
(そして、その怖さや大変さも、すぐに理解できるかと思います。)
いっぽうで、税金と言えば「住民税」「固定資産税」「自動車税」などのように、勝手に税額が計算されて通知が来るものとイメージされる方は、注意が必要です。
「相続税の申告」「相続税の納付」は、単純な作業・計算で決定できるものではなく、資料集めや評価の作業など、税金を納める側が多くの時間・手間をかけて対応すべきものなのです。
3.相続税の基礎控除について
基礎控除額とは、「3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )」で計算される金額です。
冒頭で紹介した平成27年に施行された相続税法は、この基礎控除の金額を大きく減少させるものでした(改正前は、「5000万円+(1000万円×法定相続人の数)」でした。
また、数十年前と比較すると、単独相続(相続人が1名)とか子供が1人や2人という事案が増えており、基礎控除額が低くなりがちというのも、相続税の申告が必要な方が増える要因だと考えています。
【パターン1】
沼津市在住のAさんが亡くなった。
Aさんの相続人は、子Bさんのみだった。
⇒この場合、基礎控除の額は「3,000万円 +( 600万円 × 1 )」=3,600万円となる。
【パターン2】
三島市に在住のMさんば亡くなった。
Mさんの相続人は、妻Nさんと3人の子どもの、合計4人だった。
⇒この場合、基礎控除の額は「3,000万円 +( 600万円 × 4 )」=5,400万円となる。
4.「申告=課税」ではない
なお、相続税の申告が必要だからと言って、かならず相続税が課税されるわけではありません。
この点についても税務分野となるため制度の紹介だけにとどめますが、たとえば「配偶者の税額の軽減」「小規模宅地等の特例」などを利用することで相続税額をゼロにすることができます。
- 配偶者の税額の軽減:一定の金額までは配偶者に相続税がかからない制度
- 小規模宅地等の特例:特定の土地について、相続税計算上の評価額を減額する制度。
ただし、こうした特例の適用を受けるためには相続税申告が必要となります。
5.相続税に対応した遺産承継をするために
(1)なによりも「生前における」相続対策が重要
ご自身の資産状況から考えて、相続税が課税される可能性が高い方においては、相続税も見越した相続対策が必要となります。
もちろん、「実際に相続が発生してから相続人が対応すれば良いのだ」という考え方も間違いではないのですが、申告期限が10カ月と短いため、相続人が相続手続きに着手するころには、ほとんど時間が残っていないケースも目にします。
そう考えると、最低限「相続税がかかりそうだよ」ということだけでも相続人となる方に伝えておく、もう一歩踏み込んで「相続税シミュレーションをしておく」、さらに踏み込んで「相続税にも配慮した遺言を作成する」などの対応が求められているように思います。
生前における相続税対策のメリットは、つぎのとおりです。
- ご本人が相続財産の内容を正確に把握している(相続財産の調査が不要)
- 時間に余裕があるので、様々なシミュレーションをすることが可能
- 生前贈与や生命保険など、様々な相続税対策を行うことができる。
(2)相続が発生した場合の対応
すでに相続が発生した方においては、まずは基礎控除額が自分たちの相続ではいくらになるのかを確認してみましょう。
そして、相続財産の額(この場合には、相続に関連して承継したり受け取った財産の合計額。)が基礎控除額を超える又は近い金額になる場合には、税理士や司法書士など、相続に関係する業務を行っている専門職に速やかに相談すべきです。
相続開始後においては、10カ月という限られた期間の中で、対応を進める必要があるからです。
相続開始後に相続税対策に着手するデメリットは、つぎのとおりです。
- 10カ月という限られた期間の中で対応しなければならない。
- 相続人が相続財産を把握しておらず、財産調査からスタートしなければならないケースも。