「成年後見関係事件の概況」からみる親族後見

「成年後見関係事件の概況」からみる親族後見

2021年3月14日

1.「成年後見関係事件の概況」とは

毎年3月くらいに、最高裁判所事務総局家庭局から、前年中の成年後見関係事件の処理状況に関する統計資料が発表されています。

今回は、親族後見(ご本人の親族が後見人等となること)がどのように取り扱われているのかを「概況」(令和2年1月~12月)から読み取っていきます。

なお全体像については、別記事(ページ下方にリンク)にまとめていますので、そちらもご確認ください。

2.成年後見人等と本人との関係について

(1)親族、親族以外の区別

全体の約80.3%が親族以外となっています。

この数字みると「親族後見人になるのは難しい」と考えられるかもしれませんが、そもそも親族が候補者となっているケースは全体の23.6%にとどまります。

親族が選任されるのが全体の約19.7%となっていることから、候補者として親族をあげているケース(23.6%)の多くでは、候補者たる親族がそのまま後見人等選任されているものと推測されます。

(2)親族の内訳

内訳は、「子」が54.0%、「兄弟姉妹」が14.0%、「その他親族(甥・姪など)」が17.0%となっています。
一方で、配偶者(7.8%)や親(7.1%)は比較的少数です。

(3:当事務所からのコメント)

こうした状況になるのはどうしてなのでしょうか。
「概況」は数値を記載するのみですが、その数値の裏側を考えてみましょう。

数年前までは、財産管理を厳格に行うことに重点が置かれていたため、一定以上の財産があると親族は後見人として選任されないのが通例でした。

しかしながら、近年では身上保護を重視する流れとなっており、その流れの中で「親族が候補者になるのであれば、例外的な事由がある場合を除き、積極的に親族を選任していく」という方針が裁判所から示されています。

そうした理由から「候補者としてあげられた親族が、そのまま後見人に選任される。」というケースが多くなっているのだと考えられます。

また、サポートを受ける方の多くが高齢者であるため、その配偶者や親が後見人になるケースよりも、ご本人よりも年齢が若い「子」「その他親族(甥・姪など)」が割合としては多くなってくるのだと思われます。

3.後見監督人等が選任された事件数について

(1)

後見等開始時のうち後見監督人等が選任された事件数は1,138件であり全体(全体34,520件)の約3.3%となっています。

内訳としては、弁護士503件、司法書士490件、社会福祉協議会102件となっています。

(2:当事務所からのコメント)

親族後見との関係では、後見監督人の選任もポイントとなります。

上記2(3)において、「積極的に親族を選任する方針」が打ち出されているとコメントしました。
そうした方針が出されたのは、親族後見人は専門職後見人と比べて、ご本人の身上保護面では優れているという評価があるからです。
一方で、親族後見人は専門職後見人と比較して、法的課題への対応や財産管理面において劣る面があると考えられています。

そこで、専門職を後援監督人として選任し、後見事務を監督させるとともに、親族後見人への指導・助言を行う役割を負わせるケースが増えているのです。

4.候補者としてあげた親族が後見人に選任されるのか

「概況」については、以上となりますが、あらためて「候補者としてあげた親族が後見人に選任されるのか」を検討してみます。

(1)絶対的に不可となるケース

絶対的に不可となるのが、親族間で後見人を誰にするかについて争いがあるケースです。
たとえば、将来の相続を見越して、子供たちが互いに親の後見人になりたがっているような事案です。

こうした場合には、専門職後見人が選任され、親族から独立して財産管理を行うこととなります(また同時に、既に財産の使い込みや不正支出がないかどうかをチェックすることも行われます。)。

(2)複数後見となるケース

複数後見とは、候補者として挙げた親族が親族後見人として選任されつつも、同時に専門職も選任され、後見事務を分担するケースを指します。

相続や立替金の清算などの法的課題があり、この解決を専門職にまかせて、課題解決と同時に専門職後見人が辞任して、親族後見人の単独後見へと移行するのが典型例です。

これと類似するのが「リレー方式」で、最初は専門職が後見人に選任され、法的課題等を解決・整理したうえで、親族後見人とバトンタッチする方法です。

(3)後見監督人が選任されるケース

親族が後見人として選任されると同時に、専門職が後見監督人に選任されるケースもあります。

不動産売却などの想定されている法的課題について、親族後見人でもなんとか対応可能であると考えられるものの、専門職監督人による指導・助言を必要とするケースで選択されます。また、管理財産が多い場合など、恒常的な監督が必要な事案でも選択されます。


(4)申立てにあたっては専門職にご相談を!

以上のとおり、親族後見を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。

また、事案に応じて、家庭裁判所が様々な選択肢を検討しているのです。

そのため、後見申立てを検討している、あるいは親族が後見人となることを希望している場合には、後見制度の運用を理解した専門職に相談しながら、ポイントを押さえた選任申立書を作成することが重要だと考えています。