法務局による自筆証書遺言の保管について

法務局による自筆証書遺言の保管について

2021年3月22日

1.法務局による保管制度がはじまりました

令和2年7月より、法務局における遺言書保管制度がはじまりました。

これは、自筆証書遺言の保管を法務局にて行うほか、相続開始後の手続きにおいても「保管されている遺言書の内容証明書」等を発行し相続手続きの円滑化をはかるものです。

以下、この記事においては「遺言書保管制度」という言葉を使って、制度の内容をご紹介します。

2.保管手続きの流れ

(1)まずは自筆証書遺言を作成!

手続開始前に、まずはご自身にて自筆証書遺言の作成を行います。

ここで注意していただきたいのは、遺言書保管制度は、あくまで遺言の保管および保管されている遺言に関する証明書発行を行う制度であり、遺言作成に関するアドバイスや作成された遺言に誤りがないかチェックする制度ではないという点です。
「保管制度を利用」しているからといって、保管されている遺言の有効性まで保証されるわけではないのでご留意ください。

遺言作成に際して、アドバイスやチェックが必要な場合には、司法書士等の法律専門職にご相談ください。

(2)遺言書保管申請書の作成と必要書類の準備

続いて、遺言書保管申請書を作成します。また、住民票等の必要書類を準備します。
なお、遺言書保管申請書は法務局HPにてダウンロードすることができます。

(3)予約したうえで法務局に出頭

遺言書を保管する法務局に予約の電話をかけます。出頭日時を決定し、自筆証書遺言・保管申請書・必要書類をもって、法務局にて申請を行います。

全国どこの法務局でも申請ができるわけではなく、「遺言書保管所」として指定された法務局であること、また遺言者の住所地又は本籍地あるいは遺言者所有不動産の所在地の、いずれかを管轄する法務局である必要があります。

静岡県東部地域においては、沼津・富士・下田の各支局が該当します。それぞれの支局ごとの管轄は以下のとおりです。

  • 沼津支局 : 沼津・裾野・御殿場・三島・伊豆・伊豆の国・熱海・伊東・駿東郡・田方郡
  • 富士支局 : 富士・富士宮
  • 下田支局 : 下田・賀茂郡

3.必要書類・手数料

(1)申請書・遺言書のほか必要書類は以下のとおりです。

  • 本籍の記載のある住民票の写し(作成後3カ月以内)
  • 本人確認書類(運転免許証等の顔写真付身分証明書)

(2)手数料

1通3,900円です。
保管内容や保管期間に関係なく、保管申請する際に、この手数料を支払えば、以後費用がかかることはありません。

4.注意点

(1)本人が法務局に出向く必要がある

遺言作成のサポートや保管申請書の作成などは司法書士が委任を受けて対応することができます。
しかしながら保管申請については、遺言者本人が法務局に出頭して行う必要があります。

遺言作成者ご本人が法務局に出向くことができない場合には、保管制度は利用できないこととなります。

(2)顔写真付身分証明書が必要

保管申請にあたり、顔写真付きの身分証明書を、本人確認資料として提示する必要があります。

運転免許証や運転経歴証明書などが該当しますが、中には顔写真付きの身分証明書がない方もいらっしゃるかと思います。

法務局では、そうした方に対してはマイナンバーカードの作成を推奨しています。

(3)遺言書原本はずっと法務局で保管

相続開始後においても、遺言書の原本は法務局にて保管されます。

相続開始後、相続人等は「遺言書情報証明書」の交付申請を行い、これによって遺言の内容を確認します。相続人等が遺言書の原本の返却を受けるわけではないのでご注意ください。

遺言書情報証明書は保管している遺言書のコピーに法務局の認証文が付与されているものです(ちなみに、遺言書情報証明書は白黒コピーとなるため、遺言書を色分けしても判別できないこととなります。遺言書の閲覧については、モニターにて色分けを判別することができます。)。

(4)法務局が遺言の内容を審査してくれるわけではない

遺言書保管制度は、あくまで遺言の保管および保管されている遺言に関する証明書発行を行う制度であり、法務局が、遺言作成に関するアドバイスや作成された遺言に誤りがないかチェックするものではありません。

そのため、自筆証書遺言の最大のデメリットである「形式不備」「遺言執行できない可能性」は、遺言書保管制度を利用しても排除できません。

個人的には(そして、おそらく多くの司法書士が)、遺言書保管制度の開始後においても、公正証書遺言の作成をオススメするのではないでしょうか。

【参考記事:自筆証書遺言と公正証書遺言の比較】

5.遺言書保管制度を利用した遺言による相続手続き

遺言書保管制度を利用した方が亡くなった場合、相続人等は、遺言を保管している法務局に対して「遺言書保管証明書」の発行を請求します。

この「遺言書保管証明書」については、別の記事にまとめましたので、こちらをご参照ください。

【参照記事:遺言書保管証明書の取得(法務局での遺言書保管制度の利用)】