付言事項について(総論)

付言事項について(総論)

2021年6月16日

1.付言事項とは

まずは、付言事項を付けた遺言例を見ていきましょう。
(遺言方式や関係者の記載は省略しています。)

遺言事項

第1条 遺言者は、全財産を配偶者Aに相続させる。

付言事項 

①Aの今後の生活のことを考えて、すべての財産をAに相続させることとしました。長男、長女には、そのことを了解してほしいです。
② 病気がちの私のために尽くしてくれた妻Aには大変感謝しています。子供2人が立派に成長したのも妻Aのおかげです。本当に、ありがとう。

③なお、私の葬儀については、家族葬とし、遺骨は駿河湾に散骨することを希望します。

前半部分「遺言事項」と記載しているのは、遺産分割の方法等を記載した「遺言として法的な効力をもつ」部分となります。
後半の「付言事項」と記載しているのは、法的な効力をもたない部分となります。

2.付言事項の果たす役割とは

(1)付言事項に法的な効力はない

付言事項に法的な効力はありません。「法的な効力がないのに、遺言にわざわざ記載する必要があるのか?」と疑問に思われる方もいるかもしれません。
遺言は、法律で定められた形式に従って記載する必要があります。また、遺言者の死後に効力を生じるものである以上、遺言を受け取る人に簡潔明瞭に意思を伝える必要があります。結果として、遺言書は、形式的で無機質な文章(堅苦しい文章)となりがちです。
付言事項には、遺言の形式的な部分、堅苦しい部分を補う役割があります。

(2)付言事項は「メッセージ」

付言事項は、端的に言えば「遺言者から相続人たちへのメッセージ」です。
メッセージとして伝える内容は、相続人たちへの感謝の気持ち、遺言内容の理由説明、はたまた葬儀の希望などさまざまです。

(3)遺言事項と付言事項を区別すること

付言事項の活用は、遺言者の気持ちを伝えるうえで非常に有効な方法です。
一方で、遺言書に記載する以上は、遺言事項との分別に注意しなければなりません。
とくに注意したいのが、遺贈に対する負担・条件との区別です。
「○○という財産を遺贈するから、その代わり○〇の世話をみること。」というように、遺言事項のなかで明記する分には良いのですが、後半部分を付言事項として記載した時に、これが条件・負担なのか、単なる遺言者の希望であるのか判別できないことがあります。
付言事項(あるいは遺言そのもの)については、ぜひとも法律専門職に相談しながら、作成を進めていただければと思います。

3.付言事項の活用例

付言事項の活用例として、つぎの3つの活用方法をご紹介します。

(1)葬儀の希望を付言事項とする

葬儀の主催者は原則として相続人となりますが、自身の希望する葬儀の形式がある方もいれば、相続人が葬儀の形式に悩むことのないように希望を伝えたいという方もいるでしょう。
付言事項として、ご自身が希望する葬儀の形式をつたえることができます。

(2)相続人たちへの感謝の気持ちを付言事項とする

遺言書の方式は法律で定められており、また記載方法についても、簡潔・明瞭にする必要があります。結果として、人間味のない、機械的な文章となりがちです。
そこから、相続人たちが遺言者の気持ちを読み取ることは難しいでしょう。
そこで付言事項を活用することで、家族への感謝の気持ちや、家族の幸福を祈る気持ちなどを記載することで、遺言者の気持ちを伝えることができるのです。

(3)遺産の分配についての説明・理由を付言事項とする

複数の相続人がいるけれど、理由があって一人の相続人に遺産を集中させる場合があります。その際に、他の相続人としては「どうして私の遺産は少ないのだろうか」と疑問や不満を持つかもしれません。
その理由や必要性を伝えることは、相続における争いを防止することにつながります。
付言事項を活用して、「どのようにして分割方法を決定したのか」「どうして、そのような分割方法とする必要があったのか」を伝えることができます。