「葬儀」に関する遺言の付言事項

「葬儀」に関する遺言の付言事項

2021年6月16日

1.遺言における「付言事項」とは

(1)そもそも「遺言の付言事項」ってなに?

付言事項とは、遺言書の末尾に、遺言者の思いや希望などを遺された方々に伝達するために記載するものです。

付言事項を考えるにあたっては、その対義語である「遺言事項」と比較してみましょう。

  • 遺言事項:
    遺産の分け方や身分関係の変動など、「遺言により法的な効力を発生させる事項」として法律で限定列挙されている。
  • 付言事項:
    遺言事項ではないものの、遺言事項の記載理由や遺された方々へのメッセージを伝える「法的効力を持たない記載事項」。

付言事項の法的な意味については、以下の参照記事をご覧ください。
【参照記事:付言事項について(総論)】

(2)葬儀をめぐる親族間の意見の相違

被相続人の希望を遺族に伝えるために、「遺言の付言事項」を活用するのは1つの方法といえます。

とりわけ「葬儀」について関係者(亡くなった方、家族、家族以外の親族)の意見が合致しないケースでは、「亡くなった方の気持ち」が明確になっていることは、葬儀を主宰する喪主(家族)にとって心強いものです。

いっぽうで、「遺言の付言事項」の役割にも限界があります。

そうしたメリット・デメリットを、この記事では確認していきます。

2.葬儀・埋葬の方式について希望を伝える意味合い

(1)葬儀・埋葬の方式と喪主

葬儀については喪主が主催し、喪主が葬儀費用を負担するのが原則と言われます。

とはいえ、法律上明示した規定があるわけではなく、地域の慣習や親族間の取り決めに影響される面もあります。

亡くなられた方(被相続人)の意向を、喪主が忠実に守らなければいけないわけではないので、ある意味で喪主の裁量にまかされている部分が大きいといえるでしょう。

そうなると次のような問題が起きてきます。

  • 被相続人の意向が葬儀・埋葬の方式に反映されない
    たとえば被相続人は、シンプルな家族葬を希望し、埋葬についても希望する霊園の永代供養墓に入ることを希望していた。
    ところが、その意向を喪主が確認できておらず、一般的な葬儀が行われたうえ、実家のお寺のお墓に入ることになってしまった。
  • 喪主がどういった葬儀・埋葬を行えば良いか悩む
    喪主である長男は、被相続人がシンプルな家族葬を希望し、埋葬についても希望する霊園の永代供養墓に入ることを希望していたことを知っていた。
    しかしながら、親族から「本当に被相続人がそんなことを言っていたのか?死者に対して礼を失するのではないか?」と言われ困ってしまった。

(2)葬儀・埋葬の方式を決める際に「付言事項」を活用

こうした問題が生じないよう、被相続人の希望を「遺言の付言事項」として残しておくのは有効な対応策です。

遺言によって明確にされた故人の意思を、喪主も無視するわけにはいかないでしょう。
よほどのことがないかぎり、故人の意思に沿って、葬儀・埋葬を進めるものと考えられます。

また、残された親族間で意見の相違があるケースにあっては、親族から何か言われたとしても「故人の葬儀に関する希望が、遺言で残されていた。」と言えば、大きな説得力を持つでしょう。
喪主としても、故人の意思に沿って、葬儀・埋葬を進めれば良いという安心材料になるのではないでしょうか。

3.葬儀・埋葬の方式について付言事項を残す場合の注意点

ただし、葬儀・埋葬の方式を「遺言の付言事項」として残す場合には、つぎのような注意が必要です。

(1)付言事項が確認されないリスク

相続人が遺言者の死亡後にすぐに遺言を確認できるかどうかという問題です。

とくに葬儀については、相続発生後、比較的短期間で手筈を整える必要があるところ、ただでさえドタバタしている状況において、相続人がわざわざ遺言を確認する余裕はないかもしれません。

くわえて、自筆証書遺言を例にとると、封印された遺言書の開封は「家庭裁判所における検認」において行うことがルールとなっています。
【参照記事:自筆証書遺言の検認手続について】

そんなわけで、「遺言は、葬儀の後に開封しよう。」というのは、おかしなことではありません。
四十九日も終わって、すこし落ち着いたころに遺言を開封したら、そこに葬儀の希望が書いてあったということは十分に考えられることなのです。

そのため、付言事項において葬儀・埋葬の希望を残す場合には、相続人に対して、遺言があることと、そこに葬儀埋葬に関する希望を記載していることを伝えるべきでしょう。

(2)付言事項が無視されてしまうリスク

また、付言事項は、あくまでも「遺言者の希望」を伝えるもので、葬儀の喪主を法的に拘束するものではありません。

遺言者は、費用をかけた葬儀を希望していたけれど喪主の意思で簡素にすることも可能ですし、逆に、簡素な葬儀を希望していたけれど喪主(場合によっては親族)の意向によって盛大な葬儀が行われることも考えられます。

葬儀・埋葬に関する希望が強いのであれば、葬儀に関する死後事務委任契約を締結し、受任者に対する法的義務とすることも検討する必要があるでしょう(ただし、死後事務委任契約によっても、究極的には相続人によって契約解除をされる可能性はあります。)。
【参照記事:死後事務委任契約とは】

(3)「遺言」でなくても良いケースも

最初に確認をしましたが、付言事項というのは、遺言事項の記載理由や遺された方々へのメッセージを伝える「法的効力を持たない記載事項」です。

付言事項に記載することは、かならずしも遺言として残さなければならないわけではありません。

気持ちとして伝えることに重きを置くのであれば、「お手紙」でも「メッセージ」でも、伝えるべき人(葬儀についていえば「喪主となるであろう人」に伝えられれば良いのです。

一方で、法的な約束ごとにしたいのであれば「死後事務委任契約」を検討する必要があります。
【参照記事:死後事務委任契約とは】

財産承継の関係から、いずれにせよ公正証書遺言は作成し、関係者に事前に内容も伝えておく。
そのうえで、葬儀・埋葬の希望も文章として残しておきたいというのならば、付言事項の活用も合理的でしょう。

「どの方法がベストか」ということは、当事者の方が置かれた状況によって変わってくるのです。

4.「葬儀」に関する付言事項の具体例

参考のために、当事務所にて付言事項の文例を考えてみました。文例を見ながら、イメージをもっていただければと思います。

  • お寺のお墓に入るパターン
    私の葬儀については、○○寺の住職に読経を依頼していますので連絡してください。納骨についても、同じく○○寺の○○家の墓に入れてもらえればと思いますが、後継者がいない場合に備えて、将来的には永代供養墓に移してもらっても構いません。住職とは、そのような話もしていたので、詳しいところは長男○○に任せます。
  • 家族葬・海洋散骨を希望するパターン
    私の葬儀については、家族のみで簡素に執り行ってください。遺骨については、駿河湾にて海上散骨してほしいです。大好きだった西伊豆の海がベストです。
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