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1.認知症になる方の増加(認知症対策が必須に!)
(1)「認知症」になる人は増えている?!
認知症(この記事では、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態となる病気一般を意味する言葉として使用します。)になる人は増加しています。
これは、認知症という病気が、高齢化に比例して増加していく病気であるからです。
社会の高齢化が進んでいるのは皆さん知ってのとおりです。
社会の高齢化にともない、認知症高齢者の割合は2025年にはなんと700万人(高齢者の5人に1人)になるともいわれています。
(この数字は、2017年に内閣府が発表した「高齢者社会白書」に基づく数字です。)
(2)司法書士が出会う「認知症」トラブル
司法書士は、「不動産売買の立会い」「成年後見制度の利活用」「相続手続きのサポート」などいろいろな場面において、認知症によるトラブルを多く目にすることになります。
- 母親が認知症となってしまったので、施設入所することになった。
入所にあたっては、母親名義の自宅を売却しようとしたいのだけれど「判断能力がないと売買契約ができない」といわれて、実家の売却ができない! - 父親が認知症となってしまった。施設入所にあたり、定期預金を解約して敷金を払おうとしたのだけれど「ご本人の意思が確認できないと定期預金の解約はできない」と銀行の窓口で解約を断られれてしまった。
認知症は、「認知機能が低下し、これによって日常生活全般に支障が出てくる病気。」です。
身近なところでいえば「買い物・食事・トイレ・入浴・着替え」などなどの日常的な生活動作を一人では行うことが難しくなり、誰かの介助なしでは生活環境を維持することが難しくなります。
こうした点については、適切な介護サービスの利用が必要です(日常生活のサポートについても、司法書士は、成年後見人として関与していくことがあります。)。
少し特殊な点でいえば、いわゆる「資産凍結」の問題があります。
資産凍結とは、資産(預貯金・不動産・上場株式・投資信託などなど)を所有するご本人が認知症となってしまうことで、そうした資産を自由に利活用できなくなってしまうことをいいます。
資産の利活用は、資産を保有する本人であれば、自由に行えるはずのものです。
ところが、ご本人が認知症となってしまうと、法的な判断能力が十分でないと評価され、資産の利活用(とりわけ売却などの処分)ができなくなってしまうのです。
- 本人が認知症となり、定期預金の解約を銀行から拒否された。
- 本人が認知症となり、自宅不動産の売却手続きができないと不動産会社から指摘を受けた。
- 本人が認知症となり、遺産承継の手続きが進められずに困っている。
たとえ配偶者(妻や夫)、子供さんであっても、「ご本人が生きているのならば、ご本人だけがご本人の財産を処分することができる。」というのは法律の大原則です。
これは考えてみれば当たり前の話です。
たとえばご自身の預貯金を引き出すときには、ご自身か、ご自身が代理をお願いした人に限られているはずで、自分が知らないところで預貯金の引き出しが行われることはないはずです。
「本人が認知症になったから」「本人では判断することができないから」といった理由だけで、勝手に本人の財産をどうこうできることにはならないのです。
そこで、「認知症に備える」ことが重要になってくるのです。
(3)沼津の司法書士・貝原事務所のご紹介
当事務所は、沼津・三島を中心とする静岡県東部地域において司法書士サービスを提供しています。
相続登記などの不動産登記業務、会社設立などの商業・法人登記業務のほか、近年は、相続にともなう遺産承継手続きや相続の準備のための諸手続きについても皆様のサポートを行っています。
認知症との関係においては、これからご紹介する「法定後見」「任意後見」などの成年後見制度だけでなく、「家族信託」のご相談にものっています。
2.認知症による課題を解決するために
(財産管理や生活環境のサポートについて)
ここまでで、認知症(認知機能が低下⇒日常生活全般に支障が生じる)になると、つぎのような課題がうまれることを確認しました。
- ご本人が、自分自身で、快適な生活環境を整えることができなくなる。
- ご本人の財産について、利活用したい場面で、利活用できない(資産凍結)場面が発生してしまう。
これらの課題に対応するためには、どういった対応方法が考えられるのでしょうか?
(1)ご本人の生活環境を整えるために
認知症になることで、ご自身で快適な生活環境を維持できなくなった場合には、そうした「生活環境を維持するための作業」を第三者にサポートしてもらう仕組みが必要となります。たとえば、つぎのようなサービスです。
- 給食サービス
- 買物代行サービス
- 介護サービス(在宅介護だけでなくデイサービスやショートステイなども)
- 外出・通院支援サービス
こうしたサービスの利用にあたっては「契約」が必要となります。
契約を締結するのは原則としてご本人です。したがって、ご本人が元気なうちに契約しておくことが求められます。
認知症になって判断能力が著しく低下してしまうと、このような各種サービスの契約締結すらできないと判断されることもあります。
ただし、ご自身が元気なうちから、これらのサービス契約を締結することは費用面も考えると合理的ではありません。
そこで、ご本人が認知症となった場合に、ご本人に代わって、必要なサービス契約を締結してくれる代理人を選ぶという方法が考えられます。
この「代理人を選んでおく」という仕組みが「任意後見契約」(にんいこうけんけいやく)です。
「任意後見契約」の詳細については、のちほど、一緒に確認していきましょう。
(2)資産凍結を回避するために
認知症になることで、法的な判断能力が十分でない状態になってしまうと、不動産や預貯金などの財産を利活用することができなくなります。
こうした状態を「資産凍結」と呼んでいますが、この資産凍結の状態を回避する方法としては、大きく分けて2つの方法が考えられます。
- 信頼できる第三者(子供や親類など)に、自身の財産を贈与したり信託したりする。
- 信頼できる第三者に対して、万が一自分が認知症になった場合に備えて、あらかじめ代理人を選任しておく。
これらの方法は、法律用語で簡単に表現するとつぎのようになります。
- 家族信託・生前贈与
一定の目的をもって財産を第三者に託す方法。 - 任意後見契約
一定の代理権を、第三者に与える方法。
「家族信託」(かぞくしんたく)は、「民事信託」(みんじしんたく)とも言われます。意味するところは同じなので、この記事では、多くの人が利用している「家族信託」という言葉を使うようにします。
家族信託や任意後見契約について、これから一緒に内容を確認してきましょう。
(3)認知症対策はご本人が元気なうちにやることが必要!
ここまでで、認知症になることで、生活環境の維持がむずかしくなったり、資産凍結によって資産の利活用がさまたげられる状況が生じることが確認できました。
いっぽうで、そうした状況になったときに備える対応策があることも確認できました。
ここで重要なポイントがあります。
それは「対策は認知症になる前に実行しなければならない」ということです。
対応策としてよく挙げられるのが「家族信託」「任意後見契約」の2つなのですが、どちらも、ご本人が法的な判断能力が十分な状況で契約等をしなければ、「家族信託」であっても「任意後見契約」であっても「無効」となってしまうのです。
「認知症対策のために家族信託を利用したい。」「認知症になった場合に備えて任意後見契約を締結したい。」そんなふうに当事務所にお越しになる方のなかにも、すでにご本人の認知症が進行し、法的な判断能力が不十分な状態になってしまっているケースが少なくありません。
こうした場合には、希望する対策を実行することはできません。
「家族信託」や「任意後見契約」に限らず、元気なうちに準備をするというのは非常に難しいのですが、まずは「認知症になるとどうなってしまうのか」を知っておくこと、そのうえで対策の必要性を真剣に考えることが必要といえます。
ちなみに、すでに法的な判断能力が不十分な状況となってしまった方に対しては「法定後見制度」の活用が考えられます。
法定後見制度については、詳しくは、つぎの記事をご覧ください。
3.どういった人が「認知症対策」をしているの?
当事務所で「認知症対策」のために家族信託・任意後見契約を検討される方には、つぎのような方が多い印象です。
- 資産凍結になることを防止するためにご本人やお子様が家族信託・任意後見契約を検討
- 認知症となった後も生活環境を保持するために、ご本人が任意後見契約を検討
- いわゆる「おひとり様」や、親族がいても老後の面倒をかけたくはない方が、任意後見契約を検討
より具体的には、つぎのような事例です。
(1)家族信託の活用事例
父は収益不動産を所有してる。
収益不動産は、日常的な修繕工事への対応や、長期的には大規模修繕工事の実施が求められる。
また賃貸借契約の締結や解除、状況によっては物件自体の売却の判断をすべきときもあり、認知症による資産凍結はもっとも避けたい。父が高齢となってきたため、すでに実質的な管理は子(長男)に任せてきた。
また、父に相続が発生した際には、収益不動産については長男が引き継ぐことで親族間の合意は整っている。
そこで、早い段階から認知症対策として家族信託を活用することにした。
(2)任意後見の活用事例~ご家族内での利用~
母は自宅にて一人暮らしをしている(父は既に他界している。)。
母の財産は、父から相続した自宅不動産が主なもので、それ以外には預貯金がわずかばかり。
認知症となって自宅での生活が難しくなった場合には、自宅を売却することが必要となる。
自宅を売却する時に、万が一にも「母が認知症で売却できない。」という状況は避けたい。
そこで認知症対策として、子供と任意後見契約を締結することにした。
(3) 任意後見の活用事例~司法書士との契約~
私は自宅にて一人暮らしをしている(夫は既に他界しており、子供はいない)。
兄弟姉妹も既に他界しており、甥や姪はいるが、日常的な交流はない。
そのため、認知症となり、財産管理や日常生活のサポートが必要な場合において、頼れる親族がいない。
そこで認知症対策として、信頼できる司法書士と任意後見契約を締結することにした。
家族信託・任意後見契約のそれぞれについて、簡単なものですが活用事例をご紹介しました。
自分や、自分たち家族にあてはまるというかたもいれば、自分たちの状況とは少し違うなという方もいらっしゃるでしょう。
とはいえ、親族関係や財産の状況によって、選択すべき制度や、使い方はそれぞれです。
したがって、制度利用にあたっては、成年後見制度・信託・相続・介護制度などに精通した専門家に相談しながら検討をすすめるべきだと考えます。
そうした「専門家」の代表例としては、司法書士や弁護士が考えられます(ただし、ひとくちに司法書士や弁護士といっても、後見制度や信託は取り扱っていないといった方もいます。そうした点は、ホームページを見て確認する、一度相談に行ってみるなどしてチェックしておく必要があるでしょう。)。
4.どれくらいの費用が掛かるのか
認知症対策として、家族信託・任意後見契約をご紹介しました。
具体的な内容に入る前に、誰しもが気になる「費用」について確認しておきましょう。
費用としては、制度利用にあたり必ず必要な費用(実費)と、契約締結にあたり専門家のサポートを受けたっときの費用(報酬)を分けて考える必要があります。
そして、費用のうちの大きな割合を占めるのは「専門家のサポート報酬」となります。
この点については、サポートを依頼する専門家ごとに異なるため、サポートを依頼する専門家に対して直接確認するのが一番手っ取り早いです。
家族信託や任意後見契約の利用は、ご本人や周りの家族に大きな影響をあたえる、非常に重要で大切なイベントです。
「各種制度の説明をしっかりすることができるのか」「費用の説明は明確になされているか」
こういったことから、シビアに依頼する専門家の選別をするべきです。
「ちょっと頼りないな」とか「費用が不明確で不安を感じるな」ということであれば、それは依頼をすべき専門家ではないと判断すべきです。
(1)任意後見契約の費用
【初期費用】任意後見契約を締結する時に必要な費用
- 【実費】公正証書の作成手数料
・・・3万円程度(登記のために法務局に納める手数料も含まれる。) - 【実費】戸籍などの必要書類の収集
・・・数千円程度 - 【報酬】任意後見契約の締結サポートを専門家に依頼
・・・15万円程度(※依頼した専門家の報酬基準による)
【任意後見契約を発動させるための費用】
判断能力が低下して任意後見人によるサポートが必要となったときの費用
- 【実費】裁判所への申立手数料
・・・数千円程度 - 【実費】医師の診断書などの必要書類の収集
・・・2万円程度 - 【報酬】任意後見契約の締結サポートを専門家に依頼
・・・10万円程度(※依頼した専門家の報酬基準による)
【任意後見を継続するための費用】サポートを行う任意後見人等への報酬
- 【報酬】任意後見人への報酬
・・・任意後見契約の定めに基づく(無報酬の場合もあるが、専門家に後見人への就任を依頼すると、月額3~5万円が平均的。これに加えて、不動産売却などの特殊事務については別途報酬を定めることも。いずれにせよ依頼した専門家の報酬基準によるので注意。) - 【報酬】任意後見監督人の報酬
・・・月額1~3万円が平均的。ただし管理事務の多寡に比例し、また金額は家庭裁判所の認定による。
(2)家族信託の費用
【初期費用】家族信託を設定する時に必要な費用
- 【実費】公正証書の作成手数料
・・・2~10万円程度(信託財産の価額に応じて変動。) - 【実費】不動産を信託した場合の登録免許税
・・・固定資産税評価額×0.3or0.4% - 【実費】信託口口座の開設
・・・0~10万円程度(金融機関による) - 【実費】その他必要書類の収集
・・・1万円程度 - 【報酬】信託契約の締結サポートを専門家に依頼
・・・30万~100万円超(※依頼した専門家の報酬基準による。信託財産の評価額に定率を乗じて計算するケースがほとんど。)
【家族信託を継続するための費用】
「家族信託においてランニングコストは不要」と言われることがあります。
しかしながら、事案によっては、受託者に報酬を支払うケース、関与する専門家(税理士等)に報酬を支払うケースがあります。
また、家族信託は長期にわたって継続されることが少なくありません。
途中で「信託の変更」が必要となるケースもあり、その対応には専門家の関与(ひいては専門家への報酬)が必要となってきます。
【家族信託を終了するための費用】
家族信託を終了する場合には、信託財産を帰属権利者(信託終了時に信託財産を承継する人)に引き渡す必要があります。
とくに不動産の場合には、信託の終了による所有権移転登記と信託登記抹消が必要となり、対象不動産に応じて登録免許税が必要となります。
【家族信託においては税金に注意】
詳細は省略しますが、家族信託においては、信託財産の移転が発生するため、財産の移転にともなう各種税金に留意する必要があります。
そのため、信託設定の場面では税理士さんの関与が必要不可欠となります。
5.具体的にどういった制度なのか
(1)家族信託
家族信託とは、「信じて託す」という言葉のとおり、ご本人の財産の管理処分権を特定の家族に託しておく制度です。
家族信託における主な登場人物はつぎのとおりです。
- 委託者:財産管理を託すご本人。
- 受託者:財産管理を託される人。また託された財産のことを「信託財産」という。
- 受益者:信託財産から生じる利益を受ける人。
- 帰属権利者:信託終了時に信託財産を引き継ぐ人。
つぎのようなシンプルな具体例を考えてみましょう。
父が自身の収益物件(および管理費用にあてる金銭)を娘に信託した。
信託財産から発生する利益は父自身が受ける。
父死亡の際には、信託は終了し、信託財産は娘が引き継ぐ。
このケースでは、登場人物は次のとおりとなります。
- 委託者:父
- 受託者:娘
- 信託財産:収益物件および金銭
- 受益者:父
- 帰属権利者:娘
なお、このほかにも「信託監督人」を定めたりなど、家族信託には様々なバリエーションが考えられます。
信託はいろいろな方法によって設定することが可能ですが、この記事では「信託契約」により信託を設定するケースを考えてみます。
信託契約の主な内容はつぎのとおりです。
- 信託の目的
- 信託財産の内容
- 委託者、受託者、受益者などの登場人物。また、その変更や承継に関する定め。
- 信託の内容、受託者の権限に関する事項
- 受益権の内容
- 信託の終了に関する事由
- 帰属権利者など残余財産の帰属に関する定め
家族信託のメリットとしていわれるのは、「成年後見制度と異なり、家庭裁判所の関与がないため、家族内で柔軟な財産管理ができるから。」といわれます。
たしかに、つぎの任意後見契約と比較してもらえればわかるように、家庭裁判所は家族信託のなかには登場してきません。
信託の内容そのものも、当事者(家族)によって自由に設定することが可能です。
そうした点をもって「柔軟である」として評価されるポイントとになっています。
しかしながら、つぎのようなデメリットがあることにも留意が必要です。
- 家族信託の設定にあたっては、専門家の関与が不可欠であり、そうした専門家への報酬というのは比較的高額であること。
- 信託財産の管理権限は受託者に移転するため、受託者を「監督」する仕組みは必要不可欠となる(にもかかわらず、後見制度のように家庭裁判所の監督という仕組みは用意されていない。)。
また、そもそも信頼できる「受託者」が親族の中にいなければ利用することはできない。
そんなわけで、家族信託の利用にあたっては、「そもそも信託の利用に適したケースなのか」というところも含めて、複雑な信託制度に対応できる専門家に相談することが必須となるのです。
(2)任意後見契約
任意後見契約とは、ご本人が、将来判断能力が低下した場合に備えて、本人のサポーター(任意後見人)を選択し、契約するものです。
任意後見契約においては、3人の登場人物がいます。
- ご本人
任意後見契約の当事者であり、将来、判断能力が低下した際には任意後見人によるサポートを受ける人です。 - 任意後見受任者
任意後見契約の当事者であり、将来、ご本人の判断能力が低下した際には、任意後見契約の内容にしたがい、ご本人をサポートする義務を負います。 - 任意後見監督人
家庭裁判所によって選任される人です。任意後見監督人が選任されることで任意後見契約は「発動」します。
ご本人は、任意後見契約の締結にあたり、つぎの事項を決定する必要があります。
- 任意後見受任者(将来、任意後見人としてご本人をサポートする人。)
- 任意後見人の代理権の内容
- 任意後見人の報酬の定め
- 任意後見人の任意後見監督人に対する報告義務の内容
また、任意後見契約は、契約を締結してから、いくつかのステップをへて発動します。具体的には、つぎのとおりです。
- 任意後見契約の内容を決定する。
- 任意後見契約を公正証書として締結する。
- 締結後、公証人が、任意後見契約の内容を登記申請する。
- ご本人の判断能力が低下。
任意後見受任者等が、いくつかの必要書類とともに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てる。 - 家庭裁判所により、任意後見監督人が選任される。
(家庭裁判所は、任意後見監督人の選任につき、登記申請をする。) - 任意後見人の職務(ご本人のサポート)がスタート!
6.利用する際のポイントは何か
(1)事前の準備が必要不可欠!
認知症に備えるための制度として、家族信託と任意後見契約について確認してきました。
この2つの仕組みに共通して言えることは「ご本人が認知症等の理由で判断能力が低下する前に、事前に準備しておく必要がある。」ということです。
認知症の兆候がではじめてから、あるいは認知症による課題が発生してから検討をはじめても、時すでに遅しなのです。
(2)「専門家」に相談しながら組み立てを行うべき
家族信託も任意後見契約も、単純な制度ではありません。
そもそも「どういった制度なのか」を、ご本人や利用を検討している親族が理解する必要があります。
また、それぞれの制度を単独で理解するだけでは不十分で、家族信託・任意後見契約・法定後見・遺言など、いわゆる終活に関連する各種制度と比較し、それぞれのメリット・デメリットを把握していく必要もあります。
理解不十分なままでの利用は、とりわけご本人にとって、大きな不利益をもたらす可能性があります。
いっぽうで、認知症への準備不足の状態で、ご本人の判断能力が低下した結果、「やむを得ず」法定後見を利用せざるを得ない方も多くいらっしゃいます。
ご本人がお元気なうちに、信頼できる専門家を見つけ、なんども相談しながら適切な準備を進めていきたいものです。
7.家族信託や任意後見契約を利用する際の注意点
(1)判断能力が不十分な状態になってしまったら(法定後見の利用)
くりかえしになりますが、家族信託や任意後見契約は、ご本人が元気な状況のうちに、あらかじめ準備しておくべきものです。
ご本人の判断能力が低下した状態で、ご相談に来られるかたもいらっしゃいますが、そうした段階では、とりわけ家族信託の利用は困難です。
ご本人の判断能力が低下した状態になってしまったのならば、法定後見制度の利用を検討すべきです。
(2)信頼できる人が見つかるかどうか(任意後見や家族信託において)
家族信託や任意後見契約は、いずれもご自身の財産の管理を、信頼できる第三者に託すものです。
家族信託であれば、受託者は信託財産の管理権限を取得します。
信託の定め方によっては、受託者が単独で信託財産の売却処分をすることもできるほどに、大きな権限を持つこととなります。
任意後見契約においても、任意後見人は、契約で定められた広範な権限をもつのです。
このように、ご自身の重要財産の処分を託すことができるような人を見つけ出さなければいけませんし、そうした人がいないかぎりは家族信託や任意後見契約は利用できないのです。
(3)制度を理解した専門家とともに組み立てていく必要がある
家族信託や任意後見契約、そして法定後見制度は、ご本人の生活・財産関係に大きな影響を及ぼすものです。
くわえて、ご本人の生活・財産関係を、長期間にわたって支える制度であり、最初だけ使って終わりというものではありません。
そのため、つぎの点に配慮する必要があります。
- 家族信託・任意後見契約・法定後見制度など、それぞれの制度のメリット・デメリットをしっかりと理解すること。
- 家族信託・任意後見契約・法定後見制度を比較して検討すること。
- できるだけ「はやめ」の準備をこころがけること。
以上のことがらは、一般の方が、書籍やインターネットをつうじて学ぶことが不可能なことがらではありません。
しかしながら、やはり家族信託・任意後見契約・法定後見に詳しい専門家(弁護士や司法書士)に相談することは欠かせないように思います。
- 家族信託・任意後見契約・法定後見制度も、いずれも「法律により定められた制度」です。基本にあるのは、信託法や後見法制の正しい理解です。こうした点に、法律専門職は強みを持っています。
- そうはいうものの、家族信託・任意後見契約・法定後見制度は、「法律だけでは対応できない、実務面での対応。」も重要になります。こうした点は、実際に制度利用をしている専門家でなければアドバイスが難しいものです。
とりわけ2点目の「実務面での対応」は、書籍やインターネットに記載するのが難しいことがらでもあります。
書籍やインターネットをつうじて基本的な理解ができたうえで「自分自身や、ご自身の家族が利用することを検討しよう!」という段階になったのならば、家族信託・任意後見契約・法定後見制度を取り扱っている法律専門家(弁護士や司法書士)に相談してみてはいかがでしょうか。