親族ではなく専門職に成年後見人を依頼することについて

親族ではなく専門職に成年後見人を依頼することについて

1.親族以外に成年後見人を依頼することの意義

(1)成年後見人には親族でもなれる

成年後見人は、たとえば弁護士や司法書士でなければなれない、というわけではありません。

法律上は「未成年者ではダメ」などの規定はありますが、司法書士などの職業資格は条件にはなっていないのです。

成年後見人の選任は、成年後見の申立てを受けた家庭裁判所がおこないます。
申立てに際しては「成年後見人等候補者」を家庭裁判所に伝えることができますが、家庭裁判所は、候補者としてあげられた人を必ず選任しなければならないわけではありません。

成年後見人の選任は、家庭裁判所の判断するところであり、家庭裁判所がOKといえば、弁護士や司法書士ではなく「親族が後見人になること」も可能なのです。

(2)成年後見人を専門職に依頼するケースは?

  • 身寄りのない方や、親族がいても後見人としての関与を希望しない案件の増加により、ご本人の成年後見人となるべき親族がみあたらないケース。
  • 想定されている成年後見人としての活動が専門的(不動産の売却や遺産分割協議の実施など)であることから、親族が成年後見人となることをためらうケース。
  • 親族間で争い(相続争いの前哨戦)が起きており、親族間で「誰を後見人にするか」「そもそも後見を開始すべきかどうか」について意見がまとまらないケース。

成年後見に関する記事(新聞やインターネットなど)を見ていると、「成年後見人の7割は専門職だ。親族の後見人は2割くらいしかいない。この状況は、良くない状況だ。」という主張をみることがあります。

たしかに、選任された成年後見人等の割合はそのとおりなのですが、だからといって「成年後見制度から親族は排除されている」というのは行き過ぎのように感じます。

そもそも申立ての段階で、上記のような事情から親族以外を希望(または候補者になるような親族がいない)するケースが多いのです。

(3)成年後見制度と当事務所のかかわりについて

当事務所(司法書士貝原事務所)は、沼津・三島をはじめとする静岡県東部を中心に活動する司法書士法人です。
成年後見制度に関しては、法定後見・任意後見の活用サポート、成年後見人等への就任、各市町で実施されている市民後見人養成講座への講師派遣など、積極的に活動をおこなっています。
ここまでで、そもそも「まずは成年後見制度の概要が知りたい!」「法定後見ってなに?」「類型(るいけい)ってなに?」という方は、つぎの記事もご覧ください。

【参照記事:成年後見制度の利用をご検討の方へ】

【参照記事:法定後見の3類型について】

なお、ここでまで「成年後見人」という言葉を使っていますが、この記事では「成年後見」を法定後見における後見類型の意味で使用していますので、ご了承ください。

また、「ご本人」という言葉もよく登場してきます。
この場合の「ご本人」とは、成年後見制度によるサポートを直接受ける人を指します。
「認知症のおばあちゃんのために後見人を選任したよ。」という例では、後見人の選任を受けた「おばあちゃん」が「ご本人」といいうことになります。

2.専門職(司法書士)に成年後見人を依頼するメリット・デメリット

(1)司法書士ならではの特徴

これまでは「成年後見人は親族でもなれること」、とはいえ「成年後見人として活動しているのは専門職の人々が多数であること」を確認してきました。

そして、ここでいう「専門職」とは、具体的にいうと司法書士・弁護士・社会福祉士を指します。
このなかでも「司法書士」が成年後見人等への就任件数では、いちばん多くなっています。

また、当事務所も「司法書士事務所」ですので、ここからは司法書士が後見人に就任した際のメリットやデメリットについて確認していきたいと思います。

  • リーガルサポートの存在
    司法書士の最大の特徴ともいえるのが「リーガルサポート」という団体の存在です。
    リーガルサポートは司法書士が会員となって構成される団体であり、後見制度に関する様々な活動を行っています。
    そのなかでも、とくに皆さんにとって重要なのは「会員の後見業務の監督」と行っていることです。
    そのため、リーガルサポートに所属している司法書士は、家庭裁判所とリーガルサポートによる監督(ダブルチェック)を受けていることになるのです。
    ただし、つぎの点には注意が必要です。
    • 全ての司法書士がリーガルサポートの会員ではないこと
    • 「リーガルサポートの会員」全員が、後見人としての活動実績があるとは限らないこと
  • 多数の後見人としての実績
    さきほども述べたように、専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士)のなかでも「司法書士」が就任件数では、いちばん多くなっています。
    多いから良いというわけではないのですが、家庭裁判所からたくさん選任されているということ(そこには一定の信頼を前提としているはず)、専門職としての経験や知識が蓄積されていることにはなるかと思います。
    ただし、全ての司法書士が後見人として活動しているわけではありません。
    また、後見人としての活動実績についても、司法書士によって大きな差があることにも留意する必要があります。
  • 相続、不動産売買に強み
    司法書士は、成年後見に関連した業務のほか、不動産登記・相続に関する業務を取り扱っています。
    相続や不動産に関する課題は、成年後見のなかでも接する機会が非常に多いものです。
    司法書士は、相続や不動産に関する知識の蓄積があり、そうした知識を、成年後見人としての活動にも活用することができるのです。

(2)司法書士ならではの財産管理

司法書士が成年後見人に選任されると、ご本人の財産は専門職後見人によってガードされることとなります。

悪徳セールスなど、ご本人の財産を悪用しようとする人(ときには親族も含まれます。)から、ご本人の財産は守られることになるのです。

また、これは専門職に限りませんが、後見人としての求められる財産管理は「1円単位で残高・収入・支出を管理する」ということです。
「残高が100円あわない」などというのは問題外であり、ピッタリ残高があうのが当然という感覚で財産管理を行っていかなければなりません。
ご自身が自分のためにおこなう「家計簿のチェック」とは次元が異なる点に注意が必要です。

(3)司法書士ならではの身上保護

身上保護とは、簡単にいえば、ご本人の生活環境を整える仕事です。
ご本人の体調によっては、「ご自宅での介護サービスの利用を希望するケース」「自宅ではなく老人ホームなどへの入所を希望するケース」「病状の悪化から入院によるケアを必要とするケース」などなど、ご本人が望む生活環境は様々です。
ご本人の要望や体調にあわせて、介護・看護・医療などさまざまな関係者との調整をおこない、身上保護を実施していくことになります。

そして適切な身上保護の前提には、ご本人とのコミュニケーション、ご本人を支える支援者とのネットワークづくりが重要です。
こうした点については、親族後見人のほうが優れているといわれることが多いのですが、専門職としても「コミュニケーションスキルの向上」「財産管理だけではなく、たとえば介護保険や健康保険に関する知識を蓄積する」など日々研鑽を重ねています。

(4)ご親族が「後見業務」から解放される

成年後見人に就任すると、つぎのような後見業務が発生します。

  • 厳格な財産管理(どんぶり勘定はダメ!)
  • 適切な収支管理(ご本人のための財産を利活用)
  • 定期的な家庭裁判所への報告
  • 特別な後見事務について家庭裁判所に報告したり許可を得たりする

これらの業務は、後見人が専門職であろうが、ご親族であろうが変わりはありません。
ご親族であっても、専門職同様の対応がもとめられるのです。

そのため、ご親族の中には「本人の世話をするのは良いのだけれど、後見人としての事務に忙殺されて、本人のことに集中できない。」という方もいらっしゃいます。

そうしたケースでは、専門職後見人と事務を分担するということも考えられるのです。

(5)デメリットは?

ここまでは、司法書士をはじめとした専門職後見人に依頼することのメリットについて確認してきました。
しかしながら、「あらゆるケースのおいて専門職後見人が選任されるべき」というわけではありません。

専門職後見人に対してマイナス面が指摘されるのは次のような点です。

  • 親族の意向や意図との食い違い
    専門職後見人と、ご本人をささえる親族との意向が食い違いが、専門職後見人へのマイナス評価となることがあります。
    この点については、いろいろな原因が考えられますが、個人的に多いと考えられる原因はつぎのとおりです。
    • ご本人、後見人、親族のコミュニケーションがうまくいっていない
      (専門職後見人の調整能力不足。)。
    • 関係者が成年後見制度の特徴を理解できていない
      (こうしたミスマッチがないように、申立てまえの段階で、制度利用の要否について十分に検討しなければなりません。)
    • ご本人を中心とした考え方ができていない。
  • 報酬
    専門職後見人の場合には、家庭裁判所が認定する報酬が、ご本人の負担で支払われます。
    後見人の報酬は、すくなくない額となるため、後見制度の利用が長期にわたると、ご本人の財産にとっては大きな負担となってきます。
    詳しくは、つぎの項目で確認しています。
  • 身上保護が不十分?!
    専門職後見人は、財産管理ばかりして身上保護(ご本人の生活環境を整える仕事)ができていないといわれます。
    この点については、親族後見人のほうが優れているといえる場面が多いのは確かです。
    個人的には、だからこそ、後見人をやることができる親族がいるのであれば、積極的に親族後見をおこなっていただきたいと思っています。
  • 横領?!
    残念ながら、専門職後見人による横領事件が発生しているのは事実です。
    そのために家庭裁判所だけではないチェック機能が重要となります。
    さきほどご紹介したリーガルサポートは、そうしたチェック機能をもった団体となっています(とはいえ、リーガル会員による横領事案も、これまた残念ながら発生してしまっています。)。

3.司法書士に成年後見人を依頼する場合の報酬

(1)司法書士による後見申立てのサポート

成年後見制度の利用にあたっては、家庭裁判所に対して後見人を選任してもらうための申立てが必要となります。
申立てにあたっては申立書のほか、財産目録や収支予定表、それらの裏付け資料を添付しなければならず、なかなか大変です。

そのため、弁護士に申立ての代理人となってもらったり、司法書士に申立書類の作成サポートを依頼する人がいます。

  • 司法書士への報酬
    司法書士に申立書類の作成サポートを依頼した場合、8万円~15万円くらいとなるように思います。
    ただし、報酬は司法書士それぞれが任意で定められるものです。
    依頼にあたっては、事前に、依頼する司法書士に対して確認するようにしましょう。
  • 裁判所等におさめる手数料
    だいたい1万円くらいと考えてください。
    そのほかに戸籍や診断書の取得費用がかかります。
    また申立てをしたあとに裁判所から「鑑定」という医師の診断を受けるよう指示されるケースがあります。この鑑定費用は、だいたい5~10万円くらいといわれています。

(2)司法書士が成年後見人に就任

後見人に就任した場合の報酬は、家庭裁判所が決定します。
専門職後見人の場合には、家庭裁判所が指定する1年に一度の定期報告と同じタイミングで報酬付与の申立てをし、家庭裁判所の判断をあおぎます。

こうして決定された報酬金額を、ご本人の財産から受領することになります。

報酬基準については、別の記事にまとめていますので、そちらもご覧ください。

【参照記事:専門職後見人の報酬について】

4.やはり親族が成年後見人を務めたい場合には

ここまで、専門職後見人がつくことのメリット、親族後見人がつくことのメリットを確認してきました。

そうしてみると「やっぱり親族で後見人をやってみようかな」「親族後見人として頑張ってみようかな」という方もいらっしゃると思います。

そのように考えた場合には、あらためてご本人をめぐる状況を振り返ってみてください。
というのも、せっかく親族後見で進めていこうと思っても、つぎのような事情がある場合には注意が必要だからです。

(1)親族が選任されない状況でないこと

申立てに際して親族を後見人候補者として記載しても、家庭裁判所から親族後見人として選任を受けることが難しいケースがあります。
たとえばつぎのようなケースです。

  • 親族間で、ご本人の財産管理・身上保護をめぐる方針につき、争いがあるケース
    (とりわけ遺産相続争いの前哨戦となっているようなケース)
  • 申立て前の段階から、特定の親族がご本人の財産管理をおこなっていたケースで、いちじるしく不適切な財産の利用や支出があるケース
  • ご本人に対して虐待をおこなっていたケース

このほかにも候補者となる親族がご本人に関して多額の立替えをおこなっているとか、遺産分割協議で互いに相続人となっているなどといった事情も考慮されることがあります。

こうした事情の有無は、たとえば司法書士に成年後見の申立てサポートを受ける中で確認していくと良いかもしれません。

申立てをしてから「こんなはずじゃなかった」「そんなことになるなら申立てなんかしなかった」ということになるような事態は避けたいものです。

【参照記事:親族後見と選任パターンについて】

(2)親族後見人として「適正な後見事務」ができるか

さきほども述べたように、家庭裁判所が成年後見人に対して求める業務水準は、後見人が専門職であろうが、ご親族であろうが変わるところはありません。
ご親族であっても、専門職同様の対応がもとめられるのです。

そして、成年後見人に対して求められる業務水準というのは、たとえば次のようなことがらです。

  • 厳格な財産管理(どんぶり勘定はダメ!)
  • 適切な収支管理(ご本人のための財産を利活用)
  • 定期的な家庭裁判所への報告
  • 特別な後見事務について家庭裁判所に報告したり許可を得たりする

こうした業務は、「家計の家計簿をつけているから大丈夫!」「仕事でワードやエクセルは使いこなしているから報告書の作成も問題ない!」とおっしゃるかたでも、実際にやってみると意外と負担になるようです。

そのため、親族後見人となるにあたっては、どういった後見業務があるのか、後見業務で求められている水準はどのようなものか、といったところを申立て前の段階で把握しておく必要があると考えます。

5.成年後見の関連記事のご紹介

ここまで、かなりの長文となりましたが「親族ではなく専門職に成年後見人を依頼すること」について考えてきました。

とはいえ、ひとつの記事で、いろいろなことがらを検討するために、内容を省略した箇所もあります。

より詳細な内容については、個別に記事を作成していますので、そちらも是非ご覧ください。

【参照記事:成年後見制度の利用をご検討の方へ】

【参照記事:親族が後見人となることについて】

【参照記事:遺産分割協議を進めるために成年後見人の選任を求められた場合】

【参照記事:不動産売却にあたり、成年後見人の選任を求められた場合】

【参照記事:子のない夫婦の成年後見・任意後見】

6.当事務所の紹介

さいごに、この記事を作成している司法書士貝原事務所を紹介させてください。

(1)沼津・三島をはじめとした静岡県東部地域にて活動

当事務所は、沼津・三島をはじめとした静岡県東部地域を中心として、司法書士サービスを提供しています。

(2)成年後見人としても活動しています

当事務所に所属する司法書士は、リーガルサポートにも所属しており、また実際に成年後見人としても活動しています。

成年後見人へ就任するだけでなく、成年後見の利用申立てのサポート、親族後見人の活動のサポートも行っています。

そうしたサポートをおこなう中で、つぎのような考えをもつようになりました。

  • 成年後見制度は、正しく制度の内容を理解したうえで活用するべき。
  • なんでもかんでも成年後見制度というのは、良くない。
    とりわけ親族後見を進めようとする際には、ほかの関連する制度(相続、任意後見、家族信託など)との比較もしながら、利用を検討するべき。
  • とはいえ、成年後見制度は使えない制度だと言い切ってしまうのも、おかしい。
    成年後見制度を利用することで、ご本人の権利を保護し、生活をサポートすることができる事例はたくさんあります。

成年後見制度の利用を検討する皆さんが、皆さんの状況に適した判断ができるよう、今後も情報発信を頑張っていきたいです。