遺産分割協議に参加できない相続人がいる場合の遺産承継手続き

遺産分割協議に参加できない相続人がいる場合の遺産承継手続き

2021年1月5日

1.遺産分割協議とは(相続人全員での合意!)

遺産の分け方は、相続人全員(戸籍調査で判明)で決定する必要があります。

相続人全員で話し合いを行い、遺産の分け方を全員で合意します。これを「遺産分割協議」といいいます。

相続人の中に、遺産分割協議に参加できない人がいる場合には、別途、それらの方の代理人を裁判所の手続きにより選任したうえで遺産分割協議を進める必要があります。

2.意思能力の問題により遺産分割協議に参加できない人

遺産分割協議は、法律上の手続きの一つです。
そのため、法律上の手続きを行う能力がなければ、遺産分割協議に参加することができません。

ここで問題となるのが、未成年者や、認知症等の病気により意思能力が十分でない方々です。

これらの方が相続人に含まれるときには、未成年者については「特別代理人」を、意思能力が十分でない方については「成年後見人」等を選任する必要があります。

(1)未成年者について(特別代理人の選任)

本来、未成年者については、親権者が代理人として契約等を行うのが原則です。
遺産分割協議についても同じことが言えるのですが、相続の場面では、通常は親権者自身も相続人となっているケースがあります。

典型例が、父Aさんが亡くなり、相続人が配偶者Bさんと未成年の子Cの2名という場合です。

本来であれば、未成年であるCについては、親であるBが親権者として代理すれば良いのですが、BとCは、ともにAの相続人として遺産分割協議を行うべき当事者となっています。
こうしたケースにおいては、BとCは「利益相反状態」にあるとされ、法律上、親権者が子を代理することができないことになっています。

こうしたケースでは、親権者に代わって子を代理する「特別代理人」の選任を家庭裁判所に申立てる必要があります(こうした手続きを行わず、形式的に遺産分割協議書を整えてても、法務局や銀行等で手続きする際に、不備を指摘されることとなります。)。

以前は、形式的に「特別代理人」の選任を受けて手続きを進めるだけでも良かったのですが、最近は「子の法定相続分が確保されているか、確保されていないとすればどのような理由があるか。」という点を、特別代理人の選任にあたり裁判所が重視するようになってきています。
この点についても、遺産分割協議を行うにあたっては、検討する必要があります。

【参照記事:相続人に未成年者が含まれる場合の遺産分割協議】

(2)認知症等に起因して意思能力が十分でない方について

認知症や精神障害等により、法律上の意思能力が十分でない方については、その支援のために、成年後見人等を選任します。

選任された成年後見人等が、ご本人を代理して遺産分割協議に参加します(成年後見にはいくつかの類型がありますが、以下では、後見類型を前提として、単に「成年後見」「成年後見人」と表記します。)。

成年後見人を含めた遺産分割協議については、2つの注意点があります。

1点目は、遺産分割協議にあたって、本人の法定相続分に見合った遺産を与える必要があるということです。
成年後見人は、本人を保護するために選任された人です。
本人自身の判断で、法定相続分以下の遺産取得でOKとしたり、あるいは全く遺産を受け取らないとすることには何ら問題はありません。
しかしながら、成年後見人等は、そうした本人の意思を明確に確認できない状況で、代理して判断する必要があります。
そうなると、保守的に、本人が得られるべき「法定相続分」相当の遺産については、受け取るべきと判断するのが原則です。

2点目は、遺産分割協議が終了後も、成年後見人は残り続けるということです。
成年後見制度は、本人保護のために利用されるものです。
いったん成年後見人が選任されると、本人の死亡あるいは意思能力の回復などにより、本人保護の必要性が無くならない限り、終了することはないのです。
したがって、単に遺産分割協議のことだけを検討するのではなく、その後の成年後見制度の利用にともなう負担を考慮する必要があります。

参照記事:相続人に判断能力が十分でない方が含まれる場合の遺産分割協議】

3.相続人の中に行方不明者がいる

遺産の分け方は、相続人全員で決定する必要があります。戸籍調査により相続人の存在は判明したものの、その所在が不明で、協議を行うことができないという場合にも、その行方不明者を抜かして分割協議をすることはできません

行方不明者に対しては、不在者財産管理制度を利用するか、失踪宣告により死亡擬制してしまう、という方法があります。
ただし、失踪宣告については、期間や要件をクリアすることの問題に加え、「法律上死亡したことにしてしまう」という心理的ハードルがあり、利用件数はそれほど多くないように思います。

他方、不在者財産管理制度については、少なからず利用がされています。
この制度は、不在者に代わって、その者の財産管理を行う人を裁判所に選任してもらう手続きです。選任された不在者財産管理人は、本人の権利保護を第一として、本人の財産を管理します。

不在者財産管理制度の利用にあたっては、留意点が2つあります。
1点目は、「本人の権利保護」が主目的ですので、遺産分割にあたっても、不在者の法定相続分相当額の遺産の取得を確保するのが原則ということです。
2点目は、不在者財産管理制度の利用にあたって、申立人が相応の費用を負担する必要があることです。

詳しくは、つぎの記事をご覧ください。

【参照記事:相続人に行方不明者が含まれる場合の遺産分割協議】

4.相続人が海外にいる

遺産の分け方は、相続人全員で決定する必要があります。

したがって、相続人が海外に住んでいて遺産分割協議ができないとか、相続人の中に日本人以外の方がいるという場合でも、その方達を抜かして遺産分割協議を成立させることはできません

最近では、海外居住の日本人や、婚姻等の理由により国籍を変更した方が増加しており、海外居住者も含めた遺産承継業務は弊所においても増加傾向です。

(1)海外居住の日本人がいる

海外居住の日本人の方が相続人に含まれる場合、主として問題になるのは「印鑑証明書」をどうすれば良いのかという点です。

昨今は、通信技術の発達により「遺産分割協議の話し合いをすること」はそれほど困難ではないかと思います。
スカイプやZOOMなどなど、遠隔で話し合いができるツールは豊富だからです。

一方で、遺産承継手続きに必要な「印鑑証明書」は国外では発行されていません。
また、国内においても、国内に住所のない方について印鑑証明書を発行する制度はありません。

このような場合には、日本領事館における署名証明や公証役場における本人確認などを利用して、印鑑証明書に代替させます(具体的な対応は、居住国や帰国予定の有無等により変わってきます。)。

(2)海外居住の外国人がいる

海外居住に限らず、外国人の方が相続人に含まれる場合、「遺産分割協議の進め方」「印鑑証明書」の2点が問題となります。

「遺産分割協議の進め方」については、たとえ日本語を理解する方であっても、日本の相続法制と母国の相続法制の相違が大きく、説明に苦慮するケースが多いです。

また、「印鑑証明書」についても、日本に住所があれば印鑑登録可能ですが、国外在住の場合には多くのケースで署名証明を利用します。その際にも、遺産分割協議書を英語等で用意する必要があるなど、特別の対応が要求されます。

法律専門職(たとえば司法書士)のサポートを受けながら、手続きを進めることを、強く推奨します。

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