成年後見人による居住用不動産の売却について

成年後見人による居住用不動産の売却について

2021年4月11日

1.後見人による居住用不動産の売却

後見人がご本人の居住用不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。
必要な許可を得ずに売却を行った場合、その売却行為は「無効」となり、売却代金の返還はもちろんのこと買主から損害賠償を請求されるリスクもあるので注意が必要です。

許可のあるなしが大きく影響してくるため、実務上は「居住用」という言葉の意味を広く理解し、念のため許可を取っておくという対応をとることもあります。

そもそも「成年後見制度ってなに?」という方は、次の記事をご覧ください。
【参考記事:成年後見制度の利用を検討している方へ】
【参考記事:不動産売却にあたり、成年後見人の選任を求められた場合】

2.家庭裁判所の許可(売却処分の「必要性」と「相当性」)

許可を得る場合には、家庭裁判所に対して「居住用不動産処分の許可申立て」を行います。

申立書の中では、「居住用不動産を売却する必要性」「売却内容の相当性」などを、その裏付資料とともに説明し、家庭裁判所の理解を求めます。

居住用不動産は、ご本人にとっては精神的にも重要ですし、財産的価値も大きなものとなるでしょう。
居住用不動産という重要財産の処分にあたっては、慎重な検討が必要であり、そのために「家庭裁判所の許可」が必要となっているのです。

(1)売却する必要性

「売却する必要性」というのは、たとえば「施設入所費や入院費用など、日常生活費を捻出するために必要だ。」といったことをいいます。
不動産は、ご本人が所有する重要な財産であり、必要がないにもかかわらず、不動産を処分することは許しませんよということです。

(2)売却の相当性

「売却の相当性」とは、売却価格などの売却条件が、ご本人にとって不利益となっていないことをいいます。
たとえば、市場価格が1000万円ある不動産であるにもかかわらず、これを100万円で売却することは、あきらかにご本人にとって不利であるので「相当性が認められない」ということになります。

とはいえ「相当」というのは曖昧な概念です。
後見人としては「市場価格」「一般的な取引条件」を確認しながら、自らが行う取引がご本人にとって不利なものをなっていないかをチェックしていくことになるのです。

そうした検討を行ったことを示す資料として、後述のような「不動産売買契約書案」「処分する不動産の固定資産評価証明書」「処分する不動産の査定書」などを添付するのです。

3.居住用不動産の定義について(実質的な判断が必要!)

「居住用不動産」であるか否かを判断するにあたっては、売却予定の不動産の所在が、住民票上の住所に現在または過去になっていたかが一つの指標となります。

ただし、住民票の記載で形式的に判断するだけではなく、実質的に居住用になっているものを含むとされているので、判断に迷う場合には家庭裁判所に相談したり、ケースによっては念のため許可を取っておくという対応をとることもあります

「居住用不動産」には、現に生活の拠点としている建物及びその敷地だけでなく、過去に住んでいた建物等も含まれるとされています。
そうなると、ご本人の実家(ご本人は実家をでて既に50年以上が経過している)を売却する場合なども、「過去に生活の拠点となっていたから」という理由で居住用不動産に該当するのかといった疑問も生じます。

いずれにせよ、繰り返しになりますが、家庭裁判所に相談しながら慎重に判断する必要があります。

4.許可申立てにあたっての必要書類

許可の申立てにあたっては、申立書における「必要性」「相当性」の説明のほか、その裏付資料として次のような書類を添付する必要があります。

  1. 売却不動産の登記事項証明書
  2. 売却不動産の固定資産評価証明書
  3. 不動産会社等の査定書
  4. 不動産売買契約書案

以上のほかにも、事案に応じて資料を添付しますが、上記の書類で、つぎのようなことを確認します。

  • 固定資産評価証明書
    固定資産評価額を確認する。固定資産評価額は、一般的には、地域にもよりますが、対象不動産の最低限の価値を示すものと考えられます。
    固定資産評価により、「相当性」を検討するためのベースとなる金額を確認します。
  • 不動産会社等の査定書
    不動産市場での価格を確認するためのものです。
    なお、単に「査定額」を確認するだけではなく、査定にいたる理由・事情を把握することも重要です。
    とりわけ、固定資産評価額を下回るような金額での取引の場合には、その地域の特殊事情や対象不動産の特徴にも査定書の中で言及されている必要があります。
  • 売買契約書案
    売買価格を含めた契約条件を確認するための資料です。
    なお、「家庭裁判所の売却許可を得てから契約を締結するパターン」と「許可を得ることを条件に代金決済をするとして、許可取得前に売買契約を締結するパターン」があります。
    どちらが正解というわけではなく、具体的事案によって使い分けがなされるものです。
    とはいえ、とくに先に売買契約を締結してしまうパターンにおいては「許可が取得できなかった場合にはどうなるのか」を慎重に確認しておく必要があります。

5.許可取得後の売却手続き

許可を取得後においては、不動産売買契約の締結や代金決済などを行います。受領した代金をもとに仲介手数料や取壊費用など諸費用の支払いが発生するケースもあります。

また、不動産譲渡所得が発生する場合には、確定申告も必要になるなど、売却後においても様々な手続きが必要となってきます。

筆者も、後見業務を通じて複数の不動産売却に関与する機会を得ましたが、こうした経験は後見業務はもちろん、不動産登記・相続業務にも活きる経験となっています。

【参考記事:司法書士による成年後見制度の利用サポートについて】