おひとり様と老後の課題(対応策としての任意後見制度)

おひとり様と老後の課題(対応策としての任意後見制度)

2021年2月14日

老後問題に関するご相談、相続や遺言に関するご相談を受ける中で、「おひとり様」に関する悩みを良く伺います。
記事内の「おひとり様」とは、お子様がおらず、配偶者もいない(あるいは死別した)方を指します。
この記事では、老後において特に重要な問題を生じさせる「判断能力の低下」に備える方策として、任意後見制度をご紹介します。

当事務所では、沼津・三島をはじめとする静岡県東部地域を中心に、「おひとり様」の相続・終活に関するご相談を承っております。
また、相続・終活のサポートはもちろん、後見人に就任するなど後見制度の活用にも対応しております。
これらの経験をもとに、おひとり様と老後の課題について、この記事で皆様と一緒に確認していきましょう!

1.認知症等による判断能力の低下

(1)成年後見制度について

認知症等により判断能力が低下した方の生活を支援する法制度として「成年後見制度」があります。
成年後見制度は、認知症等により判断能力が低下した方に対して、サポーターを選任し、そのサポーターがご本人に変わって財産管理をしたり生活環境を整備したりするものです。

成年後見制度は、大きく2つに分類することができます。
一つは、サポーターとサポーターの権限を裁判所が決定する法定後見
もう一つは、サポーターとサポートの権限を、自ら契約によって決定する任意後見です。

(2)任意後見と法定後見の違い

法定後見は、すでに判断能力の低下が生じたケースにおいて、本人または第三者による裁判所への申立てによって利用が開始されます。任意後見は、将来生じるかもしれない判断能力の低下に備えて、自らサポーター候補者と契約を締結することから始まります。

したがって、おひとり様の老後問題への備えとしては、任意後見の利用を検討することになります。

【もう少し詳しく確認したい場合には → 参照記事:任意後見と法定後見について】

2.任意後見の利用が進んでいない現状

現状において、任意後見の利用は、成年後見制度が制定された当初に予想されていたほどには進んでいません。
利用が進んでいない理由はいくつかあります。
たとえば次の2点を挙げることができます。

  • 任意後見契約の締結に際しては、公正証書による必要がある。
  • 任意後見人(サポーター)のほか任意後見監督人(サポータの監視役)の選任が必須となっており、仮に両者ともに専門家となった場合には、専門家への報酬が本人財産にとって相当な負担となる。

特に報酬の問題は切実で、弊所でも、任意後見契約の締結を検討したものの、この報酬負担を嫌い、契約締結には至らないケースが非常に多いです。
任意後見契約の締結をしていない場合、判断能力が低下した際には、法定後見の申立てをすれば良いとも考えられます。
おひとり様のように、サポーター(後見人)を司法書士等の法律専門職に依頼することが多いケースでは、後見人候補者たる専門家が家庭裁判所の候補者名簿に乗るような者であれば、プラスして監督人が選任されるケースは非常に少ないからです。

ただし、法定後見制度の利用を選択する場合には、「法定後見の申立てを、誰が、いつするのか?その際に、誰を後見人候補者としてもらうか。」を、しっかりと検討しておく必要があります。
この点については、つぎの項目で検討します。

3.法定後見を利用する際の課題

報酬に関する点は、法定後見のほうが有利となるのですが、利用に際して問題があります。
「誰が申立てをするか」「ご本人の希望の的確に把握できるかという問題です。

おひとり様の場合には、ご本人の判断能力が、法定後見を利用するための裁判所への申立ても難しいくらいに低下してしまうケースがあります。
そうなると本人以外の第三者に利用開始の申立てを行ってもらう必要があるのですが、本人に代わって利用開始の申立てができる親族の範囲は法律上で限定されています(配偶者と4親等以内の親族)。

代わりに申立てをしてくれる親族が身近にいれば良いのですが、そうでない場合には「市長申立て」といった手続きを検討する必要があります。
これは、ご本人の居住地の市・町が、本人に代わって利用開始の申立てを行うことをいうのですが、現状ではスムーズに市長申立ての手続きがなされていないという課題があります。

さらに、法定後見の場合には、サポーターの選任はご本人の判断能力低下後に裁判所によって行われます。
サポーター(後見人)が、ご本人の希望や意向を汲んで後見業務を行いたいと思っても、ご本人の判断能力低下後に初めて会うことになるので、うまく意図を汲み取れなかったり、推測で考えざるを得なかったりという事態になります。
任意後見であれば、本人とサポーター候補者は一緒になって判断能力が低下した状況にどう対応するかを事前に検討することになります。この作業を通じで、ご本人の希望や意図は、正確にサポーターに伝達されることになります。
事前の準備として任意後見には大きなメリットがあるのです。

とはいえ、前述のように、費用負担の問題があるため、任意後見契約の利用が難しいというケースもあります。そういった場合には、やむをえず法定後見を利用するとして、つぎのような準備をしておく必要があるでしょう。

  • 「誰が申立てをするか」を決めておく。
  • 「誰を候補者とするか」を決めておく。
  • この2点を、申立人候補者としっかり共有しておく。

4.誰を任意後見受任者にすれば良いのか

任意後見契約を締結するとして、誰と契約を締結すればよいのか、すなわち将来サポーターとなる人をどのように選べば良いのかという点は課題となります。

信頼できる親族がいるのであれば、その方にお願いするのが良いでしょう。
ただし、そもそも頼れる親族がいないとか、いたとしても責任の重さから親族の方が受任者となることを躊躇されることもあります。
そうなると、信頼できる専門家を探さなければいけません。

適切な専門家の見極めのポイントとしては、まず第一に複数回打ち合わせを行い、人柄を確認することです。
自分に代わって、重要な財産の処分や、生活環境の整備を行う人を選任するのです。どんなに優秀であっても、性格に難があるとか、なんとなく波長があわないという人は避けたほうが良いでしょう。

第二に、成年後見人や任意後見人としての活動実績を確認することです。
1点目と逆のことを言いますが、どんなに人柄がよくても(あるいは自身と波長が合っても)、後見業務の経験がなければ、適切なサポートを受けられず、満足度は著しく低下するでしょう。
とりわけ、医療・介護に関する知識は、後見業務の経験の有無で、雲泥の差となります。

5.死後事務委任契約や遺言も検討を

任意後見は「判断能力が低下した場合への備え」となります。
しかしながら、おひとり様にとって備えるべき事柄は、判断能力の低下のみではありません。

ご自身の葬儀や埋葬をどのようにするか検討する必要があります。

一般的に葬儀や埋葬は、配偶者や子供が行うことが多いかと思います。おひとり様の場合には、親族に依頼するケースが多いでしょう。
しかしながら、頼れる親族がいない場合には、これもまた専門家への依頼を検討する必要があります。そして、専門家に依頼する際には、その専門家と「死後事務委任契約」を締結することになります。

【参照記事:終活としての「死後事務委任契約」】

また、ご自身の遺産承継について、遺言を作成することを検討する必要もあるでしょう。
遺言のない場合には民法に従って相続人に遺産承継がなされることになりますが、相続人がいたとしても疎遠となっている兄弟姉妹(または甥・姪)であったり、あるいは相続人がいなかったりということがあります。
とりわけ、相続人ではない親族にお世話になっておりその方に遺産を承継させたいとか、公益団体に遺産を寄付したいという場合には、遺言の作成が必須となります。

【参照記事:終活としての「遺言」】