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子供のいない夫婦と遺言(事例編)
ご相談者はAさん(夫)・Bさん(妻)夫婦。
ご夫婦には子供がおらず、最近TVで「終活」に関する番組を見て、遺言作成等について相談したいということで来所されました。
1.相続関係の整理
(1)相続の順番
まずはAさん、Bさんそれぞれの相続関係を整理しました。
このときにAさんが少しハッとしました。
それは、「Aさん→Bさん」の順に相続が起きる場合だけを考えていて、「Bさん→Aさん」の順番に相続するケースを考えていなかったからだそうです。
Aさんがかなり年上だったので、そうした考えも一理ありますが、将来どのようになるかはわかりません。
相続発生の順番は、遺言作成等の場面で非常に重要なので、いろいろなケースを想定する必要があります。
(2)Aさん死亡時の相続人
Aさんが死亡した際には、まず配偶者であるBさんが相続人となります。
子供がおらず、また父母・祖父母は死亡しているため、Aさんの兄弟姉妹が相続人となります。
Aさんは6人兄弟の末っ子で、既に亡くなっている兄弟が3人います。
ヒアリングの結果、姉のCさんとDさん、亡くなった兄弟の子供であるE・F・G・H・I・Jさんが相続人となることがわかりました。
既に亡くなっている兄弟姉妹がいる場合、その子が代襲して相続人となる点がポイントです。
結論としては、Bさん含め、相続人は9人でした。
(3)Bさん死亡時の相続人
Bさんが死亡した際には、まず配偶者であるAさんが相続人となります。
Bさんについても、子供がおらず、父母・祖父母が死亡していたので、兄弟姉妹が相続人となります。
しかしながら、Bさんには兄弟姉妹がいなかったので、結論として、相続人はAさん1人でした。
2.遺言の必要性
(1)Aさん相続について
上記のとおり、特にAさんの相続が先に発生したケースでは、残された配偶者Bさんは、他の8名の相続人と遺産分割協議をしなければならないことが判明しました。
Aさんの兄弟姉妹は、各人が高齢となり、それほど頻繁に交流があるわけではありません。
ましてや、亡くなった兄弟の子供とは、もう30年近くあっていない人もいるとのことでした。そうなると、遺産分割協議が非常に難航することが予想されます。
配偶者Bさんのためにも、遺産分割協議を省略するために遺言が必須ともいえるとの結論に達しました。
さらに、「Bさん→Aさん」の順番で相続が発生した場合についても、遺言で対応することができれば、残された相続人(兄弟姉妹や甥・姪)は遺産承継手続きが楽になるでしょう。
結論としては、「Bさんに全て相続させる」という内容と「Bさんが既に死亡していた場合に、各相続人が何を承継するか」という内容を遺言において明記することとなりました。
(2)Bさん相続について
「Bさん→Aさん」の順番で相続が発生した場合には、遺言がなくともAさんが単独承継するため、一見、遺言は不要であるようにも思われます。
しかしながら、「Aさん→Bさん」の順番で相続が発生した場合はどうでしょうか。
この場合、Bさんには相続人がいないため、相続人不存在として最終的にはBさんの財産は国のものとなります。
もちろん、「国のものになるのも良いわ」と考えていれば、それでよいのですが、遺言によってAさんの親族に遺贈したり、福祉団体に寄付をしたりすることもできます。
詳細は記載しませんが、Bさんも特定団体への寄付を選択されました。
3.遺言の形式
(1)公正証書遺言がオススメ
弊所では、お客様から遺言に関する相談を受けた場合には、まず第一に「公正証書遺言」による遺言作成をお薦めしています。
これは「自筆証書遺言」と対比して、①形式不備により遺言が無効となる可能性がゼロに近い、②公証役場で保管される、③検認手続きが不要、④金融機関等での遺言執行がスムーズ、といったメリットがあるためです。
(2)Aさん、Bさんの選択は?
結論としては、自筆証書遺言での作成を選択されました。
理由は、①公証人への手数料がかかること、②公証役場での手続きというのが嫌だ、という点です。
とくに1点目については、遺言の書き直しも可能性としてはあったので、なおさら費用面を気にされたのかもしれません。
それぞれのメリット・デメリットを承知した上でのご判断ですので、当事務所もご夫婦の意見を尊重し、自筆証書遺言作成のサポートを致しました。
4.おまけ(成年後見制度について)
ご夫婦の相談の本旨は、遺言の作成だったのですが、打合せを重ねる中で成年後見制度についても話が及びました。
ご夫婦にお子様がおらず、また、それぞれの親族とも親密とは言えない状態であったため、ご夫婦の一方が、たとえば認知症等になった場合のことが心配とのお話でした。
成年後見制度は、判断能力が低下した方に対して法的なサポートを行う制度です。懸念されているケースにおいても、制度利用することで、ご本人にとっても、残された配偶者にとってもメリットがある点をご説明しました。
今回は、遺言作成が主眼であったため、弊所から後見制度に関する説明をして、一旦は終了となりました。
しかしながら、こういった制度があるということを知っているだけでも、将来何かあったときに役立てることができると思います。
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