【事例で考える】子のない夫婦の成年後見・任意後見

【事例で考える】子のない夫婦の成年後見・任意後見

2021年1月31日
守秘義務および個人情報保護の観点から、実際の事案を変更・編集して記載しています。

子のない夫婦の成年後見・任意後見(事例編)

ご相談者はAさん(妻)。福祉関係者からの紹介で来所されました。

主な相談内容は、夫のBさんのこと。
Aさん夫婦には子供がおらず、お二人で生活してきましたが、半年ほど前にBさんが自宅で突然倒れ緊急搬送されました。
脳梗塞によるもので、一命はとりとめたものの、運動麻痺や高次機能障害等の後遺症が残りました。

自宅に戻っての生活が難しかったため、Bさんは老人ホームに入所しました。
諸々の手続きは、福祉関係者の援助のもと、なんとかAさんが対応してきましたが、Aさん自身も呼吸器系の病気を患っています。
体力的にも精神的にも大変だろうということで後見制度の利用を検討していました。

後見制度の利用に向けて、詳細な話を聞きたいというのが、ご相談の趣旨となります。

1.成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症等によって判断能力が低下した人に対する法的なサポーターを選任する制度です。
任意後見と法定後見の2つの種類がありますが、今回の事案だと、Bさんの判断能力低下により任意後見は利用しがたい状況でした。

そこで、家庭裁判所に、Bさんに代わって財産管理や生活環境の整備を行うサポーターを選任してもらう「法定後見」を利用することとなりました。

2.後見人選任までの流れ(家庭裁判所への申立て)

まずは、診断書を取得し、法定後見のうち「後見・保佐・補助」のいずれの類型に該当するかを確認します。
Bさんは、後遺症の程度が重く、後見相当ということになりました。
そこで、後見人選任の申立て準備に入ります。

後見人選任の申立てについては、親族でも配偶者か4親等以内の方でないと申立資格がありません。
子のない夫婦においては、配偶者(今回のケースだと妻のAさん)は申立人となることができます。

申立書類の作成については当事務所にてサポートを行い、準備から2カ月ほどで、成年後見人に選任されました。

3.誰を後見人候補者とするのか?

後見人の選任は、家庭裁判所の裁量によるところですが、候補者をあげることはできます。
後見人になるのに特別な資格は不要ですので、たとえばAさんが候補者となることも可能です。

今回は、Aさん自身の健康上の問題があったため、候補者欄は空欄とし、家庭裁判所の判断にゆだねることにしました。

家庭裁判所によって、家庭裁判所の後見人候補者名簿に記載されている者(司法書士・弁護士・社会福祉士など)のなかから、適任と思われる者を選任します。

4.成年後見人が行うこと

では、選任された成年後見人は、後見人就任後にどのような職務を行うのでしょうか?
実際のところは、選任された後見人の裁量によるのですが、ここでは仮に、当事務所の司法書士が成年後見人に就任したとして考えていきましょう。

(1)財産関係の整理・管理

Bさんが倒れたのが突然であったため、配偶者であるAさんにとっても、Bさんの財産を把握しきれていない状況でした。

そこで、自宅に保管されていた通帳や金融機関・証券会社からの郵送物を頼りに、後見人の資格で調査を行いました。
結果として、判明していなかった定期預金が発見されました。

(2)入所契約・介護サービスの確認

現在Bさんの入所している老人ホームについて、入所契約の確認と、現在提供されているサービスの確認を行いました。
施設相談員と打合せを行い、Bさんの現状と今後予想される問題を共有し、適切なサービスが提供されるようお互いに確認します。

とくに、施設で生活する上での、洗濯や衣服の補充、おむつ等の購入については、従前はAさんにて対応していたようですが、Aさんとも話し合いを行い、施設側での購入サービスを利用することにしました。
また、再度入院した場合など、緊急時の対応についても確認をしておきます。

(3)収支の整理・管理

Bさんの毎月の収入や支出の確認も行います。収入については、年金収入だけでした。臨時収入として、後述の保険金請求による保険金があります。

支出としては、入所している施設の利用料のほか、日用品費、通院費などがあります。
また、Aさんが住んでいるBさん名義の自宅について、固定資産税や水道光熱費、火災保険料なども確認します。
すでにBさんが住んではいないのですが、扶養義務の関係を整理して支出の可否を決定します(この点は、個別事情によるところが大きいので、詳細は省略します。)。

(4)保険金請求

Bさんが契約していた生命保険において、重度障害特約が付帯しており、当該特約に基づいて保険請求ができるか否かを保険会社に確認しました。
確認した結果、保険金がおりるということだったので、入院保障に基づく保険金請求とあわせて手続きを行いました。

4.Aさんについては?

(1)任意後見契約の検討

Bさんについて、財産管理や生活環境の整備は成年後見人として継続して行っていくのですが、心配される点としては、Aさんに万が一があったときの対応が気になります。

この点については、たとえば任意後見契約を第三者と契約し、万が一に備えるということも考えられます。

(2)法定後見の検討

任意後見契約を締結していない状況で、かりに判断能力の低下等が生じた場合には、Aさんに対して成年後見人等の選任申立てをしてくれる人を見つける必要が出てきます(なお、配偶者であるBさんが申立てをすることは、現状の判断能力では難しく、また成年後見人にBさんを代理して申立てをする権限は認められないとされています。)。

このケースでは、近くに住んでいるAさんの姪っ子さんと話をし「申立てであれば対応できるよ」という回答をいただき一安心となりました。

なお、申立てをしてくれる親族等がいない場合には、市町長による申立てを検討することになります(ただし、市町長による後見等申立てについては、各市町によって対応に大きな温度差があります。静岡県東部地域での対応は、一部の市町を除き、安心とはいえない状況です。令和3年8月現在。)。

(3)この他にも・・

この他にも、相続・遺言・葬儀など検討すべきことはたくさんあるのですが、身体的にも心理的にも負担が大きい事柄なので、ちょっとずつAさんと一緒に進めるようことになるでしょう。

何よりも重要なのはご本人の気持ちです。客観的に(法律的に)考えると必要だからと言って、それを当事者に無理強いするようなことは厳に慎まなければなりません。