相続財産の確定(遺産調査)

相続財産の確定(遺産調査)

2021年1月10日

1.遺産調査は非常に重要

(1)遺産の内容は相続人が調べなければわからない!

遺産承継手続きを行うにあたって、「亡くなった方(被相続人)にどのような遺産があるか」というのは、相続人が自ら調査しなければ判明しないことがほとんどです。
(たとえばですが、今この記事を読んでいる方で、お父さん・お母さん・配偶者の正確な財産を把握している人がどれくらいいるでしょうか?)

しっかりとした調査を行わなければ、名義変更手続きを漏らしたまま、後日判明して相続人間でトラブルになったり、判明することなく忘れ去られてしまうこともあります。

そういったことがないよう、少なくとも遺産分割協議を開始する前までに、しっかりとした遺産調査を行うべきです。

そのために、「これをすれば完璧!」というわけではありませんが、ひとつの調査の方法として、財産ごとに調査方法をご紹介します。

(2)「財産目録」があると相続人は助かる

この記事では、相続財産の調査方法について確認していくのですが、本来は相続財産の調査など不要な状況になっているのが一番理想的です。

そして、そうした理想的な状況は、つぎの方法により簡単に実現することができます。

  • 亡くなる前に、自分自身の財産について一覧表(財産目録)を用意しておく。
  • 作成した財産目録の保管場所を、相続人等に教えておく。

財産目録の作成に関しては、つぎの記事もご参照ください。
【参照記事:終活(相続対策)としての財産目録の作成】

この記事では、残念ながら財産目録が用意されていないことを前提に、相続財産調査についてみなさんと確認していきます。

2.相続財産の調査に取り掛かる前に

(1)相続放棄の期限ついて

相続によって承継するのは、プラスの財産だけではありません。

相続により、マイナスの財産(借金)も、当然に引き継ぐことになります。
(プラスの財産だけ引き継ぐということはできません。)

マイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合、借金してでも引き継ぎたい財産がない限りは「相続したくない」と考えるのが普通でしょう。
また、トータルでプラスになるとしても、親族関係等の理由で「相続したくない」という方もいらっしゃいます。

そのような場合には、「相続放棄」の手続きを家庭裁判所に対して行う必要があります。
相続放棄は、相続発生(死亡)の事実を知った時から3カ月以内にしなければなりません。とりわけ、少し縁遠い方の相続をし、遺産調査に日数がかかる場合には、注意する必要があります。

【参照記事:相続放棄について】

(2)遺産調査の限界と相続準備の必要性

遺産調査には、時間も費用もかかります。

身近な親族であっても、亡くなられた方の遺産を正確に把握している人は少ないでしょう。
ましてや、兄弟姉妹の相続のケースなどでは、メインバンクがどこかもわからないのが普通です。

先程も述べましたが、相続人にとって大きな負担となりうる遺産調査を簡単に省略する方法が「自分の財産目録を相続人のために残すこと」なのです。
【参照記事:終活(相続対策)としての財産目録の作成】

遺言を作成するというのは、心理的に負担に思われる方も少なくないのですが、財産目録を残しておくことには、それほど抵抗感はないのではないでしょうか。
ぜひ実践していただければと思います。

3.不動産の名義変更に関して

(1)市町での名寄帳の取得

各市町では、固定資産税の把握のため、固定資産と所有者を紐づけて管理しています。それらの情報を、所有者単位で一覧として発行してもらう書面を「名寄帳」と呼んでいます(市町で多少の名称の違いはありますが「固定資産の名寄帳」といえば通じます。)。

「名寄帳」には、不動産の所在、固定資産税評価、固定資産税額など、のちのちの遺産分割や名義変更(相続登記)に役立つ情報が載っており、非常に便利です。

名寄帳の注意点は、あくまで市町単位での編成になっているため、たとえば沼津市と三島市に所有不動産がある場合には、それぞれの市で名寄帳を取得しなければならないという点です。

(2)固定資産税課税通知書の確認

固定資産税が課税されている不動産については、毎年5月くらいに固定資産税課税通知書が郵送されているはずです。
これをみれば、不動産の所在、固定資産税評価、固定資産税額などが確認できます。

注意点は、固定資産税が課税されていない不動産が記載されていないということです。
この点については、前述の「名寄帳」の取得で対応します。

(3)自宅等で権利証の捜索

自宅や貸金庫などに保管されているであろう、不動産の権利証を捜索し、所有不動産を確認します。

住所のある市町以外の不動産で、かつ固定資産税が課税されていないものについては、権利証が見つからない限り、相続人が発見することは難しいでしょう。

また、権利証だけでなく、自宅に保管されている売買契約書や不動産登記簿謄本などからも、発見できる可能性があります。

(4)登記情報または登記事項証明書で確認

以上の1~3の方法によって、不動産の所在を確認したら、登記情報または登記事項証明書によって、登記されている内容を確認します。

氏名・住所が相違していないか、持分はどうなっているか、所有権以外の登記が残っていないかなどを確認します。

4.預貯金の解約承継に際して

(1)不動産における名寄帳が存在しない

不動産のように、亡くなられた方が保有する銀行口座を、一覧で教えてくれるシステムは存在していません。
従って、銀行ごとに、口座の有無を照会する必要があります。

(2)自宅等で通帳や銀行からのお知らせを捜索

まずは、自宅や貸金庫などに保管されているであろう、通帳や銀行からのお知らせを捜索します。
これにより口座の有無を確認します。

(3)電話での照会に対応してくれる?

「通帳が見つからないけれど、生前の生活状況を考えると、○○銀行に口座があったような気がする。」といった場合には、電話で照会するのも一つの方法です。

金融機関ごとに対応が異なるのですが、亡くなられた方と「氏名・生年月日」が一致する口座の有無は、電話でも教えてくれることがあります。

口座番号や残高等は、別途残高証明書の発行を請求しないと教えてくれませんが、口座のない金融機関を往訪する手間は省けますので、試しに聞いてみるのも良いかもしれません。

電話での問い合わせが不可のところには、支店窓口に行って照会するしかありません。

【注意!】
金融機関に対して口座名義人が死亡した旨を報告すると、その時点で口座凍結がなされます。
以後、遺産承継手続きを完了させなければ、お金を引き出すことも、入金することもできませんのでご注意ください。自動引落しや振込みも不可となります。

(4)残高証明書や取引履歴の取得

〇残高証明書の取得

通帳等が発見されたら、銀行で残高証明書を取得してみましょう。

昔だと、一つの銀行に複数の口座を持っている人もいますし、普通預金だけかと思ったら定期預金もあった、あるいは投資信託があったということもあります。

また、農協や信用金庫においては、出資取引の有無についても確認するようにしましょう。

〇取引履歴の有無

何かしらの理由で、生前の入出金記録を確認したい場合には、取引履歴を取得します。

旧通帳でも確認ができるのですが、旧通帳が残っていない場合もありますし、複数年の記録を確認する場合には、通帳よりも取引履歴のほうが確認しやすいと思います。

一般の相続では、あまり取引履歴を取得することはありませんが、例えば、相続税申告の絡むケースでは死亡前5年分くらいの取引履歴を取得し、死亡前のお金の動きを確認することがあります。

〇各種書面の取寄せに際して

上記のような残高証明書や取引履歴の取得にあたっては、口座名義人の死亡を証明する戸籍や、相続人であることが確認できる戸籍などが必要となります。必要な書類は金融機関ごとに異なるので、事前に確認すると良いでしょう。

なお、これらの証明書類については、相続人全員ではなく、一人の相続人から請求することが可能です。

また、その後の解約・承継に必要な書類も一緒にもらうようにしましょう。
とくに預貯金の場合には、各銀行ごとに書類を提出しなければならず、そのための署名や押印も必要となります。
銀行ごとに、これらの作業を繰り返すのは、相続人にとっては手間なので、署名や押印はまとめて一度で済ませたいものです。

最後に、繰り返しになりますが、金融機関に対して口座名義人が死亡した旨を報告すると、その時点で口座凍結がなされます。
以後、入出金等が不可となりますので、注意してください。

5.上場株式・投資信託の承継に際して

(1)郵便物を確認する

証券会社で管理されている上場株式や投資信託の場合、年に数回は取引通知書が送付されてくるかと思います。
これらを確認することで、株式や投資信託の有無を確認することができます。

ただし、最近では「取引通知書」等もオンラインで確認するのみとなり、紙では通知されないことが一般的になってきています。

通帳の廃止にも通じますが、デジタル化の過程で、相続財産が見つかりにくくなっています。
そのため、「亡くなる前に財産目録を作成しておく」ことの重要性が高まっています。
【参照記事:終活(相続対策)としての財産目録の作成】

(2)ほふりでの照会

上記の方法で、ほとんどの株式・投資信託は確認できるのですが、何かしらの理由で証券会社を特定できないという場合があります。

そうした場合には、「ほふり(証券保管振替機構)」に照会をかけるという方法があります。

照会を行えば、住所・氏名・生年月日が一致する限りにおいて、不動産における名寄帳のように、管理口座のある証券会社や信託銀行を一覧として開示してもらえます。

(3)残高証明書等の取得

〇残高証明書等の取得

口座のある証券会社や信託銀行が判明したら、各金融機関に対して残高証明書・所有株式数証明書・未払配当金残高証明書などの発行を依頼します。

未払配当金残高証明書は、これまで配当等を受領できていなかった場合に、相続時点でどれくらい未受領配当金があるのかを確認するためのものです。

〇各種書面の取寄せに際して

上記のような各種証明書の取得にあたっては、口座名義人の死亡を証明する戸籍や、相続人であることが確認できる戸籍などが必要となります。

必要な書類は証券会社・信託会社ごとに異なるので、事前に確認すると良いでしょう。 なお、これらの証明書類については、相続人全員ではなく、一人の相続人から請求することが可能です。

また、その後の解約・承継に必要な書類も一緒にもらうようにしましょう。
複数の証券会社・信託銀行に株式等が分散している場合には、それぞれに書類を提出しなければならず、そのための署名や押印も必要となります。
これらの手間を省くためにも、必要書類を事前に受領してもらうのが良いと思います。

〇証券口座等の開設について

基本的に、上場株式や投資信託の遺産承継においては、それらを管理する証券会社・信託銀行に、遺産を承継する人の口座を開設する必要があります。

たとえば、亡くなられた方の上場株式がA証券にあり、これを長男様が取得するケースにおいて、長男様がB証券のみに証券口座をもっているとします。
この場合、直接、承継する株式をA証券からB証券に移すことはできません。

いったん、長男様名義でA証券に口座を開設し、遺産承継を行ってから、別途、移管手続きを行う必要があります。

売却する場合も同様で、直接売却してお金だけを受け取ることはできず、まずは株式等を承継したうえで、承継した人が自身の口座で売却手続きを取る必要があります。