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1.相続した土地が先祖名義になっていることを発見!
(1)ご先祖様名義の土地が残っているケースは少なくない
先祖伝来の土地に住んでいる方の中に、土地の名義が曾祖父や祖父のままという方がいらっしゃいます。
本来は、相続が発生した際に相続登記をすべきなのですが、相続登記は義務ではないために、相続登記未了で現在に至る方が少なくないのです。
(相続登記は、2024年4月1日から法律の改正により義務化されます。)
たとえば、こうしたケースがあります。
わたしたちの家屋敷は、曾祖父(ひいおじいさん)の代から引き継いだ土地です。
ずっと子孫が住んできたので、不動産の名義は「大正15年に曾祖父が払下げを受けたとき」から全く変わっていません。
このたび、敷地の一角に、孫がマイホームを建てることになりました。
孫が住宅ローンの相談に金融機関に行ったところ「土地の名義が亡くなられた方のままでは、住宅ローンを利用することができない。」と言わてしまいました・・・。
土地の売り買いをしたり、住宅ローンの借り入れで銀行の抵当権を設定したりということがなければ誰かに指摘されることもないので、ご先祖名義のままになっているのでしょう。
それは、こんなふうにして発見されます。
- 以前からご先祖名義の土地は把握していたが、子供への代替わりに備えて「なんとかしなければ」と対応を考えはじめるケース
- 祖父や父母の相続の際に、相続人が気づくケース
- 敷地上の建物を新築する際に発見されるケース
- 道路建設などの公共工事に際して発見されるケース
とくに4点目の「公共工事に際して発見されるケース」に関しては、東日本大震災後の復興工事において、工事を迅速に進めていく際の大きな妨げになっているとニュースにもなりました。
(こうしたことから「相続登記の義務化」の議論がはじまっています。)
(2)当事務所の紹介
わたしたち司法書士法人貝原事務所は、沼津・三島をはじめとする静岡県東部地域を中心に司法書士サービスを提供しています。
今回の記事でご紹介するような「すこし特殊な相続登記」はもちろんのこと、お子様や兄弟姉妹が相続人となるような相続登記にも対応しています。
【参照記事:相続登記の報酬モデルケース(家族内での相続)】
【参照記事:相続登記の報酬モデルケース(兄弟姉妹間での相続)】
この記事では、相続登記の専門家である司法書士でも大変な思いをすることが多い「ご先祖様名義の土地の相続登記」について、「ご先祖様名義」のままだとどう困るのか、現在の相続人に相続登記するためにはどうすれば良いのか、司法書士の目線で解説していきます。
2024年4月1日からはじまる相続登記の義務化も見据え、「ご先祖様名義の土地の相続登記」について考えてみましょう。
2.名義変更には多数の相続人の関与が必要!
(1)遺産分割協議をして「新たな登記名義人」を決定する
ご先祖様(たとえば曾祖父や祖父)から不動産の名義を変更する際には、その名義人の相続人全員で遺産分割協議をして「誰が新たな名義人となるのか」を決定する必要があります。
この点は、一般的な相続登記と変わるところはありません。
ただし、ご先祖様の相続登記において特殊な点は、関与する相続人が非常に多くなるということなのです。
次の事例をもとにみていきましょう。
【事例】
Aさんの所有する土地の一部は、Aさんの曾祖父の名義となっていた。
この点は、Aさんの亡お父様からも言われていたことであったが、きっかけがなく放置したままにしていた。
最近、ニュースで「所在不明土地」とか「相続未登記」といった問題が生じているのを知り、まさに自分の土地の話だと思うとともに、子供に負担を負わせたくないということで、弊所にご相談にいらした。
(2)数次相続の発生による課題
上記の事例では、Aさんの曾祖父の現在の相続人同士で、遺産分割協議をまとめ、土地の名義変更をする必要があります。
「現在の相続人」としているのは、昔は相続人であったけれど、現時点では亡くなっており、相続権が引き継がれている人がいるからです。
このように、当時の相続人が死亡し、さらに相続が発生しているケースを「数次相続」といいます。
そして「ご先祖様の相続登記」においては、この数次相続が様々なトラブルの発生源となります。
上記の事例において「誰が相続人となっているのか」を次項で見ていきます。
※なお、通常の事案では、旧民法(戦前の法律)が関係してくることが多いのですが、説明の都合上、現行民法をベースとしています。
3.誰と遺産分割協議をすればよいのか
(1)土地の名義人である曾祖父が死亡
土地の名義人である「Aさんの曾祖父」が亡くなられた時点で、誰が相続人であったかを確認します。
このケースでは、「曾祖父の8人の子供」が相続人となっていました(昔は、兄弟姉妹が多かったので8人というのは、それほど珍しくはありません。)。
曾祖父が亡くなった時点での相続人は8人だった。
(2)最初の相続人が更に死亡(2次相続の発生)
Aさんに確認してみると、8名の相続人の全員が、Aさんが相談に来られた時点で、すでに亡くなっていました。
そのため、相続権が、8名それぞれの相続人(配偶者や子供)に枝分かれしていきます。
この時点で、関係する相続人は、35名となりました。
戸籍の調査をしたところ、当初の相続人8名全員が亡くなっていた。
当初の相続人8名の相続人は、それぞれが亡くなった時点で35名であった。
(3)更に更に相続が発生(3次相続の発生)
2次相続の相続人のうち、6名の方が亡くなっていました。これらの方々についても、相続が発生します。
結論として、相談時点での相続人の人数は48人となっていました。
ちなみにAさん自身は3次相続による相続人となっていました(曾祖父→祖父→父→Aさん)。
事案によって、相続人の人数はまちまちですが、ほとんどのケースが10名以上、多い場合には100名近くになる事案もあります。
数次相続においては、ネズミ算式に相続人が増加していくのです。
さらに、現時点においては、またまた亡くなった方が発生していた。
結論として、今回の相続手続きに関与すべき相続人は、総勢45名であった。
4.遺産分割協議ができないケースもある
(1)遺産分割協議が可能か?
上記の事例だと、曾祖父名義の土地をAさん名義に変更するためには、なんと相続人48名の合意(遺産分割協議)が必要となるのです。
親族同士の繋がりが密であると、意外とすんなりいくこともあるのですが、最近では親族同士の交流がないケースも多く、当事者の負担は非常に大きくなります。
Aさんのケースでも、30人程度とは連絡がすぐについて、同意がもらえたのですが、連絡がつかなかったり、話合いに応じてもらえなかったりするかたが十数名いらっしゃいました。
また「交流がなくて連絡がとれない」ということ以外にも、つぎのような課題が発生することがあります。
- 対象となる相続人が認知症をわずらっており、遺産分割協議に参加できるような状態ではなかった。
- 交流のない相続人について、住所等の調査をした結果、10年ほど前から行方不明になっていることがわかった。
こうしたケースについては、成年後見制度や不在者財産管理人制度など、他の法制度を活用しながら、遺産分割協議を進めていく必要があります。
【参照記事:相続人に判断能力が十分でない方が含まれる場合の遺産分割協議】
【参照記事:相続人に行方不明者が含まれる場合の遺産分割協議】
(2)裁判手続きの利用(遺産分割調停や遺産分割審判)
相続人同士での話合いがまとまらない場合には、遺産分割を裁判手続きでおこなう方法を選択することになります。
これが、遺産分割調停です。
なお、遺産分割調停は、ご本人(事例でいうところのAさん)のみで手続きを進めることが可能ですが、当事務所ではあまりお勧めしておりません。
代理人(弁護士)をたてて、任せるところは任せるほうが、当事者の負担も少なく、また望ましい結論に到達できると思います。
もちろん、費用負担の問題、不動産の評価額、その他の事情等を考慮して、代理人(弁護士)をたてずに対応する方もいらっしゃいます。
しかしながら、裁判に携わる負担や時間など、慎重な検討が必要です。
4.相続登記はお早めに
以上のように、数次相続が発生しているケースでは、相続による名義変更の手続きは非常に複雑なります。手続きを進めたものの、相手方に意思能力が無いなどの理由で、手続きがとん挫することもあります。
「相続登記はお早めに」というのは、このように相続関係が複雑化してしまう前に、手続きを完了させるべきということも理由の1つです。
上記の事例では、最後に登記されてから100年ほど登記されていない状況を想定しますが、10年ほどの相続未登記案件でも、親族関係によっては似たような状況になりえます。
すでに数次相続が発生しているなど、手続きに困った際には、是非、お近くの司法書士をご活用ください。