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1.自筆証書遺言による相続手続き
(1)自筆証書遺言を発見しても開封しない!
亡くなった方が残した自筆証書遺言を発見した場合には、どのように取り扱ったら良いのでしょうか。
まず第一に重要なことは「封をしてある遺言を開封しないこと」です。
中身を見たい気持ちはわかりますが、民法は次のように規定しています。
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(民法1004条3項より)
そして、家庭裁判所外において開封してしまった場合には、過料(いわゆる罰金)を科されることになります(民法1005条より)。
とはいえ、ついつい開封してしまったり、遺言と知らず中を開けてしまったりということは、よくあります。
その場合でも、落ち着いて、つぎにご照会する「検認」の手続きに進みましょう。
(2)自筆証書遺言の破棄や隠匿は絶対ダメ!
さらに重要なことは、見つけた遺言を破棄したり隠したりしないことです。
民法では、遺言書を破棄することや隠すことについて、次のように規定しています。
次に掲げる者は、相続人となることができない。
(民法891条5号より)
( ・・・ 1~5は省略・・・)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
なんと、遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿すると、相続人の資格を失ってしまうのです。
(3)まずは家庭裁判所において検認手続きを!
発見した自筆証書遺言は、そのままでは相続手続きを進めることができません。
まずは、亡くなった方(遺言を残した方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「検認」という手続きを申立てます。
検認手続は、公正証書遺言と法務局保管自筆証書遺言以外の方法で作成された遺言書について必要となります。
2.遺産承継手続きのために検認が必要!
(1)検認は「遺言書の保管者の義務」でもある
脇道にそれてしまいましたが、いずれにせよ、自筆証書遺言による遺産承継手続きを進めるにあたっては、その自筆証書遺言について検認手続きをとることは必須です。
むしろ、民法は「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない」と規定しており、遺言の発見者に対して、検認手続きを義務づけているのです。
(2)自筆証書遺言による遺産承継を進めるならば検認は必須
そのため、自筆証書遺言と検認はセットであり、自筆証書遺言を利用して遺産承継手続きを行うにあたっては、検認手続きが必須となります。
遺言書の中に不動産に関する記載がされていた場合、亡くなった方から遺言書で指定された方に対して不動産の名義変更(相続登記)をすることになります。
名義変更の手続きに際しては、遺言書が法務局への提出書類の1つとなりますが、検認を受けていない遺言書では登記申請を法務局に却下されてしまいます。
また、金融機関も、検認を受けていない遺言書による預金口座等の名義変更の手続きは受けつけません。
(3)「検認手続きの完了」≠「遺言書が有効」
検認には、大きく分けて2つの目的があります。
- 相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせる。
- 遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止する。
このうち1点目の「相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせる」というのは重要であり、後から述べる申立時の提出書類にも影響してきます。
注意していただきたいのは「検認を受けること」と「遺言書が有効であること」は同じではないということです。
あくまでも検認手続きは、「検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止する」ものであり、検認した遺言が有効だと家庭裁判所がお墨付きを与える手続きではないのです。
自筆証書遺言では、民法が要求する遺言の要式を備えていないという理由から、検認手続きを経たとしても、遺言による遺産承継手続きを進められないケースが多々あります。
たとえば、つぎのようなものが代表例です。
- 自筆すべきところが自筆ではない。
- 日付の記載がない
3.検認手続の申立てにあたって
(1)管轄する家庭裁判所はどこか
検認手続は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立てをします。
静岡県東部には沼津・富士・下田・熱海に家庭裁判所があります。
各家庭裁判所の管轄は次のとおりです。
- 沼津:沼津市 、三島市、御殿場市 、裾野市 、駿東郡(清水町・長泉町・小山町) 、伊豆市 、伊豆の国市 、田方郡(函南町)
- 富士:富士市 、富士宮市
- 下田:下田市、賀茂郡(東伊豆町・河津町・南伊豆町・松崎町・西伊豆町)
- 熱海:熱海市 、伊東市
管轄する裁判所に対して、必要書類や郵便切手とともに申立てを行います。
(2)遺言者の相続関係を明らかにする戸籍が必要となる
また、検認手続きは「相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせる」ことを1つの目的としています。
そのため、申立人は、申立てにあたって「遺言者の相続関係を明らかにする戸籍」の提出を求められています。
具体的には次のような戸籍です。
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍一式
- 相続人全員の戸籍
- (第三順位の相続人が登場する場合)
遺言者の父母の出生から死亡までの戸籍一式 - (代襲相続が発生する場合)
被代襲者の出生から死亡までの戸籍一式
このほかにも相続人の住民票等の提出を求める裁判所もあります。
こうした戸籍集めは、ときとして非常に大変な作業となります。
【参考記事:相続人を確定するための戸籍収集について】
(3)検認申立てにおいて司法書士の活用を!
司法書士は、検認申立ての申立書作成の代行を業務としています。
また、申立書の作成のみならず、その添付書類を用意するサポートも行っています。
したがい、検認申立てという一見シンプルな手続きにおいても、つぎのような「司法書士を活用するメリット」はあります。
- 申立書の作成をはじめ、添付書類となる戸籍の収集について代行を依頼できる。
- 検認手続きの後の、相続登記(不動産の名義変更)や預貯金の承継についても依頼できる。
当事務所(沼津市の司法書士貝原事務所)においても、検認申立て手続きのサポートを行っています。
とくに「兄弟姉妹が相続人となるため、戸籍収集が大変なケース。」
「その後に、土地や建物の名義変更(いわゆる相続登記)を予定しているケース」に関するご依頼を多数いただいております。
是非、当事務所(沼津市の司法書士貝原事務所)の活用をご検討ください。
4.検認手続の申立ての実際
(1)検認申立ての添付書類
各家庭裁判所の用意する定型の書式に必要事項を記入し、戸籍(遺言者、相続人等々)・住民票・収入印紙・予納切手などとともに申立てを行います。
また、後述するように「遺言者の相続人に対して検認期日の通知」を行うため、遺言者の相続人を確定させるのに必要な戸籍等を収集・提出しなければなりません。
相続人のパターンごとに、必要となる戸籍等が異なります。
一般の方には対応が難しいこともあるかと思いますので、必要に応じて司法書士等の専門家の利用をご検討ください。
(2)検認申立ての費用
検認申立てに際しては、つぎの費用(収入印紙・郵便切手)
収入印紙:遺言1通ごとに800円
郵便切手:相続人1人について 84円切手×3、10円切手×3
また、検認手続き終了後には「検認済証明書」の発行を受けます。この検認済証明書の発行を受けるにあたっては、遺言書1通ごとに150円が必要となります。
(3)検認申立て後の流れ
申立後、書類の不備・不足がなければ家庭裁判所より申立人に検認期日の確認の通知又は電話が入ります。
(とくに戸籍の確認に時間がかかるため、検認期日を確認するための家庭裁判所からの連絡は、申立てをしてから1カ月前後かかることもあります。)
家庭裁判所からの連絡を受け検認期日を調整したうえで、各相続人に検認期日を通知する葉書が家庭裁判所から郵送されます。
5.検認期日において
申立人は必ず、検認期日に申立を行った家庭裁判所へ、遺言書を持参した上で出頭してください。
申立人以外の相続人については、必ずしも出席が必要というわけではありません。
実際の検認手続では、家庭裁判所より保管状況等の確認、遺言書の方式の調査を行います。
6.検認済証明書の発行
検認手続終了後、「検認済証明書」をホチキスと契印で綴じられた遺言書が交付されます。これで手続は終了です。
遺言の執行をするためには、遺言書に検認済証明書が必要となります。
なお、ケースによっては遺言執行者の選任が必要となることがあります。
その場合には、続けて、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任の申立てを行うこととなります。