【比較事例】遺言の「ある・なし」と相続(子どものいない夫婦)

【比較事例】遺言の「ある・なし」と相続(子どものいない夫婦)

2021年6月16日

1.モデルケース(子どもがなく夫婦のみ)

(1)ご相談者から

御殿場市に在住のAさん。ご主人Bさんと二人暮らしです。
夫婦には子供がおらず、Aさんには兄弟姉妹が2人、Bさんには兄弟姉妹が3人います。
親戚づきあいは悪くないものの、遠方に住んでいるため、会うのは数年に一度くらいです。
年齢を重ね、AさんもBさんも、お互いの老後・相続について考えていかなければならないと感じていました。そんなおり、ご友人から当事務所を紹介され、まずは話を聞いてみようということで来所されました。

(2)当事務所から

結論を先に言えば、このケースでは、夫婦で互いに遺言を作成するのが相続対策という意味では非常に有効です。
老後対策としては、家族信託・成年後見・事務委任契約などいろいろなことが考えられますが、この記事では「遺言」にフォーカスをあてて検討していきます。
検討にあたっては、万が一、Bさんが亡くなった(Bさんの相続が開始した)として、どのように相続手続きが進んでいくのかシミュレーションしてみることにしました。

2.遺言のないケース

遺言のないケースでは、次のような流れで、相続開始から遺産承継手続きまで進んでいきます。

  1. Bさんの相続開始
  2. 戸籍集めによる相続人の確定
  3. (場合による)相続財産を調査
  4. 相続人全員による遺産分割協議の実施
  5. 遺産分割協議書の作成
  6. 遺産分割協議書に相続人全員が署名押印(押印は実印)
  7. 相続人全員が印鑑証明書を提出
  8. 各種財産について遺産承継手続き

3.遺言のあるケース

遺言のあるケースでは、次のような流れで、相続開始から遺産承継手続きまで進んでいきます。

  1. Bさんの相続開始
  2. (場合による)戸籍集めによる相続人の確定
  3. (場合による)遺言の検認手続き
  4. 各種財産について遺産承継手続き

なお、遺言に遺産分割方法が記載されていない遺産がある場合には、記載されていない遺産について上記2の手続きを行う必要があります。

4.遺言の「ある・なし」で比較

こうしてみると、遺言のある・なしで手続きに大きな違いがあることがわかります。
とりわけ2-4「遺産分割協議」と2ー6・7「遺産分割協議書への署名押印」「印鑑証明書の提出」は「相続人全員」の関与が必要な手続きです。
Bさんの相続においては、配偶者のAさんとBさんの兄弟姉妹3人が相続人となるので、4名の相続人が手続きの当事者となります。

3「遺言のあるケース」においては、遺言の方式や記載方法にもよりますが、基本的には相続人全員による協議が必要な手続きはありません。
また、Aさん・Bさんのような家族関係においては、シンプルな遺言(詳細は下記の参考記事をご覧ください。)が非常に有効なのですが、そうした遺言があれば、Aさんが単独でBさんの遺産承継手続きを進めることが可能です。

【参照記事:シンプルな遺言について】

5.遺言作成をおすすめ

Aさん・Bさんのような家族関係(お子様がおらず、配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケース)においては、遺言の作成が、相続手続きを楽にする非常に有効な方法となります。
「相続手続きを楽にする」というのは、各種財産の遺産承継手続きが楽にあるというだけではなく、遺産分割協議をスキップできるという強力な効果も含みます。
Aさん・Bさんのような家族関係において、Bさんの遺産形成に、Bさんの兄弟姉妹が貢献してきたというケースは稀でしょう。にもかかわらず、遺産承継手続きにおいて、Bさんの兄弟姉妹の関与が必要となり、場合によっては争い(争族)となるリスクだってあるのです。

是非とも、法律専門職に相談しながら、相続や遺言作成について、検討いただければと思います。