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1.「お子様のいない夫婦の相続」の特徴
(1)「配偶者だけ」が相続するわけではない
ときおり勘違いをされている方がいらっしゃいますが、子供のいない夫婦において相続が発生した場合、残された配偶者(夫または妻)が全ての遺産を相続するわけではありません。
「配偶者総取り」というようなシンプルな相続関係にはならず、むしろ、亡くなった配偶者の兄弟姉妹(さらには甥・姪!)が相続人として登場することもあるのです。
だからこそ、相続に向けて準備(遺言の作成等)をすることが非常に重要となります。
当事務所では、沼津・三島をはじめとする静岡県東部地域において、司法書士サービスを提供しています。
「お子様のいない夫婦の相続」において重要となる、遺言作成・成年後見・遺産承継などの各種手続きを取り扱っています。
この記事では、当事務所の経験をもとに、「お子様のいない夫婦の相続」の特徴、そして最も有効な対応策である「遺言作成」について確認していきます。
(2)遺産分割協議が難しくなるケース ~認知症・代襲相続~
上記のように、残された配偶者だけではなく、亡くなった配偶者の兄弟姉妹が相続人として登場してきたときに、遺産分割協議が困難となるケースがあります。
たとえば、兄弟姉妹の中に、高齢なため遺産分割に関する意思表示ができない方がいるケース。
兄弟姉妹の中で既に亡くなられているため、甥・姪が代襲相続人として登場するなどの理由によります。
そのため、お子様のいない夫婦においては、遺産分割協議を回避するような方策が必要となります。
2.子のない夫婦における遺言の効用
(1)遺産分割協議を省略!
そこで効果を発揮するのが遺言です。
遺言の役割は様々なものがありますが、「子のない夫婦の相続」においては強力な効果を発揮します。
最大のメリットは、兄弟姉妹を含めた遺産分割協議を省略することができるということです。
「子のない夫婦」の相続手続きに関与していると、多くのケースにおいて、相続人全員の合意によって「残された配偶者が遺産の全てを取得する」という内容になります。
むしろ、そうなるのが自然かもしれません。
しかしながら、こうした合意内容になったとしても、たとえば預貯金の遺産承継手続きを行う際には、配偶者以外の相続人の印鑑証明書等が必要となります。
そのため、必要書類や関係者からの署名集めに時間を要するというケースが非常に多いのです。
より困難なケースでは、相続人のなかに認知症等により意思表示が困難な方がおり、その方のために成年後見人を選任しなければならなくなったということもあります。
遺言によって「配偶者が全財産を取得する」としていれば、こうした面倒な遺産分割協議は省略することができるのです。
(2)兄弟姉妹の相続においては遺留分の影響がない!
子や父母が相続人となる場合には、遺言作成においても「遺留分(法律上、各相続人に与えられた最低限の遺産の取り分)」を意識する必要があります。
子がいる相続のケースで、仮に「配偶者が全財産を取得する」という内容の遺言を作成しても、子が遺留分侵害額請求権を行使した場合には、一定の金額を子に支払わなければならないのです。
一方で、兄弟姉妹には遺留分がありません。
したがって「配偶者が全財産を取得する」という遺言を作成しておけば、文字通り配偶者が100%遺産を承継できるのです。
この点は、残される配偶者にとっては、非常に安心する材料となるでしょう。
3.遺言作成時の留意点
(1)お互いに作成
遺言を作成する際に注意したいのは、夫婦でお互いに作成する必要があるということです。
たとえば夫の相続に備えて、夫が遺言を作成(妻が100%取得する内容)していたけれども、思いがけず妻が夫よりも先に亡くなったということもありえます。
相続関係が複雑になりうるのは、夫にも妻にも言えることなので、お互いに遺言を作成し、どちらが先に死亡したとしても、残された配偶者に遺産が行くような形にしておくべきでしょう。
(2)シンプルな遺言の場合には別に財産目録を作る
複数の相続人がいて、それぞれに遺産を承継させる場合には、それなりに複雑な遺言とする必要があります。
しかしながら、配偶者に全財産を承継させるというのならば「遺言者は、配偶者に遺言者の財産の全てを相続させる。」というようなシンプルな遺言でもOKです。
こうしたシンプルな遺言とした場合には、残された配偶者が、遺産の内容を把握できるように財産目録を別途残してあげると親切でしょう。
「不動産は、どこに何筆あるか」「預貯金は、どこの銀行にあるか」「株・投資信託はどこの証券会社に預けてあるか」「貸金庫はどこの銀行にあるのか」などメモ書き程度でも、残された配偶者がゼロから捜索するよりかは何倍も労力が少なくてすむのです。
(3)おひとり様となった場合を想定する
また、お互いに遺言を作成する際には、それぞれが残された側となった場合も想定しておくべきです。
この記事では、「遺言」を中心に検討してきましたが、おひとり様の状況に備える場合には、プラスして対策(任意後見・死後事務委任など)を行うことも必要となります。
くわしくは、次の記事をご参照ください。
【参照記事:子のない夫婦の相続・終活】