叔父・叔母(おじ・おば)の介護と成年後見

叔父・叔母(おじ・おば)の介護と成年後見

相続・遺言

1.単身高齢者の介護(世話)を甥や姪が行うケース

昨今、「生涯独身で子供がいなかった方」「婚姻はしていたが、子はいなかった方」が増加しており、これにともない、甥や姪にあたる方が高齢の叔父・叔母の介護(生活の世話)を行うというケースが増えています。
親族関係の近さでいえば、叔父・叔母の兄弟姉妹(甥・姪の父母)が行うべきとも考えられるのですが、皆さん高齢となったり、すでに亡くなっているなどの理由から、甥・姪が担当するということになるようです。
こうしたケースの延長線上で、弊所にて成年後見の申立てをサポートしたり、実際に成年後見人になったりするのですが、これらの経験を踏まえ、課題となる点や有効な制度をご紹介していきます。

2.いくつかの懸念点

甥・姪が叔父・叔母の生活援助あるいは介護を行う場合に、おじ・おば自身の身体能力や判断能力が十分であれば、法的な問題は生じにくいように思います(それでも、生活援助や介護の負担というのは、相当なものがあります。)。
能力が十分な状態が継続すればよいのですが、高齢になると突然、そうした能力が低下したり失われたりすることがあります。そうした場合に、次のような問題が生じてきます。

(1)財産管理上の問題

おじ・おば自身の判断能力が十分な状態において、甥・姪(以下「援助者」といいます。)が預貯金等の財産管理を行っているケースは稀でしょう。ちょっとした買い物やサービス料金の支払いを、都度お金を預かって行うケースが多いのではないでしょうか。
これらは、おじ・おば自身が自らの判断で金銭管理を行う能力があるということを前提としているのですが、なにかしらの理由で判断能力が失われた場合には、困ったことになります。
まずは、どこにお金があるのかわからないという問題です。事前にどこそこに預金口座があるということを聞いておければよいのですが、そうした準備もなかった場合においては、援助者が財産調査をする必要がでてきます。
さらに、どこの銀行に預金口座があるかわかったとしても、たとえば施設入所や入院等で大きなお金が必要になった時に定期預金を解約したいとなっても、援助者が手続きすることを銀行は認めてくれないでしょう(こうしたユーザー側の不満に対して、銀行では、一定の基準のもと親族に払戻し権限を認める動きもあります。)。

(2)施設入所の際の身元保証

おじ・おばが自宅で生活しているときには良いのですが、身体能力や判断能力が低下してきた際に、老人ホーム等の施設に入所したいと考えるでしょう。その際に、身元保証人を求められることがあります。
「身元保証」といっても使用する場面で様々な意味合いがあるのですが、一般的には、施設利用料の支払い義務、入所中に発生した損害賠償義務、退去時の原状回復義務、入院時や死亡時の対応義務などを入所者と連帯して負担するというものです。このほかにも、緊急連絡先になったり、施設によっては日用品の補充を求められたりということもあります。
援助者が身元保証人になることを納得しており、施設側も援助者(甥・姪)でも良いと認めてくれれば問題はありません。しかしながら、生活をサポートする立場から一歩踏み込んで、施設利用料の連帯保証人になったり、死亡時の引受人になったりすることは荷が重いと感じる方もいらっしゃいます。
身元保証人を立てられない場合には、施設入所を断られることもあります。

(3)死後の相続手続き

身元保証の際に、すこし話が出てきましたが、死亡後の相続手続きにも課題があります。
まず挙げられるのが、葬儀費用等の捻出です。とくに大きなお金が定期預金に入っている場合などは、引き出すのに相続人全員の同意が必要となるのが原則となり、お金はあるけど払い戻しができないという事態となります(例外として、「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」があります。おじ・おばの相続においては、時として非常に有効な制度です。)。
つぎに、遺産分割自体の困難さです。おじ・おばの相続において兄弟姉妹(あるいは甥姪)が相続人となるケースのいては、戸籍調査や遺産分割協議が複雑となりがちです。また、援助者としては、おじやおばの介護への貢献度を、遺産の分割にあたり評価してほしい(承継する財産額に反映して欲しい)と考えることもあるかと思いますが、その思いを他の相続人が評価してくれるかどうかは確定的なことではありません。逆に、評価してほしいという援助者の思いと、兄弟姉妹で平等が原則という他の相続人の思いが、遺産トラブルの原因となりがちです。

3.成年後見制度(法定後見)の活用

懸念点(1)と(2)への対応については、成年後見制度(法定後見)の活用が考えられます。 成年後見制度とは、法律上の意思能力が十分でない方の生活をサポートするための制度です。このうち、法定後見とは、裁判所によって選任された後見人が、法律上認められた代理権を活用してご本人(叔父・叔母)の生活をアシストしていくものです。後見人には、たとえば預貯金の管理や施設との入所契約の締結などを行う権限が与えられています(施設利用料の捻出のため、おじ・おばの自宅を売却したいという場合に、代理して売却することもできます。)。
また、後見人となるために必要な資格があるわけではないので、裁判所が認めてくれれば、これまで生活援助をしてきた甥や姪が後見人になることも可能です。いままでは、事実上行ってきた財産管理に、法律上のお墨付きがつくことになりますし、前述の身元保証の問題についても、後見人がついていれば条件が緩和される施設も多いです。
デメリットとしては、裁判所の監督がつくため、非常に厳格な財産管理が求められることや、想定外の後見人(たとえば司法書士や弁護士等の専門職)が選任されてしまうことが考えられます。
このほかにも、メリット・デメリットはありますし、何より一旦利用を開始すると簡単には「もうやめた」ということができないので、制度利用にあたっては、慎重に検討したうえで後見人選任の申立てをするべきでしょう。

4.任意後見契約の活用

前述の成年後見(法定後見)と類似の制度として、任意後見制度というものがあります。大きな違いは、任意後見においては「サポートしてくれる人を裁判所ではなく自分自身が選ぶ」という点です。
任意後見制度は、ご本人の判断能力が十分な状態において、自分自身で任意後見人を選び、その方と任意後見契約を締結します。任意後見契約の中で、財産管理に関する代理権、施設入所など介護・療養に関する代理権など、具体的にどのような代理権を任意後見人に与えるか決定します。法定後見においては、「誰に」「どのような代理権を」というところは裁判所が決定する事項でしたが、任意後見においては当事者が決定するのです。任意後見人への報酬も、当事者で決定します。
大きなメリットは、サポートする人、サポートの内容を自身で決定できる点です。
デメリットとしては、任意後見人への報酬のほか、任意後見監督人への報酬が発生するなど、費用負担が法定後見に比べて大きくなる可能性があります(任意後見人への報酬をどうするかで変わってきます。)。また、判断能力が低下する前に契約しておく必要があるため、判断能力低下後においては利用することができません。
法定後見制度と異なり「オーダーメイド型」の制度となりますので、法定後見制度以上に、制度の内容や留意点を把握したうえで利用開始すべきものとなります。ただし、よく検討して利用すれば、法定後見制度に比べて、サポートを受ける本人の意思が反映されますので、非常に満足度の高いものとなるでしょう。
おじ・おばの相続の場面では、判断能力が十分なうちに、おじ・おばと甥・姪との間で任意後見契約を締結しておくことで、将来、判断能力が低下した際にも適切なサポートを継続することができます。法定後見とは異なり、甥・姪が確実にサポート役となれる点は大きなメリットとなります。とはえい、利用のためには事前準備が必要となります。

5.遺言の活用

上述の懸念点(3)については、遺産分割協議を省略できるよう、叔父・叔母が遺言を作成しておくことが効果的です。正しい遺言を残しておけば、サポートを受けていた人にとっても、サポートを行っていた人にとっても、望ましい遺産承継が実現します。
とりわけ、サポートを行っていた甥・姪が相続人ではないケースでは、遺言を作成しておかなければ、甥・姪の苦労を「遺産をあげる」という形でねぎらうことはできません。相続人でないものは遺産分割協議には参加することすらできませんから、相続人でない甥・姪に遺産を分けてあげたいというときには、いったん相続人が承継して甥姪に贈与してあげるか、「特別の寄与」という法制度を活用して相続人に対して甥・姪が金銭の支払いを請求するか、など特別の対応が必要になってきます。 遺言については、甥や姪の方がお願いしても、遺言を作成する叔父・叔母が了解しなければ残すことはできませんが、遺言作成を検討すらしなかったケースが多いように思います。一度話し合いをするだけでも、進展があるかもしれません。

この制度に関連する事例