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1.遺産相続手続きの必要性
(1)相続によって遺産承継手続きは強制的にはじまる
いきなり、ちょっと難しい話になります。
相続(亡くなった方の資産などが相続人に引き継がれること)というのは、人が亡くなることによって自動的に発生するイベントです。
法律上で「相続人」に該当する方は、いうなれば法律によって勝手に、亡くなられた方(被相続人)の遺産相続の当事者となるのです。
わたしたち司法書士にとっては、相続や遺産承継は日常的なことがらですが、多くの方にとって、遺産相続の手続きは、人生において何度も経験するものでもありません。
(2)とつぜん始まる相続への戸惑いや不安
遺産相続手続きに対して、つぎのような疑問や戸惑いを感じる方が多いように思います。
- 遺産相続の進め方はどのようにすれば良いのか
- 遺産相続の手続きは、いつまでに終わらせなければならないのか。
- 遺産相続の手続きを、専門家(たとえば司法書士)に依頼することができるのか。
依頼した場合には、どれくらいの費用が掛かるのか。
このほかにも遺産相続の手続きに対する疑問や悩みは少なくないでしょう。
この記事では、遺産相続の手続きの進め方について、ポイントを確認していきましょう。
なお、文章が非常に長くなっています。
記事の上部に目次があるので、気になるところだけでも読んでいっていただければ嬉しいです。
(3)当事務所と遺産相続手続きの関係
当事務所(沼津の司法書士法人貝原事務所)では、相続登記(相続による土地・建物の名義変更)をはじめとする相続に関する手続きのサポートを行っております。
- 相続登記(相続による土地・建物の名義変更)のサポート
- 預貯金の遺産承継
- 公正証書遺言などの遺言作成のサポート
- 成年後見・任意後見の利用サポート
こうした業務の経験に基づいて、遺産相続の手続きについて、皆さんと一緒にポイントを確認していきましょう。
2.遺産相続手続きの「期限」
(1)注意すべき3つの期限
遺産相続手続きを進めるにあたり、いくつか注意すべき「期限」があります。
代表的なものは、次の3つです。
- 相続放棄(相続開始を知ってから3か月以内)
相続人としての資格を放棄するため(相続する負債のほうが多い場合など)に、家庭裁判所に対して行う手続きです。 - 準確定申告(相続開始を知ってから4か月以内)
亡くなられた方(被相続人)の所得税の申告のために行う手続き - 相続税申告(相続開始を知ってから10か月以内)
上記のほかにも、各種行政機関に対する死亡届(たとえば年金)について期限が設けられています。
このうち「相続放棄」「相続税申告」について、詳細を確認したい方は、つぎの記事をご参照ください。
(2)遺産相続手続きはいつまでに終わらせないといけない?
これから確認する「相続した財産を承継するための手続き」については、いくつかの例外を除いて、期限が決まっているわけではありません。
たとえば預金貯金を相続した場合においては、相続手続きを進めず、ずっとそのままにしておいても罰則を科されるということはありません。
例外として、相続登記(相続による土地・建物の名義変更)については、法律改正により2024年4月1日から期限が設けられ、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければいけなくなりました。
とはいえ、このような期限の有無にかかわらず、つぎのような理由から遺産承継手続きは早急に進めるべきものと言えます。
- 時間の経過により相続関係が変化し、複雑になってしまうおそれ
たとえば相続人であった人が更に死亡してしまうケースが考えられます。
このように相続人が更に死亡した状態を「数次相続」といいます。
数次相続の問題については、次の記事をご覧ください。
【参照記事:数次相続について】 - 時間の経過により、相続財産が逸失してしまうおそれ
多くの遺産承継手続きにおいて、対象となる相続財産は、相続人みずからが調査して確認していくこととなります。
相続人による調査は、亡くなられた方が残した資料(不動産ならば権利証、預貯金ならば通帳など)を元に進めていくのですが、時間が経過すれば、こうした資料は廃棄されたり散逸したりするものです。
3.遺産相続手続きの進め方(全体像を確認する)
(1)まずは全体像を確認する
遺産相続手続きについて、細かく確認していく前に、おおまかに全体像を確認しておきましょう。
- 戸籍収集による相続人の確定
- 遺産相続した財産の確認
- 遺産の分け方を決める(遺産分割協議の実施)
- 遺産相続した財産の承継解約手続き
(2)はやめに専門家の利用を検討したほうが良いケース
大きく考えると、遺産相続の手続きは、上記のような「4つのステップ」で進めていきます。
詳しくは、次項以下で見ていくのですが、そのまえに「遺産相続手続きを専門家に依頼したほうが良いケース」を確認しておきましょう。
基本的に、遺産相続の手続きは、専門家に依頼しなくとも対応可能です。
とはいえ、なかには最初から専門家に依頼することを検討したほうが、結果として負担が軽くなるケースがあります。
- 相続税申告が必要となるケース
【参照記事:遺産承継と相続税の申告について】 - 相続人が被相続人の兄弟姉妹となるケース
【参照記事:【モデルケース】兄弟姉妹の相続登記について】 - 相続人の中に認知症の方や行方不明の方が含まれるケース
【参照記事:遺産分割協議について】
4.戸籍収集による相続人の確定(遺産相続の第一歩)
(1)相続人確定の必要性
遺産相続手続きにあたっては、遺言が残されているケースを除いて、相続人全員が手続きに関与する必要があります。
相続(亡くなった方の資産などが相続人に引き継がれること)は自動的に発生するものであり、遺言がなければ、法律で定められた相続人に勝手に承継されるからです。
そして承継された財産のカタマリ(遺産)の分配については、相続人同士の話合いで決定する必要があり、その話合いのことを遺産分割協議といいます。
遺産相続の手続きにあたっては、相続人全員の参加が必要であり、誰が「遺産分割協議に参加する資格があるか」を確定する作業が必要になってくるのです。
(2)相続人確定のための戸籍の収集
誰が「遺産分割協議に参加する資格があるか」を確定する作業は、戸籍を集めることによっておこないます。
多くの方にとっては、「父の相続人は、母と、子どもである私と妹です。」「兄の相続人は、兄弟である私と弟です。」といったふうに、相続人が誰であるのかは明確であるかもしれません。
ところが、世の中には、つぎのようなケースもあります。
- 叔父の相続人になったが、叔父の兄弟姉妹の生死が不明で、誰が相続人かわからない。
- 戸籍調査したら、父(または母)が再婚であったことがわかった。さらに、前婚における子(異父兄弟または異母兄弟)がおり、父の相続においては異母兄弟も相続人であった。
また、遺産相続手続きの相手方となる法務局や銀行においては、みなさんの親族関係は自明のことではありません。
相続人を確定するため、相続人であることを公的に証明するために、戸籍をあつめていきます。
(3)戸籍の収集は大変
相続人調査のための戸籍集めは、つぎのような順番で進めていきます。
戸籍をあつめることで、配偶者と各順位の相続人の有無を確認していきます。
- 亡くなられた方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍一式を集める。
これにより、配偶者と子どもの有無を確認することができます。 - 子どもの現在の戸籍を集める。
子どものなかで、被相続人より先に死亡している方がいる場合には、その子の出生から死亡までの戸籍を集めます。
これにより代襲相続人(孫やひ孫)の有無を確認します。 - (第1順位の相続人がいない場合)被相続人の父母や祖父母の戸籍を確認する。
- (第2順位の相続人がいない場合)被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍を確認する。
これにより被相続人の兄弟姉妹の有無を確認します。 - (第2順位の相続人がいない場合)被相続人の兄弟姉妹の戸籍を集める。
兄弟姉妹のなかで、被相続人より先に死亡している方がいる場合には、その方の出生から死亡までの戸籍を集めます。
これにより代襲相続人(甥や姪)の有無を確認します。
詳しいところは省略させていただきましたが、それでも、わかりにくいところがあったかと思います。
①や②で完了すれば良いのですが、とりわけ兄弟姉妹が相続人になるケースでは戸籍収集だけでも一苦労であることが想像できるのではないでしょうか。
(4)法定相続情報一覧図の活用(遺産相続手続きをスムーズに!)
このような戸籍調査の結果として、相続関係を証明するための戸籍の束ができあがあります。
子どもが相続人となるケースでは戸籍の数が10通程度におさまりますが、兄弟姉妹が相続人となるケースでは、戸籍の数が20通、30通となることもあります。
(ちなみに、当事務所では、兄弟姉妹が相続人となるケースでトータルの戸籍通数が100通近くとなった事案があります。)
そうして集めた「戸籍の束」を読み解くことで相続関係を確定させるのですが、そこには戸籍を読み解き、民法の規定に沿って相続人を特定する専門的能力が必要となります。
そのため、とくに銀行や証券会社などで、預貯金・上場株式・投資信託の遺産承継手続きを進めるにあたり、戸籍チェックに膨大な時間がかかることがあります。
こうした時間を省略化するために活用できるのが、法定相続情報証明制度です。
これは、戸籍の束をもとに作成した相続人の一覧図を、法務局が公的に認証してくれる制度です。
認証された相続人の一覧図を提出すれば、相続手続きを行う金融機関においては、戸籍の束を読み解く必要はなく、一覧図を確認するだけで「誰が相続人であるか」を一目で確認することができるのです。
【参照記事:法定相続情報証明制度について】
5.遺産相続した財産の確認(遺産相続手続きの二歩目)
(1)遺産相続の手続きが必要な財産とは何か
遺産相続の手続きにおいては、原則として、相続人の側から申出や申請をする必要があります。
市民税や固定資産税などの税金は、市町で調査をして、相続人が手続きをおこなっていなくても通知をしてくれます。
一方で、亡くなられた方の保有していた不動産や預貯金について、法務局や銀行が「亡くなられた〇〇さんの財産があるから引継の手続きをしましたよ。」とか「〇〇さんの遺産があるから引継ぎの手続きをしてくださいね。」とは教えてくれません。
相続手続きの基本は「相続人自身が動かなければいけない」というところにあります。
その典型例が、すでに述べた「相続放棄」や「相続税申告」です。
(2)相続財産調査の必要性
また、遺産相続を受けた相続人は「どういった相続手続きを行うのか」についても自分自身で調査しなければなりません。
「亡くなられた〇〇さんの財産は、土地が〇筆、建物が〇個、銀行口座が〇行・・・」というふうには誰も教えてくれないのです。
そんなわけで、相続人としては、まずは亡くなられた方(被相続人)の遺産の内容を調査する必要があるのです。
(3)相続財産の調査は難しい
ところが、この相続財産の調査というのは、意外とテクニックが必要なのです。
相続財産調査にコツが必要な理由はつぎのとおりです。
- 財産ごとに、法務局や銀行などに調査をかけなければいけない。
- とくに銀行の場合には、各金融機関ごとに調査をする必要がある。
- たとえ身近な親族ではあっても、どこに財産があるのかは、意外と知らない。
- ましてや交流の少なかった親族の場合には、なおさらわからない。
相続財産の調査については、つぎの記事でも詳しく解説しています。
是非、ごらんください。
(4)終活の一環として財産目録を用意しておこう
このように、相続人にとっては、ときに大変な作業になる「相続財産の調査」ですが、じつはチョッとした準備で非常に簡単な作業となります。
それは、ご本人が「財産目録」を用意しておくことです。
財産目録といっても、そうたいしたものではなく、たとえば次のようなものです。
”わたしの財産はつぎのとおりです。
(1)不動産
自宅と沼津市の田んぼ
(2)預貯金
静岡銀行と農協と沼津信用金庫
(3)株式
野村証券にすこし
(4)生命保険
日本生命 ”
最低限「どこにあるのか」がわかれば、たとえば預貯金であれば、その銀行や信用金庫に問合せをすれば「どれくらいあるのか」はすぐわかります。
やみくもに調査するよりは、とてもとても楽になるのです。
6.遺産の分け方を決める(遺産分割協議の実施)
(1)遺産分割協議は何のためにするのか
相続人が確定し、相続すべき財産(遺産)も判明したのであれば、つぎに行うべきは「遺産分割協議」です。
被相続人の死亡によって、被相続人の遺産は、いったん相続人に引継がれた状態となっています。
不動産や預貯金は、相続人が複数いれば、その複数の相続人が共有した状態となっています。
遺産分割協議は、この仮の共有状態を解消し、「相続人のうちの誰が、遺産のうちの何を、どれくらい相続するか。」を確定させる作業となります。
そして、具体的な遺産承継手続きにおいては、この遺産分割協議の結果を、「遺産分割協議書」という紙にまとめて、法務局や金融機関に提出します。
それによって、たとえば不動産を「相続人のうちの誰が、どれくらい相続するか。」を確認するのです。
また、遺産分割協議書を提出する時には、遺産分割協議が相続人全員の合意のもとになされたことを確認するため、相続人全員が実印を押印し、その実印にかかる印鑑証明書を一緒に提出することになります。
(2)遺産分割協議の進め方
遺産分割協議の進め方に決まりはありませんが、おさえるべきポイントとしては次のとおりです。
- 相続人全員が参加する。
- 協議すべき財産の種類や内容を、みんなで確認する。
- 協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、実印を押し、印鑑証明書を提出することを先に確認しておく。
相続人全員が参加し、協議する必要があるため、つぎのようなケースでは協議そのものの開催に困難がしょうじることもあります。
それぞれの対応策については、別記事にまとめていますので、詳しくはそちらをご確認ください。
- 相続人の中に、認知症などの理由で、法的な判断が上手くできない人がいる場合
【参照記事:相続人に判断能力が十分でない方が含まれる場合の遺産分割協議】 - 相続人の中に、未成年の方が含まれており、その人だけでは協議に参加できない場合
【参照記事:相続人に未成年者が含まれる場合の遺産分割協議】 - 相続人の中に、行方不明の方がいて、協議への参加を呼び掛けることすらできない場合
【参照記事:相続人に行方不明者が含まれる場合の遺産分割協議】
(3)遺産分割協議がまとまらないときには
話合いをしたけれどまとまらない。
あるいは、以前より関係が悪く、話合いにすら応じてくれないといった場合には、弁護士や裁判所の利用が必要になってきます。
遺産分割協議において、ご自身の代わりに話し合いに参加したり、他の相続人との交渉・協議を行うことができるのは弁護士だけです。
相続手続きにおいて、そうした交渉や協議の必要性があるのならば、はやめに弁護士に相談を行うべきです。
また、そうして交渉や協議をしたものの、合意に至らなかった場合には、裁判手続きを利用することになります。
詳細は、つぎの記事をご覧ください。
【参照記事:遺産分割調停・遺産分割審判について】
(4)遺産分割協議を省略する方法?
なお、こうした遺産分割協議を不要にする方法があります。
それが「遺言」です。
遺言の中で、相続させる財産の行き先を正しく指定してあげれば、遺産はそのとおりに承継されます。
遺言の役割は、亡くなられた方(遺言をのこす方)からみれば「自分の思うように遺産を相続させる。」ことになりますが、相続人の側から見れば「遺産分割協議を省略することができる」「ダイレクトに遺産を受け取ることができる」ということになるのです。
遺言については、つぎの記事に詳細を記載しています。
7.遺産相続した財産の分け方について
(1)相続した財産(遺産)の分け方
相続人が複数いる場合には、共有となった遺産について、遺産分割協議を行い「最終的に誰が、何を、どれくらい取得するか。」を決定します。
その際に、お客様からよく聞かれるのが「どうやって分ければ良いの?」という質問です。
結論から言えば、相続人同士で話合いをして合意することができれば、どのような分け方でも構いません。
一方で、相続税申告が必要な相続の場合には、相続税の観点から分割方法を検討するのも良いでしょう。
ただし、あまりに相続税のことばかり考えていると、その後の資産活用の場面で困ってしまうケースもありますので、バランスをとりながら検討することが大切です。
(2)法定相続分について
「相続人同士で話合いをして合意することができればOK」といわれても、なにかしらの基準が欲しいこともあるかもしれません。
その際には、民法が定める「法定相続分」を参考にしてみると良いかもしれません。
法定相続分とは、相続人ごとに、遺産の共有割合を定めたものです。
遺産分割調停などの裁判手続きで拠りどころとされます。
法定相続分については、くわしくは次の記事を参照ください。
(3)相続した不動産の分け方
不動産の場合には、基本的には相続人のうちの一人が相続するのが良いでしょう。
複数の相続人で共有するということは、その不動産を売却する場合には、共有している相続人全員が手続きに参加する必要がでてくるためです。
また、1つの土地を分割して、それぞれを一人の相続人が引き継ぐという方法も考えられるかもしれません。
しかしながら、この「1つの土地を分割する=分筆(ぶんぴつ)」というのは、実は手続きの面から見ても、費用の面から見ても、そう簡単に実施できるものではないのです。
不動産は、こうした性質をもつため、遺産相続においては「わけにくい財産」と言われます。
そのため、話合いの最初の段階で「不動産を誰が、どのように取得するか。」について決めておくのが、協議をスムーズに進めるコツとも言えます。
(4)相続した預貯金の分け方
不動産と異なり、預貯金は「わけやすい遺産」といえます。
預貯金とは要するにお金なので、簡単に分けることができます。
そのため、預貯金は遺産分割の調整弁として使われることが多いのです。
(5)相続した上場株式・投資信託の分け方
上場株式や投資信託も、預貯金に似た性質を持っているといえます。
複数の相続人で分割して承継することも可能であるからです。
預貯金と少し違うのは、たとえば「株式そのものはいらないけれど、お金としては欲しい。」という場合には、株式や投資信託を売却する手続きが必要になってくる点です。
8.遺産相続した財産の承継解約手続きについて
(1)不動産
不動産の場合には、「登記されている不動産」と「登記されていない不動産」とで手続きが異なります。
「登記されている不動産」の場合には、その不動産を管轄する法務局において、相続による所有権登記名義人の変更(いわゆる「相続登記」)をおこなうこととなります。
いっぽう「登記されていない不動産」の場合には、その不動産の所在地である市役所・町役場において納税義務者の変更届を行っておくと良いでしょう。
この他にも、農地や山林の場合には、市役所等への届出が必要なケースもあります。
(2)預貯金
預貯金の場合には、口座のある銀行に対して手続きを行う必要があります。
そのため、複数の金融機関に口座を持っている場合には、すべての金融機関について承継手続きを行わなければならないのです。
また、とくに沼津・三島地域では、従来あった支店が廃止されたことで、最寄りの店舗が遠くなったということもあります。
郵送での手続きも可能ですが、ただでさえ理解しにくい手続きを郵送で実施するのは、ときに大きなストレスとなります。
同じことがネット銀行にも言えます。
(3)上場株式・投資信託
基本的には、預貯金の承継手続きと同様です。
預貯金と異なるのは、承継する際に、承継する相続人自身が証券口座を開設する必要がある点です。
売却してお金を引き継ぐことを希望する場合でも、いったん証券口座を開設し、開設した口座に株式や投資信託を移したうえで、売却手続きを行う必要があります。
(4)その他の相続財産
その他、遺産承継手続きが必要となるのは、たとえば登録制度がある車や船舶などです。またゴルフ会員権なども場合によっては相続手続きの対象となります。
9.遺産相続手続きを進めるための費用
遺産相続手続きを進めるための費用は、どれくらいかかるものなのでしょうか。
まず前提として、「相続人自身で手続きをするか」「司法書士などの専門家に依頼するか」、どちらを選択するかということです。
ここでは、「相続人自身で手続きをする」という前提で、確認をしていきます。
(1)不動産
不動産の場合には、登記されている不動産と、そうでない不動産で費用が変わってきます。
登記されている不動産の場合には、相続による名義変更(相続登記)を実施する必要があります。
そして、その際には「登録免許税」という税金がかかってきます。
登録免許税の計算は、「固定資産税の評価額」に0.4%を乗じた金額となります(下二桁は切捨て。)。
なお、相続登記の登録免許税については、免税措置が定められており「不動産の価額が100万円以下の土地に関する相続登記については、登録免許税を課さない。」とされています。
ここでいう「不動産の価額」は固定資産税評価額であるので、固定資産税評価額が100万円以下の土地について相続登記をする際には、登録免許税はかかりません。
登記されていない不動産については、相続登記の必要はありません。
一方で、登記されていない不動産については、各市町の固定資産税を管轄する課に対して、未登記不動産の所有者が変更になったことを届出します。
たとえば、沼津市では、つぎのように案内がなされています。
【参照記事(外部リンク):未登記家屋の所有者が変わるとき(沼津市)】
(2)預貯金
預貯金の相続手続きをする際には、費用は必要ありません。
ただし、相続手続きに先立って「残高証明書」(いくら預貯金があるのかを各金融機関に証明してもらう)や「取引履歴」(亡くなった方の取引状況を調べる。相続税申告をするケースで利用することが多いです。)を取得する場合には、各金融機関が定める手数料を納める必要があります。
証明書発行の場合、平均して1通1000円くらいを手数料として定めている金融機関が多い印象です。
取引履歴は、各金融機関によって手数料に差があります。
1件数千円で発行するところもあれば、発行する枚数1枚につき〇〇円とする金融機関もあります。
枚数単位で発行する金融機関の場合には、取引の状況によって、たくさんの履歴が発行され、手数料も高くなるケースがあるので注意が必要です。
(3)上場株式・投資信託
基本的には、預貯金と同じです。
少し異なるのは、たとえば亡くなられた方がA証券に証券口座を持っていた場合には、相続人も一旦A証券に口座を開設し、引継ぐ必要があるという点です。
そのため、「B証券で相続した株式は管理したい」という場合には、株式の移管という手続きをとる必要があり、これには各証券会社所定の手数料が必要となってきます。
(4)遺産相続手続きを専門家に依頼する場合
以上が、相続人ご自身で遺産承継手続きをした場合に、各相続資産ごとに、どういった費用が必要になるのかを整理したものです。
仮に、相続手続きを、たとえば司法書士のような専門職に任せた場合には、その専門職に対する報酬が必要となってきます。
10.遺産相続手続きを進めるための期間
遺産相続手続きに要する期間を考えるにあたっては、遺産相続手続きを4つのステップに分けてみると良いでしょう。
- 戸籍集め
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議の実施
- 各相続財産の承継手続き
(1)戸籍集めに要する期間
さいしょの「戸籍集め」ですが、これは相続関係や本籍地の所在によって変わってきます。
相続人が、配偶者と子のように、シンプルなケースであれば、かりに郵送で戸籍請求をしなければいけないケースであっても、1カ月ほどで完了することが多いでしょう。
一方で、兄弟姉妹が相続人になるケースや、代襲相続・数次相続が発生しているケースでは、3カ月程度かかることもあります。
とりわけ複雑な相続のケースでは、戸籍集めだけで半年近くを要する事案もあります。
(2)相続財産の調査に要する期間
つづいて相続財産の調査については、どの程度調査をするかが、期間の長短に大きく影響してきます。
相続財産の所在を把握しているので、あとは残高証明をとって価格や価値を確認するだけということであれば1カ月もかからず終わることもあるでしょう。
一方で、亡くなられた方と相続人の関係が希薄であったため、遺産の所在がちっともわからない(想定ができない)という場合には、丁寧な遺産調査が必要となってきます。
各金融機関、ほふり、生保協会などへの照会をかけていくと、あっという間に2カ月くらいは経過してしまいます。
(3)遺産分割協議に要する期間
戸籍集めによる相続人の確定、相続財産の調査が完了すると、いよいよ遺産分割協議です。
ここは相続人次第というところが大きいのですが、くわえて相続税申告が関係するケースでは税務的な検討も必要となってきます。
場合によっては、戸籍集めや相続財産の調査を行っている段階で、相続人同士の話合いが済んでいるケースもあるかと思います。
一方で、遺産分割協議において重要なことは「話合い」だけではなく、その協議の結果を「遺産分割協議書」にまとめ、その「遺産分割協議書」に相続人全員が実印による押印をすることが求められている点です。
相続人全員が印鑑証明書を提出する必要もあります。
話合いは済んでいるけれど、遺産分割協議書の作成に手間取ってしまっているとか、
なかなか相続人全員の印鑑証明書がそろわないということもあります。
とりわけ、相続人同士が遠隔地(極端な例を言えば外国にいるなど)に住んでいる場合には、郵送によるやりとりが必要になってくるため、いっそう手間暇がかかることになります。
(4)各相続財産の承継に要する期間
遺産分割協議を完了させ、遺産分割協議書・印鑑証明書の準備が整うと、いよいよ各相続財産の承継手続きに入っていきます。
たとえば不動産について相続による名義変更(相続登記)を行う場合には、相続登記の申請書を作成し、それを不動産を管轄する法務局に添付書類とともに申請します。
各法務局で申請を処理する時間はまちまちなのですが、たとえば沼津の法務局の場合だと、1~2週間というのが平均的な処理期間となります。
不動産取引が活発な、いわゆる四半期末(12月や3月など)の前後では、申請件数が多くなるため処理期間が伸びる傾向があります。
金融機関については、必要書類の提出後、こちらもだいたい1~2週間で完了し、指定口座への振込みが完了するというのが平均的です。
不動産(法務局)と異なり、金融機関の場合には、あまり季節変動がなく、どの時期でも1~2週間くらいで手続きが完了します。
(5)まとめ
以上、各ステップごとに検討をしてきましたが、まとめると、シンプルな相続手続きであれば3~5カ月くらい、少し複雑なケースだと半年くらいと言えるように思います。
当事務所でも遺産承継サポートをおこなっていますが、当初のお客様への説明の際には「一般的には半年くらいかかります。」とお伝えしています。
もちろん、相続した財産や相続人の状況によってかわってはくるのですが、「一般的には」ということであれば、それくらいの期間になるように思います。
11.相続手続きを専門家に依頼する
あらためて相続手続きを「専門家に依頼すべきケース」「専門家に依頼するメリットがあるケース」について確認をしていきたいと思います。
(1)争いや交渉を依頼したいケース
相続手続きにおいて相続人同士で争うことは、できれば避けたいものです。
しかしながら、どうしても争いや交渉が必要な相続手続きは存在します。
もとから親族間の関係が悪かったり、逆に親族間の交流がなく当事者同士の協議が難しいケースなど。
そうした場合には、第三者に相続人との交渉を任せたいということになりますが、この場合の専門家は「弁護士」一択です。
こうしたケースで、弁護士以外の人が交渉を行うことは「非弁行為」という法律違反の行為になるので注意が必要です。
(2)各種手続きを進めるサポートを受けたいケース
相続人同士の争いがあるわけでなく、また協議や交渉についても当事者間で実施するつもりがあるけれど、たとえば戸籍集めや遺産分割協議書の作成などの各手続きをサポートして欲しいというケースがあります。
そうした場合には、たとえば司法書士や行政書士を活用するという選択肢があります。
(3)司法書士を利用することのメリット
あらためてとなりますが、司法書士に相続手続きの代行を依頼することのメリットとは何でしょうか?
人(というより司法書士でしょうか)によって、おすすめポイントは異なるかもしれませんが、当事務所では、次の点をメリットとしてあげさせていただきます。
- 戸籍集めをスムーズに実施することができる
- 相続した不動産の名義変更(相続登記)を任せることができる
- 相続した不動産の名義変更(相続登記)とセットで、金融資産(預貯金・株式・投資信託)の遺産相続手続きを依頼することができる。
- 全体を見通したうえで手続きを進めるので、手戻りがない。
司法書士は、日常的に、相続した不動産の名義変更(相続登記)の手続きを取り扱っています。
そして、この相続登記というのは、相続手続きの基本がギュッと凝縮されたものなのです。
相続登記をしっかりと終えることができるのであれば、金融資産(預貯金・株式・投資信託)の承継手続きも同じような段取りで完了させることができます。
そうした意味で、日常的に相続登記を取り扱う司法書士が、不動産以外の相続財産に関する手続きを取り扱うのも自然な流れと言えるでしょう。
とはいえ、繰り返しになりますが、相続人同士の争いがあるケース、相続人間の協議・交渉を依頼したいケースでは、司法書士に業務を依頼することはできません。
そうしたケースにおいては、弁護士に依頼をするようにしましょう。


